空飛ぶクルマに月探査船!IFAで発見した日本発の乗り物スタートアップ

Oct 11,2019report

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Oct11,2019

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空飛ぶクルマに月探査船! IFAで発見した日本発の乗り物スタートアップ

文:
TD編集部 出雲井 亨

空飛ぶクルマ、月面探査ローバー、ドローン…。ドイツ・ベルリンで開催された世界最大級のエレクトロニクスショー、IFAには、日本からもユニークな技術を持つ会社が出展した。その中から、モビリティに関わる先進スタートアップをピックアップして紹介する。日本にもこんな会社があったのか! ときっと驚くはずだ。

※情報開示:筆者は記事中で取り上げたダイナミックマップ基盤株式会社の一部資料の作成をサポートしています。

「掘り出し物」満載の特設エリア

世界最大級の家電ショー、IFA(ベルリン国際コンシューマー・エレクトロニクス展)2019 がドイツ・ベルリンで2019年9月6日から11日まで開催された。スマホやパソコンといったハイテク機器、カメラ、オーディオ機器、冷蔵庫や洗濯機といった家電製品、さらにドローンや電気スクーターなど、膨大なエレクトロニクス製品が集まる見本市で、なんと25万人近くが訪れる。

訪れる人々も多様だ。ビジネスマンはもちろんのこと、社会科見学なのか小学生の集団がいたり、小さい子どもと一緒の親子連れ、カップルなども目立っていた。家電の展示会といえば毎年1月にアメリカ・ラスベガスで開催されるCESが有名だが、IFAはCESよりも消費者の生活に密着した家電が中心となっており、最新の製品を手に取って見るチャンスということで、ビジネスの枠を超えたエンターテインメントとして楽しまれているようだ。
そんなIFAには、ソニー、サムスン、フィリップスといったグローバルメーカーはもちろん、新進のベンチャー企業も小規模ながらブースを構えて製品を展示しており、そんな小さなブースを巡って掘り出し物を見つけるのも楽しみのひとつ。IFA NEXTという特設エリアには、ユニークな技術や製品を持つスタートアップが集まっている。

2019年、IFAは、はじめてパートナー国制度を導入した。選ばれた国はIFA NEXTにパビリオンを構え、その国の選りすぐりのスタートアップを集めて紹介するという趣向だ。そして初年度のパートナー国として選ばれたのは、日本。ということで経済産業省とJETROの主導の下、日本の新進スタートアップ企業20社が選定され、ドイツで世界に向けてその技術をアピールした。

ジャパン・パビリオンの20社のうち、モビリティに関わる「#move」に分類されたのは5社。いずれも「日本にもこんな会社があったのか!」と驚くようなものばかり。さっそく紹介していこう。

特許の重心制御技術を世界に売り込むエアロネクスト

真ん中に黒い棒が突き刺さった、奇妙なドローンを展示していたのは、エアロネクスト。実はこれ、画期的な重心制御技術を搭載したドローンなのだ。

4D GRAVITYを実演するエアロネクスト代表取締役CEOの田路圭輔氏

一般的なドローンは、機体に直接プロペラがついている。このため前後左右に移動するときは機体全体を傾ける必要がある。ところがエアロネクストのドローンは、プロペラやモーターなどの「飛行部」とカメラや荷物などを搭載する「搭載部」が分離され、ジンバル(姿勢を一定に保つ装置)で接続されている。これにより「搭載部」を常に水平に保ったまま飛行できるというわけだ。この技術を同社では「4D GRAVITY」と呼んでいる。

その効果は、上の動画を見ていただければ一目瞭然。どんなに飛行部が動いても、搭載部はピタリと動かない。重心が安定するため姿勢変化に強く、安全性が高い。さらにモーターを安定して稼働させられるためエネルギー効率も向上するという。

宅配・物流に使うドローンは、搭載する荷物の種類によって重心が変わる。そんなときでも、4D GRAVITYを使えば重心を制御できるため、安定した飛行が可能だ。常に水平を保てるため、測量や360°カメラの撮影といった用途にも役立ちそうだ。
デモを見て、正直「こんなにすごい技術なら、ほかのメーカーもマネすればいいのに」と思った。そこがエアロネクストのユニークなところで、同社は社内にIP(知的財産)の専門チームを置いて、4D GRAVITY技術をの特許でしっかり保護。そしてドローン市場にライセンス提供することで、迅速に世界中に普及させようとしている。

代表取締役CEOの田路圭輔氏は、EPG(電子番組ガイド)を手がけるIPG社で長く社長を務めた。EPGは特許で技術を守りライセンス提供する代表的な知的財産ビジネスであり、そのときの経験が現在のビジネスに存分に生かされているという。

4D GRAVITYという画期的な発明を、知財管理のプロフェッショナルチームがしっかりと守りながら普及させていくエアロネクスト。既に中国の産業ドローン大手である科比特航空科技(MMC)や、センシンロボティクスのような国内のドローンメーカーと業務提携を行っている。10月15日からはじまるCEATECでは「エアモビリティに新たな革命を起こす新モデル」を発表する予定で、ますます目が離せない存在だ。

夢のクルマが現実になる!? スカイドライブ

隣のブースにあったのは、未来のスポーツカーのような模型。これ、実はスカイドライブが開発する「空飛ぶクルマ」のモックアップ(※デザインの試作段階で制作される模型)だ。スカイドライブは自動車メーカーのエンジニアによる有志団体が母体となって立ち上げられたスタートアップ。トヨタ自動車やパナソニックなどからも支援を受けている。

スカイドライブの福沢知浩氏は海外メディアにも引っ張りだこ

空飛ぶクルマなんてまだまだ先の話でしょ、と思っていたが、開発は思ったよりも進んでいた。まだボディをかぶせる前のフレーム状態だが、すでに実物大の飛行実験には成功。年内には有人飛行実験も実施するそうだ。現在の試作機は重さ300kgで、70kgまで積載可能とのこと。

空飛ぶクルマのスケールモデル。2020年夏のデモフライト、2023年の発売開始に向けて、開発を進めている。

それにしても、なかなかスタイリッシュなデザインだ。有人ドローンというと、もっとヘリコプターのような姿のものばかりだが、スカイドライブのモックアップはひと味違う。その理由を代表取締役である福沢知浩氏に聞いてみたところ、「走ってかっこいい、飛んでかっこいい」ことを目指したためだとう。低く地面に張りつくようなサイドビューは、クルマそのもの。やはりというかデザイナーは元トヨタとのことで、単なるドローンではなく、あくまで「空飛ぶクルマ」なのだ。

福沢氏は「ここからが大変」と気を引き締める。アメリカ、ドイツ、中国など各国に強力なライバルがいる。それに製品化までには、法制度、安全性の確保、量産など課題が山のようにあるからだ。
取材後の2019年9月30日、同社は15億円の資金調達を発表。これで、いよいよ試作機の制作が加速していくはず。子どものころ誰もが無邪気に夢見た「空飛ぶクルマ」が、夢物語ではなくなってきたな、とうれしくなった。

月の開発を本気で目指す宇宙ベンチャー、ispace

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