カーデザイナー垂涎、アメリカ文化に浸る1ヶ月。CCSワークショップ報告会レポ

Mar 09,2018report

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Mar09,2018

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カーデザイナー垂涎、アメリカ文化に浸る1ヶ月。 CCSワークショップ報告会レポ

文:
TD編集部

アメリカの自動車文化の中心地、デトロイト。毎年夏、この地でプロのデザイナー向けに「Cultural Immersion Workshop(文化体験型ワークショップ)」が開催されています。参加者は日本、韓国、中国などの自動車関連企業に勤めるデザイナーたち。本場アメリカの自動車文化にどっぷりと浸かりながらイメージを膨らませ、スケッチやモデルを作る。そして最後に英語でプレゼンテーションするという、濃密な一か月です。そんなCIWに参加したデザイナーたちが成果を発表する報告会が2017年12月22日、JIDA主催で開催されました。その模様をレポートします。

(TOP画像)ヘンリーフォードミュージアムの看板娘! 1950年代の「The Oscar Mayer Wienermobile
©︎Gregory Varnum by Wikimedia Commons

アメリカの自動車文化に「浸る」プロデザイナー向けワークショップ

アメリカの自動車文化を自分の目で見て肌で感じることは、カーデザイナーとしての引き出しを増やす上で大きな経験になるはずだーー。
そんな考えから、デトロイトにあるデザイン学校「The College for Creative Studies(CCS)」は、自動車会社や部品メーカーなどで活躍するプロのデザイナー向けに、アメリカの自動車文化を体験する「Cultural Immersion Workshop(CIW、文化体験型ワークショップ)」を毎年夏に開催している。

ワークショップの紹介(CIW特設サイトより)。これを見るだけでワクワクしてくる

一般の人たちはおそらく、見たことも聞いたこともないであろうこのワークショップ。
デザイナーなら参加したいと思わざるを得ない、いやデザイナーでなくとも参加したいと思ってしまう、とにかくめちゃくちゃ豪華で魅力的なコンテンツが盛り沢山なのだ。
TDは、このワークショップの「報告会」が東京で開催されると聞きつけ、足を運んだ。

CIWの資料より。

ワークショップ前半はインプットの日々。
リサーチ旅行と豪華講義が感性を刺激する!

この日の報告会はJIDA(公益社団法人日本インダストリアルデザイナー協会)の主催で実施された。参加者のほか自動車業界関係者や大学関係者も多数顔を揃え、会場には少しピリッとした空気が流れていた。
2017年のCIWには、日本、韓国、中国から20名が参加した。担当する講師は伊藤邦久(クニ伊藤)氏だ。オペルやGM、童夢、フォード、北米日産などで活躍し、現在はCCSでトランスポーテーション学科教授を務める。

約1ヶ月のワークショップ期間中、前半2週間は「インプット」の期間。参加者たちはアメリカの自動車文化体験とスキルの研鑽に没頭する。その中心となるのが、約10日間にわたるリサーチ旅行である。日頃、馴染みの薄いアメリカの自動車文化にどっぷりと浸るのが旅の目的だ。

このリサーチ旅行の目的地を挙げるだけでも、感性を刺激されるデザイナーがいるのではないだろうか。
インディ500で有名なインディアナポリス・スピードウェイでNASCARレースを観戦したり、世界最大級のオシュコシュ航空機ショーを訪れたり。
シカゴの有名建築物の見学、ヨットレース観戦、メジャーリーグ観戦、きわめつけはクラシックカーの祭典『コンクール・ド・エレガンス』の見学など盛りだくさんである。

アメリカの空気を肌で感じるだけでなく、歴史にも触れる。
ヘンリーフォード博物館ハーレーダビッドソン博物館国立アメリカ空軍博物館といった「博物館」も、訪問先としてプログラムに入っている。
単に自動車関連の場所やイベントを訪れるだけでなく、アメリカの人々の自動車観に影響を及ぼす「ライフスタイル」や「歴史」を肌で感じることで、アメリカのカーデザインを深く理解できるようになるのも隠れた狙いだ。

