【連載】grafが手がける、暮らしを豊かにするデザインvol.1 「つくる」と「伝える」

Oct 21,2017interview

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Oct21,2017

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【連載】grafが手がける、暮らしを豊かにするデザイン vol.1 「つくる」と「伝える」

文:
TD編集部

大阪を拠点に、家具の製造・販売やグラフィック、プロダクト、スペースデザイン、コミュニティデザインや地域ブランディング、カフェ運営、食や音楽イベント運営など、暮らしにまつわるあらゆる事柄に取り組むクリエイティブユニット「graf」。1998年の立ち上げ当初から様々な業種のメンバーが集まり「暮らしを豊かにする」デザインを実践されてきました。そんなgraf代表の服部滋樹氏へのインタビューを、3回連載でお届けします。
第1回目の今回は、grafを立ち上げたきっかけについて。今でこそ当たり前になった「協働」でのものづくりの先駆け。なぜ異業種の6人で始めたのか。そこには意外にも「バブルへのアンチテーゼ」があったと言います。

大量生産ではない時代を目指して
これからのデザイナーは、つくるプロセスを更新すべき

これからデザイナーはどんな役割を担っていくと思いますか。

これからのものづくりにおいて、デザイナーは、つくるプロセスを更新するしかないと思います。昔のクライアントは、デザイナーに「とにかく新しいものをつくれ」と言い、デザインコンシャスなものばかりが生まれてきました。

僕らの時代はそうではないです。大量生産ではない方法でものづくりをしなければいけないと思っています。これからのデザイナーは、そういったことも含めてデザインを考えるべきだと思います。

機械化が進んだものづくりの産地に行ってみると「この機械を導入して、職人12人分の人件費をカットできた」と高らかに言っている人がいるんですね。でも、それって喜ばしいことではありません。その職人さんがいなくなったら、そこのオリジナルが無くなってしまうことに気がついていないのです。

grafがデザインした照明「waft」円形のアルミ板を回転させながら“へら”と呼ばれる工具を使って成型する「へら絞り」の加工技術で一点ずつ製作されている。人の手によって感覚的にねじられ、空間を漂いでいるようなフォルムが特長的。
「職人さん自身がオリジナルを生み出していた」、と。

そうです。なので、僕らデザイナーは昔からある技術や素材に合うデザインをするべきなんです。そういった手法を使うと産地も元気になって、見たこともない新しいものが生まれてきます。
言い換えると、「つくり方を変える」もしくは「正す」ことで「アウトプットを変える」ということをするべきなんです。

それがものづくりのプロセスを更新する、ということなんですね。皆さんがプロセスにこだわる理由は何かあるんですか。

もともと僕らは自分たちでものをつくり、売っていました。そんな中でいつも考えていたのは「良いものを作っているんだから捨てられないものにしたい」ということ。
そこで自分たちでつくったもののプロセスやバックグランドをお客さんに説明したところ、彼らの意識が変わることに気づきました。生まれた理由を知った瞬間に「それならこの値段でおかしくないね」と思ってくれる。ここから「プロセスを大事にする」という考えに行き着きました。

プロセスを説明するのは、いわゆる広報の仕事です。デザイナーも広告的な手法じゃなくて広報するほうが大切なんです。つまり「これ、おいしいよ」と伝えるのではなく、「こうだから、おいしいんだよ」と、おいしい理由を伝えてあげるのが大事なんです。もちろんデザインする際は、コンセプトを整理したりコミュニケーションツールを作ったり、それに必要なしつらえ……例えば、プロダクトや、印刷物、Webサイトなどを作ったりもします。でも、それよりもっと大切なのはあらゆる根源をどう伝えて定着させるのか、作ったものが人に届いてどうなっていくかを考えることです。

その人の気持ちがものに刷り込まれていって、愛着が生まれるんですね。その愛着が持てる余白のようなものも、僕らがデザインすることなんです。

余白ですか。

100パーセント完璧なものをつくってしまうと、それは人と生活に結びつかないんです。

観賞用の美術品や工芸品などがそうですね。

そうですね。完璧なプロダクトは人が使うとそのものの良さがかすんでしまう。僕らデザイナーは、使えば使うほど味のあるものに仕上がっていくプロダクトをデザインするべきです。

grafがデザインした器「一二三」。人が集う、その真ん中に存在するような「人と人とをつなぐ道具」がコンセプト。使い込むほどに味わい深くなる貫入が道具としての存在感と愛着を一層のものにしていく。現代の暮らしをふまえつつ、また、日常の生活に根付く道具として伝統的な日本人の発想を新たに見直すようなものづくりを目指したプロダクト。
老舗洋菓子メーカー「Morozoff」のプロジェクト。「morozoff grand(モロゾフグラン)」のデザインディレクションを行なったパッケージなど。「丁寧な暮らし」をコンセプトにブランディングからロゴデザイン、パッケージなどのトータルディレクションを行った。
盛り上がってきたgrafのデザイン論、まだまだ続きます。次回は、grafが現在手がける地域ブランディングのデザインについて深くお話をうかがっていきたいと思います。

※次回「grafが手がける、暮らしを豊かにするデザイン vol.2」 は、10月27日(金)更新予定です。

 

服部 滋樹(はっとり・しげき)

1970年生まれ、大阪府出身。graf 代表、クリエイティブディレクター、デザイナー。美大で彫刻を学んだ後、インテリアショップ、デザイン会社勤務を経て、1998年にインテリアショップで出会った友人たちとgraf を立ち上げる。建築、インテリアなどに関わるデザインや、ブランディングディレクションなどを手掛け、近年では地域ブランディングなどの社会活動にもその能力を発揮している。京都造形芸術大学芸術学部情報デザイン学科教授。

graf

大阪を拠点に家具の製造・販売、グラフィックデザイン、スペースデザイン、プロダクトデザイン、コミュニティデザイン、カフェの運営や食や音楽のイベント運営に至るまで暮らしにまつわる様々な要素をものづくりから考え実践するクリエイティブユニット。 中之島と家具工場のある豊中を拠点に、複数の業種から生まれるアイデアを組み合わせデザインに取り組んでいる。 近年では、生産者や販売者と生活者が新しい関係性を育む場づくりとしてのコミュニティ型プロジェクト「FANTASTIC MARKET」や、滋賀県や天理市をはじめとるする自治体のブランディングなど、新たな活動領域を開拓している。 http://www.graf-d3.com

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