絵やネーミングできっかけを提示する
デザイナーは、わりとコミュニケーターという立ち位置を求められることが多いんじゃないかなと感じますね。すぐパパッと絵が描けるとか、図を作れるとか、そういうスキルがあると、会議の膠着状態に穴をあけて、前に進むような状況に持っていきやすいんですよね。あとは、ちょっと名前を付けるのがうまいとか。
僕、名前を付けるの大好きなんです。いい名前が付くと、みんなのやる気が出たりっていうのもありますね。例えばトヨタさんのプロジェクトで作ったCamatte(カマッテ)というクルマとか。超小型モビリティのrimOnO(リモノ)っていうのも僕がつけました。乗り物(Norimono)から「No」を取って、rimOnOです。最後にもう1個NOがあるじゃん、っていうオチもありますけど(笑)。zecOO(ゼクウ・電動バイク)やウロボロスなんかもそうです。

いろいろですね。Camatteなんかは、かなり初期の段階で、トヨタの人といろいろ話をしている間に自然と出てきて。デザインより前ですね。ネーミングは難航することもありますが、プロジェクトのコンセプトがしっかりあれば、そこから導けることは多いです。

そこにあるイスはマモリスというんですが、「守るイス」でマモリス。イスの背もたれが防災用ヘルメットと一体化していて災害時にもすぐに装着できます。

そうなんですよ。だけどやっぱり「えっ?」っていう意見もあるわけです。「それダジャレじゃない?」みたいな。だから提案するときはちょっと勇気がいりますね。商品の名前はモノを愛してもらうためのひとつの条件だし、入り口のひとつだとも思うので、すごく大事だと思います。
結果的にデザイナーがそういう役を担うことが多いんじゃないかと思うのは、まさに絵が描けることが大きいんじゃないかと思います。絵を見せると「ああ、それそれ」とか「そんな感じ」となって、求心力が生まれやすいですよね。
例えば、大きな企業のデザイナーさんで「デザインはこうしたいんです。以上!」って突き放す、そういうケースもありますよ。設計の人は「いや、そうはならないんです」ってなって、コミュニケーションが進まない。お互いに意地を張り合って、最終的に「それじゃあ、こういうものにしかなりません」っていうデザインを描くっていう。
これは、さっきも言った「悪い予定調和」でしかないわけです。デザイナーが「本当にこれしかできないんですか?」と相手に問うのであれば、自分も設計のことを勉強して「これならできるんじゃないですか」と提案するべきです。設計の人も「確かにあいつの描いてきた絵はかっこいいから、何かもうちょっと工夫できないかな」って思うのは大事です。どっちが先に心を開くかという話ではありますが、個人的にはやっぱりデザイナーのほうから心を開くべきだと、僕は思っています。
品質・安全と、デザインとのトレードオフをどう解消していくか
サーモスさんって、品質に対して一切妥協のない会社なんです。耐久性の試験もものすごく厳しいんですよ。中に飲み物が入った状態での落下試験とか。中にオレンジジュースを入れて、それが腐ってガスが出ても破裂しないとか。それ、やった人が悪いでしょ、といいたくなるくらいの(笑)。そのくらいお客さんのことや品質、安全について真剣に考えているんですね。そうすると、お察しのとおり、デザインとはトレードオフが発生するんです。そのトレードオフを、両者歩み寄らないまま終わりみたいになると、それが悪い予定調和です。

サーモスさんの場合は、 僕も先方もなんとか理想を実現しようと粘りました。こういうときってお互い「絶対できません」って言うほうが仕事は少ないんですね。僕も「あ、そうですか」と引き下がって、設計者に言われた通りに線を引いた方が仕事量としては減るんです。でも、いいモノができるかどうかは、そこをどれだけ踏み込んでいけるかにかかっています。「これだったらできますか?」「こうしたらどうですか?」と。お互いにどれだけリスペクトし合いながら、やりとりできるか。
そうです。結局、それがあれば乗り越えられます。むしろ意見は違って当然。逆に、最初に自分が思ったとおりのものができあがったら、ヤバイなって思ったほうがいい。自分の頭の中にあったものがそのまま出てきただけなんていうのは、危険な状態だと思うんですよね。
階段を1段も2段も3段も上って、当初は誰の頭にもなかったような、全員が「おおっ」って思うようなところにたどり着きたい。そのためには、チームでのコミュニケーションっていうのは必須だと思っています。


