大学1、2年生がオートバイのデザインに挑戦!二輪デザイン公開講座を覗いてみた

Nov 08,2017report

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Nov08,2017

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大学1、2年生がオートバイのデザインに挑戦! 二輪デザイン公開講座を覗いてみた

文:
古庄 速人

未来の二輪デザイナー候補を育成する目的でスタートした「二輪デザイン公開講座」。デザイン系コースの大学1、2年生を対象としたワークショップで、5回目となった今年は、長岡造形大学を会場に開催されました。もうすっかり秋も深まってきましたが、夏休み恒例のイベントの様子をお伝えしたいと思います。

二輪車の魅力を知ってもらいたい

このワークショップのおもな目的は「将来の二輪デザイナーを育成する」ということ。講義を聴いたあと、スケッチやクレイモデルの演習をおこないます。参加資格は4年制大学のデザインコースに所属する1、2年生であること。まだ専門課程に進む前の学生に、実際のデザイン開発に近い作業を体験してもらいつつ、二輪車の魅力を知ってもらう機会として、毎年8月後半に開催されています。

またデザイナー候補を育成するだけでなく「若い学生たちに、二輪車そのものに興味を持ってもらう」ということも、このイベントの大きなテーマです。「二輪車のデザイナーにならなくてもいい。将来どんな仕事に就いたとしても、二輪車に興味を持ち続けてくれたら、それだけでも大きな成果です」とは関係者の弁。二輪業界をデザインの側面から盛り上げようとする意図もあるわけですね。

主催は公益社団法人自動車技術会のデザイン部門委員会で、ここに所属するホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキという4ブランドのデザイナーやクレイモデラーたちが、ボランティアで講師を務めています。つまり学生にとっては、現役のスタッフと直接コミュニケーションできる貴重な機会というわけです。

終了後には、毎年恒例、美味しい日本酒付きの「講師反省会」が催されるんだとか。二輪業界は、企業を越えたデザイナー同士の仲の良さも特徴的なんだそう。

ちなみに各社の間では「優秀な学生を見つけても、青田買いはしない」という紳士協定が結ばれているとか。あくまで純粋なボランティア活動としていることが5回も続けられている秘訣の一つなのかもしれません。今回は13校(岡山県立大学、長岡造形大学、東京造形大学、武蔵野美術大学、大阪芸術大学、金沢美術工芸大学、京都精華大学、名古屋芸術大学、富山大学、静岡文化芸術大学、名古屋工業大学、京都市立芸術大学、日本大学)から31名が参加しました。

デザイナーとして働くことの醍醐味を知る

カリキュラムは講義を聴講する『デザイン公開講座』と、実技を学ぶ『デザイナーの卵 養成講座』で構成され、2日間にわたっておこなわれました。『デザイン公開講座』では、GKダイナミックスの一條 厚 相談役が『バイクデザインの今・昔』という題で講演。「オートバイは、夏は暑くて冬は寒い。雨にも濡れる。こんな不便な乗り物はない」と、やや自虐的ながらも、しかし楽しそうに魅力を紹介。「でも、自由にどこへでも行ける、楽しい乗り物なんです」。

途中に笑いを織り込みながら、人間と機械との濃密なコミュニケーションによる一体感「人機一体」の思想を語る一條氏。

また「デザインとは見た目の格好だけではない。でも、自分がデザインしたオートバイに乗るライダーから『カッコイイから、これを買いました』と言われると、こんなに嬉しいことはありません」と、デザイナーとして働くことの醍醐味を語っています。

デザイン開発業務を体験

講座の後は、いよいよ『デザイナーの卵 養成講座』。8名ずつ4グループに分かれて、スケッチ演習、クレイモデル制作、そしてペンタブレットを用いたデジタルスケッチの体験です。スケッチ演習ではボールペンとコピックマーカー、そしてパステルを使ってオートバイのサイドビューを描くのですが、なにしろ学生たちはまだまだデザインを学びはじめたばかり。画材の使い方を教わるシーンがあちこちで見られました。

奥に見えるのは2000万円越えのモンスターバイク。講師を務めたデザイナー自身が会場まで乗ってきたバイクもあったとか。途中でまたがり出す学生たちも!

