5年ぶりの「デザインあ展 in TOKYO」展示作品よりも心に残ったもの

Sep 07,2018report

#Design_Ah!

Sep07,2018

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5年ぶりの「デザインあ展 in TOKYO」 展示作品よりも心に残ったもの

文:
TD編集部 青柳 真紗美

NHK Eテレの人気教育番組『デザインあ』。その世界を体感できる「デザインあ展 in TOKYO」がお台場の日本科学未来館で開催中だ。「デザインはデザイナーのためのもの」「普通の私がデザインについて語るなんておこがましい」と思っていた筆者の考えを大きく変えたメッセージが、ここにあった。

デザインマインドを伝える、8年目の教育番組

デザインにかかわる仕事をしている人なら一度は耳にしたことがあるであろう、NHK Eテレの『デザインあ』。「子どもたちの未来をハッピーにするデザイン的思考(デザインマインド)を育む教育番組」として2010年9月5日にパイロット版を放送後、2011年4月2日に本放送を開始した。総合指導はグラフィックデザイナー・佐藤卓氏、映像監修はインターフェイスデザイナー・中村勇吾氏、音楽ディレクターはミュージシャン・小山田圭吾氏が手がけ、大人にもファンが多い。
番組では「身の回りに意識を向け(みる)、どのような問題があるかを探り出し(考える)、よりよい状況を生み出す(つくる)という一連の思考力と感性」を「デザインマインド」と捉え、斬新な映像表現を用いて伝えてきたという。

そのデザインマインドを体験できる展覧会として開催されているのが、この「デザインあ展」だ。
2013年に開催された前回展に訪れたのは22万人。モンスター級のイベントになったと当時も話題になった。
そんな「デザインあ展 in TOKYO」が開催されているということで、遅ればせながら遊びに行ってきた。

「デザインを語る資格なんかない」と思っている全ての人に読んでほしい

会場はお台場の日本科学未来館。特設展のスペースに足を踏み入れると、最初に待ち受けるのはディレクターたちからのメッセージだ。
はじめに言おう。今回の展示の中で最も心に残ったのは、ここで目にした中村勇吾氏からの「みるのはわたし」というメッセージだった。

会場に入ってすぐ、待ち受けるメッセージ

「つくる」ことのほとんどは「みる」ことです。あたらしいなにかをつくるためのきっかけは、これまでのわたしがみてきた物事の中にあります。
(中略)
わたしたちの身の回りには、さまざまな美しさ、面白さがたくさん潜んでいます。その中で、何か一つでも、誰にも教えられずに、わたしだけの目で「みる」ことができたとしたら、それはもう、わたしだけにしかみえない、わたしだけの世界になります。みることを深く楽しんで、わたしだけの世界をどんどん豊かにしてください。そうしたら、かならず、なにかをつくってみてください。それをみんなにみせてみてください。豊かな「わたし」がつくったものはきっと、それをみる次の「わたし」も豊かにしていくはずです。

(中村勇吾)

これは「子どもたちへ」という注釈付きで書かれているが、どうだろう。大人が読んでも、ぐっとくるのではないだろうか。

私はこれまで編集者として、TDの企画で多くのデザイナーたちと一緒に「デザインにおいて大切なことはなんだろう?」と考えてきた。
美大出身でもなければデザインを語ることもできない、単に「美しいものや便利なものが好き」レベルの私。取材を通じて出会う人々が語るデザイン論には共感するものの、なんとなく「かっこいい人たちがかっこよく語る言葉」だと思い込んでいて、自分自身がデザインについて考えたり語ったりすることには気後れしていた。でもこのコメントを読んで、一気にデザインが身近なものに感じられたのだ。

コンセプトや意匠を研ぎ澄ましていくための「コミュニケーション」や、それを体現するための「モノづくりのスキル」。これらがデザイナーたちの手腕を決める部分だと思っていたけれど、スタート地点はもっともっと手前にあった。
「みる」、つまり観察することがデザインのスタートだという発想は、正直言って今までなかった。私が取材したデザイナーたちにとっては当たり前すぎて、言葉にするまでもなかったのかもしれない。

