「さて、あなたは何主義?」個性全開のismを問う——「Neuron Tokyo vol.6」レポート

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「さて、あなたは何主義?」個性全開のismを問う—— 「Neuron Tokyo vol.6」レポート

文:
TD編集部大島悠

2025年11月28日(金)、デザイン発信拠点「AXIS」とTDがオーガナイズする招待制イベント「Neuron」(ニューロン)第6回が、東京にて開催された。今回は、神田明神の境内にある文化交流施設「EDOCCO STUDIO」のステージにて、7社・8名の参加者が独自の視点でピッチを行った。

東京・外神田の文化交流館にて第6回を開催

2023年にスタートした「Neuron」では、これまで「“無理ゲー”の乗り越え方」「妄想デザイン」「趣味と偏愛」など、さまざまな切り口のテーマを掲げたピッチ大会を実施してきた。

今回、選ばれたテーマは「ism(イズム) 私は○○主義!」。

人には誰しも、ゆずれない想いや信条、主義主張があるのではないだろうか。クリエイターなら、そうした一面が色濃くあらわれていても不思議ではない。デザインに向き合う姿勢、日々の生活や仕事で大切にしている価値観、あるいはちょっと変わった個人的なポリシーなど。

改めて「私は○○主義です!」と宣言することで自分自身の軸を明らかにし、その主義がどのように日々の生活やデザインに影響しているのか、参加者自身の言葉で語ってもらおうというのが今回のテーマだ。

主義とは、自分自身を固定するものではない。「超えていく」ものである

そもそも「主義」とは一体何なのだろうか? そんな一つの問いに対する考察を深めるべく、今回ゲストにお迎えしたのは哲学者の吉田幸司さん(クロス・フィロソフィーズ株式会社 代表取締役)。

吉田さんは、2010年代以降、GoogleやAppleなどのグローバル企業がビジネスに哲学を導入しはじめた流れを受け、哲学の専門知を活かしたコンサルティング会社を2017年に設立。根本的な課題の発見や概念の再構築などにつながる「哲学思考(哲学シンキング®)」の開発・普及に努めている。

吉田さんいわく、デザイン思考のプロセスと哲学思考を組み合わせることによって、思考フレームの拡張、本質的な問いや課題の見極め、立ち返るべき理念の確立などが実現可能になるという。

ビジネスの現場でも、サービスや商品のコンセプトや、経営者の想いなどを掘り下げていくと、最終的に個々人の主義やポリシーに接続していく。ただ、哲学者の目で捉えている“哲学”は、若干ニュアンスが違うらしい。

「本来、哲学的な営みは、『なぜそう言えるのか』『そもそもどういう意味なのか』『本当は前提が異なるのではないか』など、問いを重ねてどんどん掘り下げていくものなんです。

そういう意味では、それぞれの“主義”についても、常に解体・刷新されて超越されるべきものだと考えることができます。だから「あなたの主義は何か」と問われるとしたら、私は『主義超越主義』と答えると思います」

特定の主義に自分自身を固定するのではなく、絶えず主義を超えていく――。

「ただ『主義超越主義』という言葉で言い切ってしまうと、これ自体が一つの固定的な主義になっているのではないか、とツッコミが入ると思います。だからあえて、私はこう表現したいと思います。『主義超越主義超越主義超越主義超越主義超越主義超越主義超越主義超越主義超越主義超越主義超越主義超越主義超越……』」

さて、あなたの“主義”とは、何だろうか?

ピッチにて、クリエイターそれぞれの“ism”が表出する

続いて、参加企業7社によるピッチが行われた。ここからは、クリエイターならではの個性を、それぞれが最大限に発揮した発表内容の一部を紹介していく。

富士フイルム株式会社
酒井裕之さん(デザインセンター)

最初に登場した酒井さんは、「ONとOFFを切り替えない主義」。そんな独自のismを詰め込み具体化した対象として、すべて金属を溶接してつくりあげた家屋『小鉄』を紹介してくれた。この建物は厚さ19mmの鉄板でつくられている3階建ての構造で、幅はおよそ2.2mと、竣工当時は日本一小さい家だったそうだ。

1階はCADルーム、2階が住居スペースと、自身のこだわりを詰め込み独居用の自宅として設計。無事完成にこぎつけたものの、結婚し子どもが生まれたことを機に住まいを見直し、現在は売却しているという。

