デザイナー待望、メタリックカラーの塗料見本!「アルゴ」の勉強会に参加してきた

Sep 21,2018report

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Sep21,2018

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デザイナー待望、メタリックカラーの塗料見本! 「アルゴ」の勉強会に参加してきた

文:
TD編集部 青柳 真紗美

2018年9月12日(水)、公益社団法人日本インダストリアルデザイナー協会/JIDAのスタンダード委員会により、日本ペイント株式会社から発売されたメタリックカラーの塗料の見本帳「アルゴ」についての勉強会『メタリックカラー見本帳で初の109色!』が開催された。その様子をレポートする。

プロダクトデザイナーを悩ませるメタリックカラー

プロダクトデザインを支える「塗料」。なかでもメタリック塗料のカラー見本帳はこれまで色数も少なく、システム的に整理されていなかった。デザイナーたちは、ドイツのRALと自動車補修の見本(オートペイントカラーズ)を買い揃え、それらを参考に色を決定することが通例だったそう。

そんな現状を解決するために開発されたのが日本ペイント株式会社の『nax FORMULA argo(ナックス・フォーミュラ・アルゴ/以下アルゴ)』だ。
メタリックカラーは見る角度によって表情が変わる。カタログなどに印刷された見本では正確な色合いがつかめずデザイナーたちをイライラさせてきた。
そういったニーズに応えるべく「実際の塗料」で塗ったメタリックカラー109色、ソリッドカラー87色が収録されている。この109色はRALの70色を超えており、もしかしたらメタリックカラーの色見本としては世界一の色数かもしれない。

2018年9月12日(水)、公益社団法人日本インダストリアルデザイナー協会/JIDAのスタンダード委員会により、この「アルゴ」についての勉強会『メタリックカラー見本帳で初の109色!』が開催された。実際の塗料を用いたカラーガイドの開発理由と、収録したカラーラインナップの背景にあるいくつかの業界のカラートレンドなどが紹介された。その様子をレポートしよう。

メタリックカラーの色見本で「色彩の価値向上」をはかる

この日集まった参加者は、JIDA会員のデザイナーを中心に10名ほど。アットホームな雰囲気の中、勉強会が始まった。

プレゼンテーターは日本ペイント・インダストリアルコーティングス株式会社 デザインセンターの小林広典氏、日本ペイント株式会社 販売企画部 マーケティングG 山本陽子氏、日本ペイント株式会社 販売本部ARI 販売部 長澤康広氏。

小林氏は「売り場で商品を手に取るとき、最初に消費者の目に飛び込んでくるのは『色』です」と、色の重要性について力説。

「商品購入者は、まず自分の好きな色や欲しい色があるかを探し、見つかったところで機能面などの詳細を確認する。一方商品開発側は機能面から固めていき、色は最後にマーケティング担当者が決定することが多い。つまり、購入者側と商品開発側では、色彩を判断するプロセスが異なっているんです」とも語った。

これまでメタリック塗料の色見本が少なかった理由

プロダクトデザインの現場においてメタリックカラーは欠かせない存在だ。しかし国内ではインクの印刷用色見本がメジャーで、これまで塗料の色見本は少なかった。

では、なぜメタリックカラーの見本が少なかったのか。その理由の一つに、メタリックの特性がある。
メタリック塗料は、アルミフレークと呼ばれる微細なアルミ粒子を透明の樹脂に混合したもの。見る角度によって色味が変化し、独自の風合いが生まれる。
この風合いは、塗料の色だけでなくアルミ粒子の大きさやコーティング・下地の色など塗装条件(塗装の仕方)などによっても大きく変わってくる。
こういった特性により、体系的に表されたメタリックカラーの色見本がほとんどない状況が続いていた。
ではデザイナーたちがどうしているのかといえば、冒頭で紹介した通り、毎年更新される自動車補修用の塗料見本などを見ながら色を考えていくのだという。
例えば赤であれば「2015年のフェラーリの赤をもう少し暗く……」とか「やっぱりもう少し同年のアルファロメオっぽい赤で……」といったオーダーになる。もちろんこれもやり方の一つではあるが、やはり色の彩度・明度などで整理された色見本を参考にしたい場面も多いだろう。