誰にも教えられずに「みる」ことの面白さ。
「みる」ことを純粋に楽しむことで得られる豊かさ。
そうして得られた豊かさを次世代につなげていくということ。

私はいつも「デザインは得意な人の(ための)もの」という感覚を持っていた。デザインを得意としない人はデザインに参加できない、デザインを語る資格はない、と心のどこかで決めつけていたのだ。まずはしっかりと「みる」ところから始めればいい。それなら私にもできそうだ。

もちろん、デザインをなりわいとしている人たちと同じ土俵で話ができるとは思わない。プロのデザイナーたちの卓越した「みる」チカラと「つくる」チカラは、才能だけでなく血の滲むような努力の上にあるものだ。しかしレベルはどうあれ、私にだって「みる」ことを楽しむことはできる。
もしかしたらこれが、私にとって初めての「みる」体験になるかもしれない。そんな期待を胸に、1つ目の展示スペースに歩みを進めた。

「観察」「体感」「概念」から成る3つのスペース

現れたのは「観察のへや」。身の回りにあるモノ・コトから、「お弁当」「マーク」「容器」「からだ」「なまえ」の5つを取り上げる。それぞれのテーマがデザインによってどのように繋がっているのかが、「みる」「考える」「つくる」といったステップで紹介されている。

マークを自分で作るブース。子どもが群がっていた。

次に現れたのは「体感の部屋」。暗幕をくぐって真っ暗なスペースに進むと、展示室の四方の壁いっぱいに映像が映し出される。
上映されたのは、番組でもおなじみの「森羅万象」「ガマンギリギリライン」「解散!」。それぞれ、デザインの面白さを体感できる1分半ほどの映像だ。テレビの画面で観るのとは異なり、360度を取り囲む映像と音とがシンクロし、一気に引き込まれる。
番組を見ている人はもちろん、初めて観る人にとっても映像芸術の「楽しさ」とデザインの「面白さ」に触れることができる展示なのではないだろうか。

映像や音楽も「デザインあ」の醍醐味!

最後にたどり着いたのは「概念の部屋」。「くうかん」「じかん」「しくみ」の3つのテーマで構成されている。
場、時の流れ、人やモノの動き……。確かに、私たちはこれらが「デザインされている」ことを日頃あまり意識しない。
デザインを考える上で行き着くところは概念なのだという制作者側の意図を強く感じた。ただ、子どもたちにはちょっと難しいのではないか。私が小学生なら確実にスルーする。

「歯車」とか「分岐」とか、子ども達にわかるのだろうか……。

他にも、至る所に「体験できる」展示が溢れていたのも印象的だった。これは子ども向けの展示ならではだ。飽きない工夫が施されている。

年代もバックグラウンドも異なる12名が12方向からデッサンをする「デッサンあ」や、円や線を組み合わせて家紋を描き出す「もん」など、番組でも強いインパクトを放っていた企画を来場者が体感できる仕掛けが施されていた。

大人の多さに驚き。これが「おかあさんといっしょ」や「シャキーン!」の展示ならこうはいかないだろう。

さて、私は「みる」体験ができたのかどうか。
正直なところ、人が多すぎて、展示そのものを集中して「みる」のは難しかった。ただ「このデザインはこういう風に分解して考えることができるんだな」「こういう見方もあるんだな」という新しい視点を得ることはできた。
今回得た新しい視点によって、すぐに私のデザイン思考が発動するかはわからないが、なんとなく「デザインとの距離」が縮まった気がする、そんな1日だった。

デザインあ展 in TOKYO
会期:2018年7月19日~10月18日
会場:日本科学未来館 1階 企画展示ゾーン(東京都江東区青海2-3-6)
電話番号:03-5777-8600
開館時間:10:00〜17:00(土、祝前日 〜20:00、常設展 〜17:00)※入場は閉館の30分前まで。
休館日:火
料金:19歳以上 1600円 / 小学生~18歳以下 1000円 / 3歳~小学生未満 500円 / 2歳以下無料

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