学生のうちから、いい言葉を引き出す練習を
美大でも、先生に向かってプレゼンテーションする機会はあると思うんですよね。プレゼンって、自分のやったことを周りに納得させるために、先生を何とかしてだますみたいな(笑)。そういう場と思っているかもしれないけれど、そうじゃないんですよね。先生からどれだけいい言葉を引き出せるかという場だと思ってほしいんです。先生の視点から自分の作ったモノを見たときに、どう感じたか。その真意を引き出せないともったいないと思うんですよ。
表面的な勝利をそこで得るのは重要じゃなくて、先生がこれを見て、何を思ってどこがいいと思ってくれているのか、あるいは、どこはダメだと思ってくれているのか。先生はデザイナーとしてプロだと思うので、そこから、どれくらい自分の身になる情報を引き出せるかっていう、そこの勝負を意識してほしいです。
今、学校の話をしましたけど、企業に行っても同じことが起こるんですよね。会社や部署の考えを背負って出て「うちとしてはこうです」、向こうも「うちとしてはこうです」ってやって。「あっちはフォーカードか、負けた……。」みたいな、そういう勝負になりがちなんですけど。そうじゃないと思うんです。仮説は必要ですが、その場でより建設的な方向性を見いだせるかという話なんです。要はさっき言ったように、会議をどれだけ予定調和に終わらせないか、ということ。どれだけみんなで一緒に階段を上れるかってところが勝負だとすると、それは学校で先生へのプレゼンテーションをする場でも同じことですよね。だって得じゃないですか。先生から何かいいアドバイスを引き出せて、「なるほどね」と思えたら。

学校の課題って、終わると「はあーっ」てなって、そこで終わってしまうんですけど、それが実際の仕事になったら、他部署の人かもしれないし、上司かもしれないんだけど、何か言われて、必ずもうひと回しあるわけですよね。だから本当は先生に講評してもらったら、自分でもう一回作り直すべきですよね。その作り直すためのいいヒントを先生から引き出せたかどうか。そこが大切です。とにかく「いいモノを作る」ということの前においては、他のことはすべて優先順位が低い。その場の小さい戦いに勝つこととか、自分の小さいプライドを守るみたいなことなんて、全部優先順位は下です。
プライドを持つなら「いいモノを作る」ってところにプライドを持ってほしくて、その場の戦いに勝つことじゃないんだよって思います。それは、活性化しない会議であるとか、学生さんのプレゼンテーションの発表とか見ていて、たまに感じることがあるんですよ。だから、何か1点崩れちゃうと、全部ガラガラと崩れちゃう。そうじゃなくて、そこは1点崩してもらえたってことが大事で、そこからコミュニケーションをどう引き出していくか、が肝心なところ。「もったいないな」と感じることがありますね。「え、先生、何がダメなんですか」と、にこやかに聞き返すぐらいの気持ちでいてほしいです。そしてこの構図は学生さん特有ではなくて、企業に行っても全く一緒です。
※『根津孝太さん、「いいデザイン」って何ですか? vol.2 モビリティをデザインすること』は11月24日の更新予定です。

根津 孝太(ねづ・こうた)
1969年東京生まれ。千葉大学工学部工業意匠学科卒業。トヨタ自動車入社、愛・地球博『i-unit』コンセプト開発リーダーなどを務める。2005年(有)znug design設立、多くの工業製品のコンセプト企画とデザインを手がけ、ものづくり企業の創造活動の活性化にも貢献。「町工場から世界へ」を掲げた電動バイク『zecOO』、やわらかい布製超小型モビリティ『rimOnO』などのプロジェクトを推進する一方、トヨタ自動車コンセプトカー『Camatte』『Setsuna』、ダイハツ工業『COPEN』、THEMOS ケータイマグ『JMY』『JNL』『JNR』、Afternoon Tea ランチボックス『LUNCH WARE』、タミヤミニ四駆『Astralster』『RAIKIRI』などの開発も手がける。ミラノ Salone del Mobile "Satellite"、パリ Maison et Objet 経済産業省 "JAPAN DESIGN +" など、国内外のデザインイベントで作品を発表。グッドデザイン賞、ドイツ iFデザイン賞、日本感性工学会 かわいい感性デザイン賞 最優秀賞、JAPAN WOOD DESIGN AWARD 最優秀賞(農林水産大臣賞)、JIDA MUSEUM SELECTION、他受賞。2014~2016年度 グッドデザイン賞審査委員。 http://www.znug.com