酒井さんは現在、富士フイルムにて、プロ用の動画撮影機材や高性能レンズなどのデザインを手がけている。ONとOFFを切り替えず、建物や乗り物など、生活と密接に関わり合うプロダクトのデザインにも目を向けることが、デザイナーとしての美意識に影響を与えているのかもしれない。

株式会社本田技術研究所
北島義也さん(統括機能センター/企画室/FVCブロック)

普段はロボットや飛行機、ロケットなどのデザイン開発に携わっている北島さんは、「ギリギリ来ない未来研究主義」。ロジックを積み上げて結論を導く未来予測とは異なるアプローチで、「ギリギリ来ない未来」の研究にいそしんでいるという。

モビリティの進化における最終到達点について考察したとき、距離ではなく「時間」に行きつくのではないか。特に重要な課題となるのが、通信におけるタイムラグなのではないか。そう考えた北島さんは、月と地球間に生じる2.6秒の通信タイムラグを解消するコミュニケーション手法として「月リズム言語文化」を構想している。

月と地球で通信を行うとき、タイムラグによる沈黙などの心理的ハードルを解消するため、音楽を用いたリアクション(チャットでいう、イラストを使ったスタンプのようなもの)を活用した通信シミュレーションを実際に披露した。もしかすると、こんな通信機能が社会実装される日がくるのかもしれない。

シチズン時計株式会社
岡村直明さん(デザイン部)

次に登場した岡村さんは、デザインにおけるインスピレーションの源泉を4つの主義で表現した。1つ目は「メディア主義」。子どもの頃から接してきたゲームや映画、音楽などのメディア体験が、自分の生き方に影響を与えているそうだ。2つ目は「サンプリング主義」。日常的にカメラを持ち歩き、撮影した写真や映像作品を2005年からサイトに掲載し続けている。現実世界から引用するように、その光景を集め、組み合わせることで新鮮な感覚を生み出しているのだとか。

3つ目は「デジアナ主義」。単にアナログに回帰するのではなく、デジタルとアナログの双方向性を持たせることで新しいデザインを生み出していく考え方だ。岡村さんは実際に、仕事で時計のプロダクトデザインを行うときにこの思考を取り入れている。

最後に、前述の3つの主義を包括する「ルーツ主義」。自身のルーツと、今自分が関わっている会社のルーツ、双方を掛け合わせることによって独自のデザインを生み出すことにつながると、岡村さんは考えている。

大成建設株式会社
鬼頭朋宏さん(設計本部)

鬼頭さんのプレゼンテーションは、あるジャンルのマンガ作品の紹介からスタートした。並べられた作品に共通するキーワードは「転生」。環境建築分野を専門とする鬼頭さんが掲げるのは、前世から来世へとつながる「転生主義」だ。

大成建設では現在、従来のサーキュラーエコノミー(循環型経済)を発展させた「Vortex Economy®」という概念のもと、新しい資源循環の在り方を模索しているという。実際にどのような資源の“転生”が可能なのか、自身が携わった環境建築プロジェクトの事例を示しながら、会場の参加者にハンドサインと共に「転生!」という声出しをうながす鬼頭さん。畳みかけるようなプレゼンに、会場の空気が熱くなっていく。

鬼頭さんは最後に、この「転生主義」を実現していくには、自社だけではなくさまざまな企業、他領域との協力が必要であることを強調した。

カシオ計算機株式会社
鈴木千裕さん、小關諒人さん(デザイン開発統轄部)

カシオ計算機からは2名が登壇。実際に2人が手掛けた商品であるサウナー専用腕時計「サ時計」を例に挙げ、それぞれが大切にしている「感覚主義」について語った。

プロダクトデザイナーの鈴木千裕さんは、プロダクトの形状をイメージするとき、具体的なサイズなどの要素以外にも「効果音」によるアプローチを試みている。ちなみに、サ時計の効果音は「もきゅっ」と「ジューシー」だそう。熱に強くタフでありながら、コミカルな要素を持つデザインを目指した。デザイン部ではこのように、感覚を共有するため効果音を用いたコミュニケーションを行うことがあるそうだ。

グラフィックデザイナーの小關(こせき)諒人さんが、今回取り上げたポイントは「色選び」。プロダクトの世界観や物語を伝えるために、どのような色彩を用いて表現するか。その探索にしっかり時間をかけているという。サ時計のメインカラーには、サウナらしい温かみを感じる落ち着いたオレンジ色を選択した。小關さんは仕事以外でもイラストレーションを自主制作しており、その中でも「色」から受け取る感覚に関する探究を行っている。

