「行きたい場所」の広がりから生まれるカーデザインの豊かさ
人々の意識の中に、たくさんの行きたい場所やポイントをつくれると良いなと思いますね。そうすると移動する意味ができてくるので、モビリティの豊かさも出てくる。実際に行ってみたい場所や、見てみたいものがあると人は足を運ぶと思うんです。今の若者が車を買わない理由は、行き先がないからだと思いますね。ネットなどの情報で満足してしまっているのだと思います。
車だと数人と同じ経験ができる。しかも、300km先にまで、一緒に移動できる。こういった未知への体験の広がりや、人とシェアする空間を楽しむ経験できるっていうことを、もっと広報していくべきなのではと思います。

そうですね。最近販売される自動車は、どの車種もスタイルが似ているものばかりですよね。これって、燃費の問題、安全性能、このレギュレーションが全てを作ってしまっているんですよね。この流れは、少し残念だなと思いますね。車を生み出す前のプロセスに、いかに自分たちの感度やセンサーを傾けるかの方が、大事なのではないでしょうか。
車は居住性も含んでいるものだと思うので、もっと居心地を求めて作るべきなのではと感じます。ヨットとかと同じ居心地の良さを追求してもいい。車の用途によって人が心地よいと感じる空間をリサーチして、身体記憶に寄り添って作ったら面白そうですね。
例えば長距離を走る用途の車は、暮らしの基準値、つまり住空間を考慮すべきなのではと思いますし、逆に短距離を走る車には、乗り物としてのコンセプトや軽快性が必要になります。
このくらいの時間を車で過ごすからこういったエンジンにしよう、だからボディはこんな形にしていこう、というような作り方をすれば、もっと個性がある車が登場してくると思いますよ。そういった「一気通貫している車」が好きですね。
※次回「grafが手がける、暮らしを豊かにするデザイン vol.3」 は、11月3日(金)更新予定です。

服部 滋樹(はっとり・しげき)
1970年生まれ、大阪府出身。graf 代表、クリエイティブディレクター、デザイナー。美大で彫刻を学んだ後、インテリアショップ、デザイン会社勤務を経て、1998年にインテリアショップで出会った友人たちとgraf を立ち上げる。建築、インテリアなどに関わるデザインや、ブランディングディレクションなどを手掛け、近年では地域ブランディングなどの社会活動にもその能力を発揮している。京都造形芸術大学芸術学部情報デザイン学科教授。

graf
大阪を拠点に家具の製造・販売、グラフィックデザイン、スペースデザイン、プロダクトデザイン、コミュニティデザイン、カフェの運営や食や音楽のイベント運営に至るまで暮らしにまつわる様々な要素をものづくりから考え実践するクリエイティブユニット。 中之島と家具工場のある豊中を拠点に、複数の業種から生まれるアイデアを組み合わせデザインに取り組んでいる。 近年では、生産者や販売者と生活者が新しい関係性を育む場づくりとしてのコミュニティ型プロジェクト「FANTASTIC MARKET」や、滋賀県や天理市をはじめとるする自治体のブランディングなど、新たな活動領域を開拓している。 http://www.graf-d3.com