そこで日本ペイント社が開発したのがアルゴだ。
開発のきっかけはシンプル。
「わかりやすいメタリックカラーガイドはなんで無いんだ?」
という、現場の声から生まれた。

アルゴではメタリックカラーが色相・彩度・明度で体系的に構成されており、「グレイッシュなメタリック/パール」「こだわりのメタリック色」「有彩色系メタリック色」「無彩色」「有彩色」といったカテゴリに分けられている。
今回のバージョンはトラックや広告車両などのデザインへの用途が想定されており、例えばシルバー系統は明度順に21色、パールホワイト系統は色相で7色が収録されていたり、3コート色は下塗り色まで表記されているなど、現場のデザイナーの使いやすさが考えられていた。

小林氏は「商品購入のプロセスを考えると、色彩を含む意匠はモノの第一印象に関わるため、非常に大事。しかし日本国内における『色の価値』に対する関心はまだまだ低いように感じます。今回発表したアルゴを通して、日本のプロダクトデザインにおける色の価値を上げていきたい」と語った。

「それらしい色」が業界ごとに存在する

続いて話題はカラーポピュラリティ考察に移った。
日本ペイントホールディングスグループ各社では、色開発のために独自のリサーチやフィールドワークを行っている。
例えば自動車であれば国内外のオートショー、カスタムカーの現場、オートカーアワードなどにも赴いて色を測る。

業界を横断してみると、よく使われる色のトーンには傾向があり、家電には家電の、建築には建築の「業界らしさ」が表れている。モノにはモノの佇まいがあり、それらしい色があることに改めて気づかされたという。

他にも、色を用いて特定の商品やキャラクターを連想させる例や、ある一車種のクルマの色がそのメーカーのブランドカラーになっている現状なども挙げながら、近年重視されるようになってきたCMFの重要性についても触れた。

第二弾、第三弾に寄せられた期待

日本ペイント社が手がけてきた最近の事例などの紹介が済んだところで、会の進行は質疑応答へと移った。
質問を促すと、参加者のうち数名が、業界統一の塗料見本が少ないことでいかに苦労してきたか、胸の内を吐露。
「今までは実質的に、毎年発行される自動車補修用の塗料の色見本しか現場で使えるものがなかった。しかし、海外の工場、デザイナー、メーカーなどでそれぞれ『この年の色見本は持っていない』といったトラブルが発生し、毎回ストレスになっていた」「これが五千円で購入できるのは嬉しい」など、塗料の色見本を多くのデザイナーが待ち望んでいたことがわかるエピソードを述べていた。

また、発売されたばかりのアルゴを実際に手にとった感想も多数寄せられた。
「メタリックカラーの場合は表面に塗るクリアコートの種類(つや消し・つや出し)やアルミ粒子の大きさ、向きによって色の表情が大きく変わる。だからこそそれらが比較できるようなパターンになっていると嬉しい」といった具体的な要望には、他の参加者も賛同。
今回を皮切りに今後、より多くのカラーパターンが発表されることへの期待も高く、そういった声に対し、小林氏ら日本ペイント社の面々が真剣に頷いていたのが印象的だった。

勉強会終了後も、参加者とプレゼンテーターは会場に残り、30分ほど意見交換を重ねていた。
デザイナー側は塗料に関する日頃の疑問や鬱憤を、塗料メーカー側は色開発に対する想いをそれぞれざっくばらんに話していた。お互いの想いを聞ける場は貴重だったのではないだろうか。

主催したJIDAスタンダード委員会の活動目的は「デザイナーのために素材や技術の情報を提供し、共有化することでデザインのレベルアップに繋げ、日本デザイン界の地位向上に貢献すること」。
日本ペイント社はアルゴの開発を通じてこれまで整備されていなかった「メタリック塗料の色見本」という領域に挑戦している。デザイナーたちに提供すべき情報として同委員会の目に止まったのだろう。
ちなみに、アルゴはJIDA DESIGNERS SHOPでも購入可能。 今後の展開は未定とのことだが、同社にプロダクトデザイナーたちから大きな期待が寄せられていることは間違いない。是非とも第二弾、第三弾へと挑戦してほしい。

 

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