「モノの展示」から「未来の体感」へ。これからのモーターショーを考える

Oct 13,2018report

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Oct13,2018

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「モノの展示」から「未来の体感」へ。 これからのモーターショーを考える

文:
TD編集部 青柳 真紗美

フランスのパリ・モーターショーの閉幕とともに2019年が近づいてきた。来年は「5大モーターショー」のうち4つが開催されるモーターショーイヤー。前回の東京モーターショーを振り返り、これからのモーターショーへの期待をまとめた。

5大モーターショーだけじゃない! 世界で開催される国際モーターショー

2018年10月14日に会期を終えるフランス・パリの国際モーターショー「モンディアル・ド・ロトモビル」。各社のコンセプトカー発表やコンコルド広場でのクラシックカーパレードなど、自動車系メディアでは連日その様子が報じられた。
TDのアリ編集長も現地に赴き、Facebookでプレスデーの様子などをつぶやいていた。

TDのFacebookページ。編集長のつぶやきが読めます。

国際モーターショーは世界各国で開催されている。
その中でも、2019年に開催される主なものは以下(プレスデーを含む)。

北米国際オートショー(デトロイトモーターショー)(2019/1/14-1/27)
ジュネーブモーターショー(2019/3/5-3/17)
上海モーターショー(2019/4/16-4/25)
ニューヨーク国際オートショー(2019/4/19-4/28)
フランクフルトモーターショー(2019/9/12-9/22)
東京モーターショー(2019/10/24-11/4)
ロサンゼルスオートショー(日程未定)

モーターショーといえばデトロイト、ジュネーブ、フランクフルト/パリ、東京の「5大モーターショー」が挙げられるが、今やNY、LA、上海/北京やソウル/プサン、バンコク、デリー、インドネシアなども注目を集めており、ショーの勢いは年々増している。しかし現在は最先端テクノロジーの国際的な見本市であるCESなども注目されており、5大モーターショーのセレクトが現代のニーズにマッチしているのかを疑問視する声も多い。

※「/」は交互に開催される国

国内の自動車業界では早くも来年秋の東京モーターショーに向けたカウントダウンが始まっている。そこで来年のモーターショーにどう向き合うかを考えるべく、まずは昨年の東京モーターショーを振り返ってみた。

東京モーターショー2017の様子

モーターショーデビューは意外と楽しめた

筆者は1986年生まれの32歳。モーターショーに初めて足を運んだのは昨年、2017年のフランクフルトだ。同年に開催された東京モーターショーにも参加し、約30年間、全くといっていいほど興味がなかったクルマの世界の扉を開いた。

モーターショーに参加するまでは正直クルマの魅力を理解できなかった。しかし2つのモーターショーを通じて「クルマって意外と面白いかも!」そして「モーターショー、次回も来てみたいかも」という感想を抱いた。

なぜそのように思ったのかを考察する上で、私が惹かれたブースの共通点を考えてみた。
それは「自動車メーカーが提供しているのは『商品』ではなく『体験』である」という明確なメッセージを打ち出しているという点だ。
特に印象的だったのは未来の社会に対するアプローチだ。

トヨタブースで母が涙した理由

東京モーターショーには当時2歳半の息子と58歳の母を連れていった。自動車好きの息子は展示されたクルマの数々にひたすら興奮していたが、印象的だったのは母がトヨタのブースで流れていた映像を見て泣いていたことである。

「人工知能を備えたクルマが人を愛するようになる」というオリジナルムービー。長く愛されてきたクルマたちが技術の進化によって人を愛するようになるという構成で、クルマの視点で見た、未来の日常が描かれていた。母にとってSF映画のような未来がすぐそこまでやってきている。そしてその未来は「難しくてわかりにくいもの」ではなく「人々を安心させ、温かい気持ちにしてくれるもの」。そんな予感に思わず胸が熱くなったようだ。

このムービーには最先端の技術の話や性能の話は一切出てこない。
代わりに前半ではクルマを優しく見つめる人々の眼差しが映し出され、後半ではクルマ同士が繋がり合う未来を予想させる展開となっている。

私はクルマです。
私は、愛されたクルマです。
私は、その愛に応えたいと思うクルマです。

これから私たちは、つながりあって一つになることにしました。
愛してくれたあなたを愛するために。
あなたをまだ見たこともない未来へ連れて行くために。

大人も子どもも足を止めて見入っていたことを今も鮮明に覚えている。おそらく多くの人が、この映像を通じて過去の愛車や未来のクルマに想いを馳せていたのだろう。

東京モーターショー2017のトヨタブース

ちなみに、このコンセプトを整理した概念図がCES2018のトヨタブースで展示されていた。
テクノロジーによってクルマに新しい魂が吹き込まれる。その中にはインテリジェンス(知能)だけでなく「愛」も含まれる、という内容だ。
CESは一般公開なしの取引専門のショーだから、こういった一覧性のある展示が適していたのだと思う。この図を見て感動して泣く人はいないだろうが、東京モーターショーで使用された映像は決して場当たり的に作られたものではなく、トヨタが描く未来が詳細に、綿密に練りこまれていたのだということがよくわかる。

CES2018にて。撮影はアリ編集長

モーターショーを「商品の先にある未来」を体感する場所に

若い世代を中心に、自動車の所有欲は低下傾向にあると言われている。しかしこれからもクルマが私たちの生活から消えてなくなることはない。
「未来のクルマ」が私たちを待っている。これまでだってクルマは単なる移動手段ではなかった。たくさんの思い出がクルマに詰まっている人も多いだろう。そして今後、自動運転技術の実用化など、新たな技術によって人類はこれまで知らなかった新しい体験を得るだろう。
だからこそ、モーターショーに出展している各社がどんな未来を描いているのかをもっと知りたい。そのクルマが未来の生活の中にどのように溶け込んでいるのかを感じられるストーリーが見たい。

もちろん息を呑むような美しいスタイリングのクルマや、クールなスーパーカーとの出会いも大いに期待している。
だが、ただの「展示」を超えて商品の先にある未来を「体感」できる場所になるならば、私たちはモーターショーを更に心待ちにするだろう。

次回の東京モーターショーは2019年10月。少し先のことに感じられるかもしれないが、早ければ春ごろから出展各社が予告情報を発信し始める。
東京の前にジュネーブ・上海・フランクフルトなど、規模の大きなショーも盛り沢山だから、興味が湧いた人はそれらのレポートを追いかけてみるのも楽しいだろう。
まだ訪れたことのない人にこそ、ぜひ一度会場に足を運んでみてもらえたらと思う。そしてこれからのモーターショーについて、来年は共に語り合えたら嬉しいな。

 

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