審査結果で見えた一般審査委員と専門家の目の付けドコロの違い
さて、本賞の投票は初日のプレゼンテーションを踏まえ、会場に展示された実車を確認しながら行われる。内訳は事前に登録された一般審査委員150名(持ち点1)と、JAFCAの自動車色彩分科会審査委員12名(持ち点30)、およびオートカラーアウォード審査委員3名(持ち点100)の投票によって決定される。
グランプリはマツダ株式会社の「MAZDA3 Fastback」「MAZDA CX-30」が受賞。また、今回は特別賞として三菱自動車工業株式会社の「eK X」、日産自動車株式会社の「DAYZ ハイウェイスター」が選出された。
特別賞は「2つの企業の境界を超えたコラボレーション。形のデザインが共通でありながら、CMF(カラー、マテリアル、フィニッシュ)によって、まったく違うターゲットユーザーに向けたデザインを実現した。“プロジェクトシェア”の先駆けをみせたものとして、高く評価できる」という理由から今回創設された。


審査結果で興味深いのは、一般審査委員ではダイハツの「Rocky」とスバルの「WRX」「BRZ」の人気が高く、グランプリのマツダは3位に止まっていたことだ。このことから、一般審査員からは明快で分かりやすいカラーの提案に点数が集まったと言えそうだ。
一方、CMFのプロである色彩分科会審査委員ではマツダに票が集中した。これは一般審査員とは逆に、まったく新しい提案、これまで見たことのない発想への評価が高かったことを示している。
両賞の表彰の後には、オートカラーアウォード審査委員から講評が述べられた。
まず、島村卓実氏(Qurt Inc・インダストリアルデザイナー)は、グランプリのマツダについては「前々回のロードスターでも「外と中」が繋がっている表現を提案しており、今回もポリメタルと内装の赤の組み合わせが極めて印象的」と語った。
また特別賞の日産と三菱について「1台のクルマにおけるCMFの可能性を感じ、協業の好例になった」とした。
賞外では、トヨタRAV4の「変化する外装色や内装パーツ色の統一感」を評価。また、カワサキW800の「ライフスタイル自体をコンセプトに捉えた点がユニーク」とした。さらに、トヨタSUPRAとヤマハNIKENのマットな色使いや、スズキクロスビーの3トーンが印象的で興味深かったとした。今後の方向性として、環境を意識したCMFについてどのような可能性があるのかを期待したいと語った。
松田朋春氏(株式会社ワコールアートセンター シニアプランナー)は、全体としてプレゼンテーションの巧さが光っていたと述べ、グランプリのマツダについては「『造形とCMFは一体』という哲学が一貫しており、外装と内装の質感の追求が際立っている」と評価した。
一方、特別賞の日産と三菱は「マツダとはある種、対照的。純粋にカラーデザインの可能性を感じた」という。
賞外ではトヨタSUPRAとカワサキW800について、これまで見たことがなかったモノが市販を前提に表現できていることが素晴らしいとした。また、ホンダFREEDの公共空間やデザインホテルのようなインテリアは、たとえば知人の家族などに積極的に勧められるよさがあるとした。
大澤かほる氏(JAFCA クリエイティブディレクター)は、審査委員の共通認識として「今回はCMFの原点回帰であった」とした。5Gの本格的普及やそれによるインフラ、モビリティの変化など、100年に一度の変革期とされる現在。たとえばVRを筆頭に脳内ですべてを理解できる時代に、あえて手を使った仕事、リアルなモノへの回帰が絶対的に必要なものとして求められているとした。その分、今回はメッセージ性が際立っており、考え抜かれたものが多かったという。
グランプリのマツダは「プロの視点を感じるもので、一般のユーザーには思い付かない発想が評価点」とした。また特別賞の日産・三菱については「メーカー再編の中で何ができるか、協業のひとつのカタチを示すことができた」とする。
最後に「日本のモノ作りは素晴らしいが故に『性能のいい下請け』になりつつあることに危機感を感じる。今後のCMFは、圧倒的に突き抜ける発想やモノが必要になるのではないか」と締めくくった。