コニカミノルタ株式会社
本庄薫さん(デザイン戦略部/デザイン開発グループ)

1980年代以降に触れてきたさまざまなカルチャー、哲学、デザインなどを独自の切り口で紹介した本庄さん。社内用の自己紹介資料として作成したものの、まだ発表の機会がないというスライドには、これまでデザイナーとして携わったプロダクトの他、影響を受けた作品などが所狭しと敷き詰められていた。

そんな本庄さんいわく、「AIと壁打ちしてみた結果、編集的ホリズム(Holism)主義ということになった」。「Holism」とは、ある要素を部分で捉えるのではなく、全体の関係性や構造に着目して理解する概念を指す。

ちなみに本庄さんは情報デザインを学んだ大学時代、日本に「編集工学」を持ち込んだ松岡正剛氏の考え方にも影響を受けている。部分の集合体として全体があるのではなく、全体の中に部分が存在する、という考え方が、自身にとってのデザイン哲学の基盤になっているそうだ。

TOTO株式会社
彭博聞さん(デザイン本部/デザインマーケティング部)

トリを務めた彭(ほう)さんは「お金があったら全部使う主義」。ケーススタディと称して、実際のクレジットカード支払い総額や購入品の金額を赤裸々に公開しながら、高価なギターやブランドの靴、クライミング用の装備品などを具体的に紹介した。

「憧れの人を真似して、かっこよくなりたかっただけ」「自分の浪費をただの物欲ではない、と正当化しているのかも」と自虐を交えながらも、実際に海外のブランドショップに足を運び一生モノの商品を購入した経験は、異文化理解や自己のセンスを磨く貴重な機会になっていると話す彭さん。

自身の消費行動の根底にある考え方として、「たどり着けない地にたどり着く」という意味のフランスの登山用品メーカーが掲げるコーポレートメッセージと、「節約は頭を鍛え、浪費は感覚を鍛える」というChatGPTで生成した名言(?)を紹介し、プレゼンテーションを締めくくった。

「デザイン」の概念そのものが変化を必要としている

最後に、ゲストの吉田幸司さんに好評をいただいた。哲学にはAIに回収されにくい領域があると考えていたが、今日の発表を会場で聞く中で、デザインにも同じような部分があると感じたという。

「例えば、物理的な時間ではなく、人が生きることを体感する時間や、場の緊張と緩和などは、AIが捉えにくい要素だと思います。そういうところがデザインにおいて重要なのかもしれないと感じましたね」

また今回は、あえて「自分は〇〇主義だ」と自己申告する形で発表者がピッチを行ったが、本来の「主義」とは客観的なものである、という点について指摘。

「自称するときは自分を対象化し、客観視していることになります。でも本来は、その人の行動のプロセスや結果を他者が見て『あの人は〇〇主義だ』というものだと考えます」

さらに哲学者の視点から、「デザイン」という言葉自体をアップデートする可能性にも触れた。

「これからのデザインについて思考すると、既存の表現がもう合わなくなっているような気がしています。概念工学の考え方を用いるなどして、その概念自体を変えていくことを検討しても良いフェーズなのかもしれません」

「ism/主義」というテーマのもと、哲学的な問いから個人的な実践までが並んだ今回のNeuron。参加者それぞれの主義が、デザインや日常、仕事の具体へと接続され、多様な価値観が立体的に浮かび上がった。
オーガナイザーを務めたTD編集長は、以下のようにコメントを寄せた。

「今回のNeuronは、特別な演出や奇をてらった仕掛けに頼ることなく、参加者一人ひとりの思考が自然に開かれ、素のままにつながっていく時間だったように思う。哲学とデザインはいずれも問いから始まる営みであり、その相性の良さが、構えのない対話と穏やかな笑顔となって会場に広がっていた。各々が『主義』を語りながらも、いつの間にかそれを脱ぎ捨て、等身大の言葉で交わっていた光景は印象的だった。『思考を開く』『つながる』というNeuronの理念が、もっとも誠実なかたちで体現された一夜である。参加してくださった皆さんに、心から感謝したい。(TD編集長/トゥールズインターナショナル 有泉)」

 

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