モデラーが造形以外に見るべきもの
青戸：デザイナーは、昔の車を見たり、あるいはモーターショーに行ったりして、車の魅力みたいなものを学ぶ機会があると思います。形を造るモデラーの方は、その辺はどうなんですか。
松田：他のメーカーのモデラーさんと話す機会もあるんですが、トヨタはかなり行かしてもらってるほうじゃないかなと思います。やはり、そこは勉強しないといけないですよね。デザイナーと新しいアイデアを共有しておくといったところは重要です。
もうひとつ、モデラーも「製品としてどうなのか」という視点が必要だと思うんですね。これまでモデラーは造形だけ見ていれば良かったんですが、それだけでは最終的にいい物になったかどうか、という判断ができないんです。造形だけ見ていても、判断材料が少なすぎる。だから最終的な製品として、部品の合わせ方や室内との調和など全体を見て判断できるように、うちのモデラーはそのレベルまで高めて行きたいと思っています。
青戸：日本のメーカーを見ても、「This is Japan」というデザインができるのって、今トヨタだけなんですよね。デザイン戦略として、とにかく他にない形、世界にない形を作っていこうという意志が伝わってきます。
特にプリウスは、97年に発表して、ここまでもっていくというのはやっぱりすごいと思うんですね。日本車はなかなかブランドは築けないといわれて、レクサスも頑張ってるけども、どうしてもドイツ勢と比べられる。でもプリウスは比べようがないんですね。日本独自のブランドとして成功しています。
ですから、デザイナーとモデラーのコンビという日本独自のチームで、どんどんトヨタから日本デザインを発信してもらいたいなと期待しています。
どんどんトヨタから日本デザインを発信してもらいたい」と語る青戸氏
松田：ありがとうございます。モデラーの観点からいいますと、僕の個人的な考えですが、造形の中に新しい造形っていうのはほとんどない。すべて今までやってきた延長線の上にあると思っています。
テイストは時代とともに変わっていきますが、造形の基本というものは、昔から受け継いできたものがあるんですね。だから、その受け継いだモノ、変えちゃいけないモノをしっかり守りながら、デザイナーが考える新しい挑戦をどう実現するか、われわれから提案できるというようなモデラーでありたいと思います。
我々はクルマのモデラーですから、飛行機も船も作れません。でもクルマにはクルマの造形があり、その基本の上に、変えちゃいけないモノ、変えなくてはいけないモノがあると思います。ですからクルマのデザイナーとモデラーであることに誇りを持って、ものづくりをしっかりやっていきたいですね。
新鮮さに挑戦した4代目プリウス
青戸：４代目のプリウスはかなりインパクトのある形で出てきました。ここ数年トヨタは「意外性」をテーマにデザインを展開していますが、新しさを前面に出すことはリスクも大きいと思います。「人間の目は慣れる」とも言われますが、やはりデザインの意図を綺麗な形でまとめていくことが必要になってくるのではないでしょうか。
児玉：そうですね、そこのバランスは難しい所です。あまりに今の感覚でまとめ上げ過ぎると新鮮さを失う危険性はあります。今回の4代目プリウスはある意味、新鮮さに「挑戦」したデザインだと思っています。最初は度肝を抜かれても、時間が経つと分かっていただけると信じています。
青戸：何度も見ているうちに、だんだん味わい深くなって、だんだん好きになってくる。そういうのありますね。
児玉：デザインする側も、大体1年ぐらいは、ああでもない、こうでもないってやっているわけです。だから、僕ら自身も目が慣れるんですね。だから発表した後は、まるで我々の感覚を追体験していただいてるみたいで（笑）。僕らはもう2年前に、1年間かけて慣れたわけです。だから1年後には皆さんも追い付いてくれる、と信じて作っています。
青戸 務（あおと・つとむ）
1943年生まれ。本田技研工業にデザイナーとして入社。その後、オペルやヒュンダイでもデザイナーとして活躍。ドイツ、フランスで合計23年暮らし、海外のカーデザイン事情にも詳しい。現在はアオト・デザインを主宰。世界中のイベントを取材し、最新の自動車デザインについて講演。次世代デザイナーの育成も行っている。
児玉 修作（こだま・しゅんさく）
1992年トヨタ入社。2006年より米国のデザインスタジオ「Calty Ann Arbor」駐在。初代の「サイオンtC」「ハイランダー」「アバンザ」、3代目「シエナ」など、北米向け車種のエクステリアを多く歴任。2011年からプリウスのプロジェクトチーフデザイナー、2015年から２MSデザイン室長を務める。
松田 章（まつだ・あきら）
1977年トヨタ入社。8代目・13代目クラウン、初代・3代目セルシオのほか、ウィンダム、RAV4、セリカ、サーフなど数々のカーデザインのクレイモデリングを担当。現在は先進技術開発カンパニー デザイン統括部主査。