受賞プレゼンテーターに独自インタビュー
表彰式の後は懇親パーティが開催され、各社のデザイナー同士の情報交換などが賑やかに行われた。まず、グランプリのマツダから宇多川舞氏と寺島佑紀氏の両氏に話を聞いた。
宇多川:講評で大澤氏が今回はCMFの原点回帰と語っていて、自分としてもしっくりきました。マツダは「カタチ・色・素材が一体」という想いでクルマ作りをしています。そこに実直に取り組んでいることが理解してもらえたのではないでしょうか。
プレゼンも、今回はあえて内容を絞ってボディ色の品質感と内装とのコラボレーションを訴えました。メッセージ性を強くしたことが届いたのではないかと思います。
宇多川:たしかに以前までは、カラーといっても単にインテリアデザイナーが描いたスケッチに塗り絵をするだけ、というイメージがありました。
それがMAZDA3からはチーフデザイナーから「素材で造形を作ってくれ」という要望が出された。堅い・柔らかいという質感をカタチで示すのは難題ですが、モデルを作り込んでインテリアデザイナーと意見を交わし続けました。
「素材で造形を作る」と言葉にすると難しいけれど、これは多くの人が日常で感じていること。たとえば、湾曲したカタチにストレートの木の模様を付けたら気持ちが悪いですよね。そういう、「自然界で起こりえない」ことはしない。だから、実は本質的にはとてもシンプルなことだと思っています。
寺島:そこは思ったとおりです(笑)。そのくらいイイものを作っているという認識でやっていますから。
むしろ、一般審査員票が3位だったのが意外でした(笑)。実は、こうした「渋い提案」が一般の方々に理解していただけるのかという不安もありました。もう、0か100かと思っていましたから余計に嬉しいですね。
寺島:当然ですけど色の力は大きいですよね。クルマを見るときはカタチよりまず色が響く筈です。CMFという言葉は広くは知られていないけれど、陰に隠れているという意識はないですね。これからは、たとえば家の中のCMFをクルマに取り入れるとか、発想の幅がどんどん広がるんじゃないでしょうか。

次に、特別賞の日産から呉綾花氏に同様の話を聞いてみた。
呉:プレゼンや講評にもあったとおり、日産と三菱の2社でここまで異なる表現ができたことだと思います。言ってみればCMFの力だけでここまでのことができるということですね。
呉:そうですね。グランプリのマツダさんは玄人好み。実は自分も好きだった色なんです(笑)。両社とも一般ユーザーに向けてはいますが、マツダのユーザーさんとは明らかに異なる層に響いていると思います。
呉:それはまったく関係なかったですね。逆に軽を作っている感覚は両社ともなかったんです。実際には細かい制約はありますが、変な話、今回は予算的にも余裕がありました(笑)。ユーザー、市場が求めているのであれば、使うべきところにはコストをしっかり掛けるべきです。
呉:想像以上にありましたね。とたえば、三菱さんのファブリックの目指す質感が当社とは真逆だったりとか。日産は緻密、繊細でシャープ、三菱さんはラギットでタフ、遊び心を取り入れるといった感じです。当初は相当な部分を共用する予定でしたが、それでは会社にもユーザーにもいい結果にならないだろうと。そこは大きな収穫です。
呉:一般のユーザーはCMFという言葉は知りませんが、実際には普段から接していますよね。たとえば”100円ショップ”の商品の広大なバリエーションを支えているのはCMFのチカラとも言えます。つまり、そもそも皆に根付いた感覚なんです。今回の賞のようにCMFで世界は変えられるはず。可能性は無限に広がっていると思います。

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本連載ではオートカラーアウォードを切り口として自動車・二輪メーカーのCMFデザインについて考えてきた。取材を通じ、CMFデザインは今や、多くのメーカーのデザイン全体の考え方や姿勢に影響を与えていることに気付かされた。どんな色や素材を組み合わせるかといった「コーディネート」の領域をはるかに超え、プロダクトデザインにおける開発姿勢がどうあるべきなのかということにまで踏み込んでいる。各社のプレゼンテーションからは、CMFデザイナー自身が商品開発におけるリーダーシップを発揮していることが随所に見られ、頼もしささえ感じた。
CMFがデザインの差別化要素として機能する流れは、他業界のプロダクトデザインにおいても加速していくだろう。
本連載の第一回で、大澤かほる氏は「CMFとは、感情に影響を与え、生活を変化させるものである」と述べた。それはそのまま、デザインの現場が今、求めているものであると言い換えることもできそうだ。なぜならモノが溢れる現代において、感情にも生活にも変化を与えないモノに、人々は所有欲求を掻き立てられないからだ。
「これを持っていることで、人生が少しだけ豊かになる」。そういうモノに、私たちは愛着を感じる。そんな「愛着の持てるモノづくり」に大きく寄与しているのがCMFデザインの力なのだ。TDではこれからも、様々な切り口からCMFデザインを追い続けていきたい。

