9割のクライアントからの依頼を断った理由
そうですね。そもそも、先程挙げたようなクライアントが皆さん、同じ方向を向いて働ける方々だったというのは間違いなくあるなとは思っています。それができないとチームビルディングができないですからね。担当者や、できれば決裁権者に至るまで、デザインの価値に意識を向けてくれている人たち、デザインの重要性について理解してくれる人たちである、というのがかなり大事な要素だったと。
クライアントを選ぶ基準としてもそういうところを見ていていますね。開発体制や、開発プロセス、スケジュールにそもそも無理のある仕事は、お断りしています。
本当に課題を抱えている企業は、課題感すら感じていなくて。デザインの価値に意識のない経営者やチームを変えていくというところが一番難しい。

中川政七商店とのプロジェクト第二弾。サービスにおけるUX設計からUIデザイン、開発実装までを手掛けた
そう、意識改革。難しいから僕たちが挑戦するんです。
日本のデザイナーのメインストリームは、もともと絵が描くことやモノづくりが好きだったり、グラフィックやアートワークに強みを持つ人たち。彼らは、日本市場の構造上、今までビジネスやマーケティングなどにコミットする機会がそれほど多くなかったと思います。
ところが海外は違うんです。海外のデザイナーはビジネスの話ができる。

はい。ビジネスの話やマーケティングの話が大好きなデザイナーたちがすごく多い。
例えばAppleでインダストリアル・デザイン・グループの上級副社長を務めるジョナサン・アイブ氏。彼が事実上、今のAppleのデザイン哲学を創り上げたと言っても良いのではないかと思います。彼はイギリスのノーザンブリア大学出身でデザインを専攻していましたが、そこで受けたのは「Tシェイプ人間」になれ、という教育でした。
ある一部分ではとがっているけども、それ以外も満遍なくできる人材になれ、と。
デザインの領域でとがっているけども、それ以外の領域もちゃんと話が通じる、カバーできる人材になりなさいという、そういう教育が海外は多分割と主流ですし、ビジネスの場でも実践の場がある。この点が日本は相当、遅れてしまっていると感じますね。


