東京・新橋のライブハウスにて第5回を開催
「Neuron」は、領域・業界を超え、多様な形で活躍するクリエイターが集まり、新たな情報やアイデアを共有する場として2023年にスタートした。東京で3度、名古屋で1度開催しており、今回が5度目となる。
本イベントは前回の格闘技用ホールをはじめ、浅草の演芸場、小学校など毎回異なる趣向の会場で開催している。今回の会場は、地下ライブハウス「ZEAL THEATER」。普段は多彩なバンドが音楽をかき鳴らしているステージで、12名の参加者がピッチを行った。


趣味の極み! 探検家・関野吉晴さんの魅力あふれる冒険譚
デザイナーにとっての趣味はきっと、日々の仕事やクリエイティブな活動に何らかの影響を与えているのではないだろうか。デザイナーたち自身の趣味について語ってもらうことで、新たな刺激とインスピレーションを得る場にしたいと考え、今回のテーマは「趣味とデザイン」に決まった。
まずは長年にわたり趣味の活動を極めている(ように見える)、探検家の関野吉晴さん(人類学者・外科医・武蔵野美術大学名誉教授)をゲストにお迎えし、これまでの活動について語っていただいた。

関野さんは大学在学中に探検部を創設し、当初は自身の趣味の活動として、1971年からアマゾン川全域をはじめとする南米への旅を重ねた。いつしかそれが仕事となり、1993年からはアフリカからアメリカ大陸へと至る「グレートジャーニー」をはじめ、メディアでも多数取り上げられることとなった。

「世界中を旅してきて、もう行くべきところには大体足を運んだな、と。そこで次は、過去に戻ることにしました。2万年前に遡って、現在は旧石器時代と同じ生活をしているんです」
金属はもちろん、土器もないのでお湯を沸かしたり、動物を捕まえて肉を切ったりする行為すら大変なこと。関野さんは他にも、これまでのさまざまな探検について語った。現在はTVの視聴率などに縛られずに自分の好きな活動をしたいと考え、クラウドファンディングなどを活用しながら自主映画製作に注力しているそうだ。
ライブハウスのステージで、ユニークな「趣味」が語られる
続いて参加企業12社から、クリエイティブ関連の業務に携わっている面々がステージに上がり、それぞれの趣味について発表を行った。
︎株式会社サンゲツ
吉岡萌黄さん/天笠珠記さん(床材ユニット 商品開発課)
トップバッターを務めた吉岡さんの趣味は「登山」。その魅力を語りつつ、デザインとの共通点を挙げた。事前準備と情報収集の重要性、自然と触れ合うことによって得られる発見やインスピレーション、集中力や持続力が鍛えられること、そして大きな達成感。登山もデザインも、引き続き全身全霊で楽しんでいきたいそうだ。

同じくサンゲツの天笠さんの趣味は「アイドル」。最推しは、男性アイドルグループ「Travis Japan」のメンバーである松田元太さん。仕事でカーペットタイルのデザインを手掛ける天笠さんは、同グループの楽曲から着想を得て商品開発を行ったこともあるのだとか。いずれ自分がデザインしたカーペットタイルが、松田さんの出演作品に使用されることが夢だと話した。

株式会社日立製作所
山口大洋さん(研究開発グループ)
2組目に登場した山口さんの趣味は「自作キーボード」。プログラミングや電子工作が好きだという彼は、日頃から自らパーツを組み合わせてキーボードを制作し、理想のタイピング体験などを追求している。問題の認識から課題解決、試作、評価を繰り返す制作プロセスが、デザインシンキングの実践の場になっており、デザイナーとしての仕事にも活きているそうだ。


ダイハツ工業株式会社
山宮悠平さん/上村涼輔さん(デザイン部)
2人組で登場し、ユニークな紹介動画を交えて発表を行った山宮さんの趣味は「ローカルスーパー巡り」。全国展開をせず県や地域限定で営業しているスーパーを訪れては、ご当地食材を使った郷土料理や、限定のお菓子などを発掘する。そのわくわく感はもちろん、地域の暮らしを体感できることも醍醐味だという。スピーカーとして登場した上村さんは、同僚の目線から「この趣味が、消費者視点や文化に対する視野を広げ、彼の個性の一部を形成していると思う」と話した。


TOTO株式会社
矢戸舞さん(デザイン本部)
次に登場した矢戸さんが紹介してくれた趣味は「ヤマンバギャルメイク」と「ヒーローショー」。いわゆる“ヤマンバギャル”と呼ばれるメイクとファッションを楽しんでおり、TV番組や雑誌で何度も取り上げられているという。また推し活として、福岡県に本社がある株式会社大賀薬局のキャラクターとして人気の「薬剤戦師オーガマン」を紹介。自身としても、周りの人たちを元気にし、生活に彩りを与える活動をしていきたいと語った。


︎大成建設株式会社
澤田拓巳さん(設計本部)
特徴ある和装でステージに上がった澤田さんの趣味は「コスプレ」。これまでに撮影された作品の写真が紹介されると、そのクオリティの高さに会場からも感嘆の声が上がっていた。2次元のキャラクターを3次元の作品にするプロセスは、建築とも類似している部分があるという。澤田さんは実際の仕事でも、現実世界の制約の中で、概念的なものを表現することに挑戦している。