またスポーツバイクとスクーターの違いやパッケージレイアウト、車体のあちこちのパーツの機能や意味などを、持ち込まれた各ブランドの実車を前にしながら説明を受けるシーンも頻繁に見られました。完成したプロダクトを見て「どうしてそういうデザインになっているのか?」を考えるのも、自分のデザインスキルを磨く大事なプロセスです。

1日目にコンセプトを固めて線画を描き、2日目にマーカーやパステルで彩色して完成させたのですが、教える側のデザイナーたちが手本としてスケッチを描くうちに、学生そっちのけでスケッチワークに熱中しているんじゃないか? と思うシーンもしばしば見られました。「描いてるうちにだんだん楽しくなってきて……」という声もありましたが、これはデザイナーの性(さが)みたいなものなのかもしれません。

黒いTシャツを着ているのが各社から集まった講師陣。レンダリングスケッチだけで2時間半もの間、手取り足取り教えてもらえる贅沢な時間となりました。
ほぼマンツーマンのスケッチ指導。二輪デザインでは、エンジンからフレームまで見えるところは全部デザインすることに驚き!

クレイモデル制作とデジタルスケッチ体験も、基本的な流れはスケッチと同じ。まずツールの使い方と、そのプロセスの意味を教わった後に実技講習です。クレイモデルはホンダ・モンキーのガソリンタンク形状に作られたクレイがベースとして用意され、ここにさらにクレイを盛りつけ、削ってオリジナルのデザインを表現するというもの。最初は見よう見まねでスクレイパーと格闘していた学生たちも、みるみるうちにコツを習得していくのが印象的でした。

フューエルタンクは造形で勝負! あらゆる角度からクレイモデル造形をする参加者たち。
 
削ったり盛りつけたりが容易にできる「インダストリアルクレイ」を使用し、立体造形の基本を学びます。
 
ワコムのペンタブレットでデジタルスケッチに挑戦する参加者たち。初めてペンタブに触る学生もいました。
筆圧対応のみならず、ペンの傾きや回転も認識するので、あちらこちらから「おぉー」と驚嘆の声があがることしばしば。

学生たちの感想は?

学生たちはスケッチを描き上げ、元川崎重工の木村徹氏からひとりひとり修了証を手渡され、ワークショップも終了。疲労と充実感、そして開放感がない交ぜになった笑顔を見せていました。講師役のデザイナーやクレイモデラーたちからも「すごく疲れたけど、楽しかった」という声が聞かれました。どうやら仕事抜きでデザインと向き合い、同時に学生たちに教えることで普段の自分の仕事の意味を再確認できたことが、いい刺激になっていたようです。最後に、参加した2名の学生の声を紹介しましょう。

「すごく楽しかった!」と語るのは長岡造形大学の西山朋那さん。「もともとオートバイは好きで乗っているのですが、好きということ以上のものを身に付けることができました」とのこと。所属は美術工芸学科で、マーカーも「サークルでちょっと触らせてもらった程度」ということですが、ワークショップを体験したことで「プロダクトデザインにコース変更しようかな……」と思うようになったとか。

また静岡文化芸術大学の竹内佑喜人さんは、カーデザイナー志望ながら参加。「もともとクルマだけじゃなくて、乗り物全般やエンジンなどのメカが大好きなんです。先生からこのワークショップの話を聞いて、参加を申し込みました」とのこと。「メカがむき出しだったり、小さなパーツが組み合わさった中で統一感を出す、というのが難しかったですね」と、 一般的なカーデザインとは手法が異なることに大きな刺激を受けたようです。

二日間お疲れ様でした。描き上げた二輪スケッチとともに記念撮影。

ちなみに、自動車技術会デザイン部門委員によれば、来年も開催する予定だとか。次回はどんな学生がどんな刺激を受けることになるのでしょうか。

<取材・写真>古庄速人

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