リニューアル後の東京都現代美術館にみた「編集」の可能性と美術館のこれから

Apr 27,2019report

#MOT

Apr27,2019

report

リニューアル後の東京都現代美術館にみた 「編集」の可能性と美術館のこれから

文:
TD編集部 藤生 新

2019年3月29日にリニューアル・オープンした東京都現代美術館。3年間の改修期間を終えて生まれ変わった「MOT」を、編集部の藤生(ふじゅう)が訪れた。新しくなった館内を歩き、開催されていた2つのリニューアル記念展をみて感じた「美術館と、現代美術のこれから」についてレポートする。

リニューアルした東京都現代美術館を訪れた

2019年3月29日(金)、東京都現代美術館がリニューアル・オープンした。
設備改修のために休館していた期間はおよそ3年。国内最大の現代美術館の活動休止の影響は大きく、シーンの停滞も危惧されていた中、「都現美」の活動再開は多くの美術ファンにとって待ちわびたニュースになったはずだ。その期待値の大きさを裏付けるかのように、リニューアル初日には多くの人々が押し寄せ、その模様はSNSを通してまたたく間に拡散されたのだ。

その炎上的な盛り上がりとともに、すでに多くのメディアがリニューアルの「速報」を伝えている。しかし一方で、美術館や美術作品とは本来「遅い」メディアでもある。というのも、美術というジャンルが、世の中の目まぐるしい動きから一歩身を引いたところで、世界を俯瞰するようなジェスチャーを取ることに特徴を持つ文化的実践だからだ。
もうすぐオープンから一ヶ月が経とうかという4月下旬の週末、そうした美術が備える「遅さ」に歩調を合わせるように、改めて美術館を訪れてみた。

結局のところ、今回のリニューアルを経て変わったことは何なのだろうか? さらには、これからの美術館のあり方とは?
本記事では、平静を取り戻しつつある都現美を訪れて、改めて得た気付きを皆さまへ「遅報」していきたい。

日本の現代美術の「これから」を読み取れる場所

「都現美」や「MOT(Museum of Contemporary Art, Tokyoの略)」の愛称で親しまれている東京都現代美術館は、1995年に江東区・木場公園北辺で開館した。
その際、95年まで現代美術の収集を担っていた東京都美術館から約3,000点の作品と58,000点の図書資料が移管された。さらにその後も2,400点余りの作品を収集し、今では全体でおよそ5,400点の作品と270,000点の図書資料を有するに至っている。(ちなみに、現代美術専門の美術館として国内で初めてオープンした広島市現代美術館のコレクション数は、2019年1月31日の時点で1,653点である。)

さらに、33,515㎡におよぶ延床面積は、国内の美術館では最大の面積(分館を含めた場合は国内2位)を誇る。そのように、コンテンツ(コレクション)とプラットフォーム(美術館建築)ともに巨大なスケール感を活かし、都現美は95年以後、日本の近現代美術の流れを文字通り「形成」してきた。

そうであるからこそ、このリニューアルで新しく示された方針とメッセージを読み取ることから、日本の現代美術の「これから」を考えることができるかもしれない。(そしてもしかすると、初日に訪れた多くの人々も、こうした「これから」を知ることに対する期待を持っていたのではないだろうか。)

リニューアル、その全容

さて、まずはリニューアルの全容から見ていこう。
今回行われたリニューアルは、(1)経年劣化に伴う設備機器の改修、(2)新しいサインと什器(じゅうき)の設置、(3)パブリックスペースの整備、(4)美術図書室の改装、(5)レストラン、カフェ&ラウンジの新店舗オープン、(6)ミュージアムショップのリニューアル・オープン、(7)記念ロゴのデザインなどに集約されるものだった。

とくに(1)では、展示室や講堂の床・壁・天井を全面的に張り替えることによって、美術館全体の内装がよりクリーンなものへと生まれ変わっている。
さらに(2)では、日本を代表するデザイナー・色部義昭(いろべ・よしあき)が手がけた館内サインと、スキーマ建築計画・長坂常(ながさか・じょう)の設計による什器が散りばめられることによって、施設全体の導線がさり気なくも快適に誘導されるようになった。

また、エレベーターの増設や子育て支援設備の充実など、一見して分かりづらいが、重要な設備の向上も含めて、実際に「使う」空間としての利便性が向上したと言えるだろう。

 

スキーマ建築計画・長坂常の設計による移動式の什器
リニューアルした美術図書室

「道草のすすめ」

装いを新たにしたサインに導かれるように歩いていると、展示室にたどり着くよりも前に、「道草のすすめ」と題された企画の存在に気がついた。

サウンド・アーティストのパイオニア、鈴木昭男の代表作《点 音(おとだて)》が、美術館内外のさまざまな場所に設置されているようだ。マップを頼りに作品を巡っていると、まさに「道草」を食うように、知らず知らずのうちに美術館中をさまよってしまった。
最終地点では、都現美のために制作された新作《no zo mi》が来場者を待ち受ける。このように、都現美は「展示室」という概念を空間の外へ向けて拡張しようとしていることが感じられた。

そうした意識は、美術館に隣接する木場公園をつなぐ「パークサイドエントランス」が新設されたことにも見て取れる。美術館と公園の境には長年設置されていたアンソニー・カロの作品《タワー・オブ・ディスカバリー》が修復を終え、新たな役割を得たかのように遊具とも彫刻ともつかない不思議な存在感を放っていた。

修復を終えた《タワー・オブ・ディスカバリー》

リニューアル以前は最寄りの清澄白河駅を向いたメインエントランスからほとんどの来場者が出入りしていた。これからは駅とは反対方向にある地域や公園へのアクセスに適したエントランスを通して、より地域に密着した動きがつくられていくのではないだろうか。

リニューアル記念展「百年の編み手たち──流動する日本の近現代美術」

続きは会員(無料)の方のみご覧いただけます。

※読者ニーズを適切に理解するために読者登録のお願いをしております。

この記事を読んだ方にオススメ