︎
富士フイルム株式会社
酒井真之さん(デザインセンター)
会場参加型のクイズ形式で場を盛り上げてくれた酒井さんの趣味は「スピリチュアルデザインコレクション」。聖母マリアのボトル、ユリ・ゲラーが曲げたスプーン、ホピ族のカチナ人形など、珍しいアイテムを収集しており、定期的に同僚数名とコレクションを持ち寄る会を開いているのだとか。自らを「スピリチュアルデザイナー」と名乗り、実際の商品デザインに隕石やUFOのモチーフを取り入れた事例も紹介してくれた。


株式会社イトーキ
大橋一広さん(ソリューション事業開発本部)
大橋さんは特定の趣味を語るのではなく、イベントタイトルに合わせて「ニューロン(神経物質)」をモチーフとし、過去30年のキャリアをたどりながら、自身の「趣味と仕事」の変遷についてプレゼンテーションした。公共施設の設計や空間デザイン、デジタル領域の事例まで幅広く紹介。今後はAIなどを活用した新しい学びの場を作るべく、チャレンジをはじめているという。

︎トヨタ自動車株式会社
内浦雄大さん/渡辺義人さん/斉藤匠紀さん/竹内孝太さん/石塚聖吾さん
(先進デザイン開発室)
なぜか猿の着ぐるみをまとったメンバーを引き連れて登場した内浦さんは、自身の趣味である「ギークウォッチ」を、そのメンバーに向けたクイズ形式で紹介。自身でも60本以上所持している中からピックアップした時計を、「ツナ缶」「ジェイソン」「肉球」など、ファンの間でつけられたユニークな愛称と共に、それぞれの商品の魅力を語ってくれた。「洗練だけが進化じゃない」。常に進化するユーザーの心理に触れること、がむしゃらで純粋な独自進化に目を向けることも大切だと述べた。


コニカミノルタ株式会社
北原大知さん(デザインセンター)
音楽と共に登場し、ステージで軽快なストリートダンスを披露して会場を盛り上げてくれた北原さん。8年間続けているダンスと、もう一つの趣味であるアイドルのライブ体験を通して、デザインの仕事と共通する要素があると感じているそうだ。演者として「魅せる」行為と、それを観客として「見惚れる」感覚の間に、意図を持ってデザインされた世界が存在する、と話した。


︎カシオ計算機株式会社
山本 大嗣さん/松野 晴彦さん/ジョ フンヒさん(開発本部 デザイン開発統轄部)
「プラモデル製作」を共通の趣味とする3人で登場したカシオ計算機のみなさん。細部までデザインされたディテール、再現性が高い構造の密度、そして完成した機体を中心に想像を膨らませることの楽しさなど、プラモデル愛を熱く語った。そしてなんと、この日のために3Dデータを使って製作したオリジナルヘルメットをお披露目。作品の完成度の高さに、会場からも歓声が上がっていた。


大日本印刷株式会社
中本亮さん(モビリティ事業部)
次に登場した中本さんの趣味は「ルアーフィッシング」。デザインの仕事と同様、普段から仮説・検証を繰り返して釣りに挑んでいるという。今回はルアーの一種である「ミノー」を、オリジナルで設計・製作したプロセスを発表した。カラフルに仕上がったミノーで、実際に魚を釣り上げることに成功。こうした趣味における一連の“面倒くさい”工程をも楽しむことが、デザインがもたらす究極の充実感につながると考えているそうだ。


シチズン時計株式会社
大嶽 彩加さん/江坂 由莉さん(商品企画センター デザイン部)
最後に登場したのは、シチズン時計の2人。大嶽さんの趣味は「旅」。特に青春18切符などを使い、目的地まで遠回りし、時間をかけて移動することに魅力を感じているそうだ。「移動時間が、人間にとって一番自由を許された時間なのではないか」と語り、旅もデザインもその過程を楽しみながら、最短ルートだけではなく楽しいと思える道すじを選びたいという。

江坂さんの趣味は「お菓子と器」。小さい頃からお菓子を囲んで交流する場や時間が好きだったという彼女は、だんだんと器や道具にも興味を持つようになったそう。旅先などでも陶器や茶器を扱うお店に足を運び、茶道の道具や器などをコツコツ集めている。こうした趣味の活動を通して得た「人に喜んでもらいたい」という気持ちが、デザインの仕事にも影響を及ぼしているそうだ。

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今回は魅力的な写真の数々や独自の紹介動画の他、実際のプロダクトを自作して持参してくれた参加者も多く、ピッチの後の懇親会も大いに盛り上がった。同じ趣味を持つ人と、新たなつながりも生まれたのではないだろうか。
オーガナイザーを務めた、TDの有泉編集長はこんなコメントを寄せた。
「第5回を迎えたNeuronは『趣味』をテーマに、語り手たちの熱がぶつかり合い、観客の心を揺さぶる夜となった。
冒頭を飾った関野先生は旧石器時代の暮らしに挑みながら、『時間を遡る』旅へと私たちを誘った。そしてラストを務めたシチズン時計の二人は、時を慈しみ、過程を愉しむ『時間を愛でる』語りを届けてくれた。この二つの時間の捉え方は偶然にも静かに響き合い、イベント全体に奥行きある『円環』をもたらしていた。はざまで登壇した語り手たちの話もまた、順番を超えて不思議な呼応を生み、全体が自然とひとつの物語として立ち上がっていった。登壇順は抽選で決まっているはずだが、毎回、神様が流れを整えてくれているかのようであるーー今回もその奇跡が確かに起きていた。
また、すべてのピッチに共通して、『面倒なことをあえて楽しむ』という、趣味の本質がにじみ出ていたことも嬉しかった。
次回の開催は秋頃を予定している。東京を飛び出して、どこかへ出かけてみるのもよいかもしれない。(TD編集長/トゥールズインターナショナル 有泉)」