リサーチ旅行の合間にはCCSの教授陣による講義も用意されているのだが、その面々がまた眩しい。
例えばデザイン開発の基調講演を務めたTim Flattery氏は、伝説的なSF映画「トロン」をはじめ「バック・トゥー・ザ・フューチャー2」「バットマン」「トランスフォーマー」など数多くの映画に登場する車両のコンセプトデザインに携わった人物。
他にも米フォードのAmaury Diaz氏によるペーパーモデル作り、Brian Baker准教授による自動車デザインやアメリカン・ブランドの歴史、クニ伊藤氏によるマーカーレンダリングやテープドローの実演なども実施された。

やっぱりプロだ…! 
2週間で作り込まれる未来のジオラマ

後半2週間は、いよいよ今まで学んだことを「アウトプット」する期間。
メンバーは4つのグループに分かれ、それぞれの課題に対してリサーチ旅行での体験を元にアイデアを出し、デザインを通じた問題解決に挑む。

今回設定された課題は「五大湖周辺の水辺のまち」「レーシングカー・デザイン」「都市交通システム」「モビリティデザイン」。いずれも、ちょうど「25年後」である2042年の未来を舞台としている。

まるで、夏休みの短期留学のよう。「プロデザイナーの自由研究」だな。

まずは作品の舞台となるジオラマをグループごとに作成。その上で、それぞれが自分なりのモビリティのアイデアを出してスケッチを描き、モデルを作る。
これをわずか2週間でこなすのだから、かなりハードだ。 
また、コミュニケーションもプレゼンテーションももちろん英語で行われる。

多様なバックグラウンドを持つメンバー同士がチームを組めば、反対意見や違う視点の意見ももちろん出てくるだろう。いつもとは異なる環境で自分自身のデザインを主張する。他のメンバーに対してリスペクトを持って議論を交わす。そして、より価値の高いデザインへと磨きこんでいく。
このチャレンジを乗り越えた参加者たちは、国際感覚を身につけ、デザイナーとしても大きく成長するという。

4チームそれぞれの作品を発表。一体どうしたらこれが2週間で完成するんだろう…

今年参加したメンバーは、この日の成果報告会で口々に「アメリカの自動車文化の奥深さ」について語った。
人々のカーレースNASCARへの熱狂ぶり、クラシックカーのパレードランへの地元住民の関心の高さ、飛行機と自動車とのデザイン的な関連性など、生活の中に自動車文化が深く根づいている空気を感じたという。
そして、ひときわ盛り上がったのは参加者たちが現地で感じた「アメリカ車の魅力」についてのエピソード。
「日本にいるときは大型のピックアップトラックや派手なトラックなどに魅力を感じたことは無かったが、スケールの大きなアメリカの景色の中で見る『アメ車』は本当にかっこよかった」、との声もあった。

「いちばん見せたい部分だけ」を丁寧に描く

報告会の最後には、クニ伊藤氏がクイックスケッチを実演。
キャンソン紙の地色を活かしつつ、マーカーや色鉛筆、パステルを駆使して着色し、わずか20分ほどの短い間にスケッチを仕上げていた。

クニ伊藤氏のスケッチ

伊藤氏が強調していたのは「一番見せたい部分だけを丁寧に描く」ということ。
人間の目は、見たいものに焦点を合わせるため、周辺視野はぼけて見える。だからすべてをていねいに描き込む必要はない。むしろ見せたい部分だけに集中して描くことで自然とそこに見る者の視線が集まる効果もあるという。
目の前で魔法のようにスケッチができあがっていく様子に、会場の誰もが見入っていた。

本気で楽しみ、本気で学び、本気で作り込む1ヶ月。
自分のデザインスキルを使いこなし、そのスキルを貪欲に高めていくことで世界中に仲間ができて、世の中にも喜ばれる……。
デザイナーっていいなぁと、なんだか改めて思った報告会であった。

アメリカは、世界中に自動車を普及させるきっかけとなった「T型フォード」の生まれた国。
これはヨーロッパにも言えることだが、クルマの歴史が深い国々では「自動車業界」という概念を越えて自動車が「文化」にまで昇華しているのを感じる。
そんな「文化」の中心に浸る。このワークショップに参加したデザイナーたちの脳内に期間中どれだけの刺激が溢れていたか、想像に難くない。

ちなみにこのワークショップは今年も開催予定だ。カーデザイナーでなくとも、インダストリアルデザインに関わる方なら参加できるとのこと。
いいなぁ、今年の夏は同行取材、行きたいな! (アピール)
まだ詳細な情報は公開されていないが、限られた席なのでぜひチェックするべし。

 

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