【連載】イマドキの美大生と喋ってきた Vol.1 有名アートディレクターのもとで修行する日々

Sep 15,2017report

#gakusei

Sep15,2017

report

【連載】イマドキの美大生と喋ってきた Vol.1 有名アートディレクターのもとで修行する日々

文:
TD編集部

今、デザインやアートを学ぶ若者たちはどんなことを考え、何を求めているのか? 彼らの目に映る、学校生活、暮らし、考え・悩みなど、様々な「リアル」を聞いていきます。
第一回目の今回は、多摩美術大学(通称「多摩美」)の八王子キャンパスにお邪魔して、大学院に通う吉岡峻くん(広告デザイン)にお話をうかがいました。吉岡くんは高校卒業後1年間浪人して2013年に多摩美のグラフィックデザイン学科に入学。卒業後も同じ学科の大学院に進み、制作・研究しています。

「想像以上に使い物にならないね」。
何度ボロボロになっても、大貫卓也から学びきる。

イマドキの美大生と喋ってこよう、というTDの新企画。まずは、今どんなことをやっているか教えてください!

吉岡:はい。自分は、コミュニケーションデザインについて研究・制作しています。ある商品や企業について、そのデザインを改めて考え直しながら、消費者と商品、あるいは消費者と企業の間のより良いコミュニケーションについて探っています。
研究室の教授は、アートディレクターの大貫卓也先生です。

多摩美の学食で喋ってきたよ。食事以外にもミーティングや、PC作業、制作をしている学生も多くいました。

今主に取り扱っているテーマは「より多くの人に『伝える』方法」。デザインの中でもかなりブランディングに近い領域です。成果物には実際に企業へ提案できるレベルを求められるのでかなり厳しいですね。なんというか、”修行”に近い日々を過ごしています。

へぇ! まるでどこかのコンサルティング会社みたいですね。実際に企業に持ち込んだりするんですか?

残念ながらまだそこまではたどり着けていないんです。よく先生にビジュアルを見ていただくのですが、毎回、何を持って行ってもダメで……。 明確な指摘は頂けますが、ただ単に頭で理解しても自分の中できちんと体感しないと身につかないので、講評会は毎回録音して、繰り返し聞いて、ちゃんと習得ができるまで自分の課題と向き合うようにしています。

めちゃくちゃがんばってるじゃないですか。偉いね~。

いや、全然……。この前なんかも「想像以上に使い物にならないね」って笑われました。もうボロボロですが、毎日1ミリずつ進んで行く感じで、負けじと頑張っています。

おお……厳しいね。そもそも、なぜ大学院に。

実は卒業制作に取り組む中で、自分の弱点と向き合わざるを得なくて。「色々な方向からビジュアルを見ること」が苦手で……沢山検証して作るということができなかったんです。

「これ」と決めたら、そのまま進んでしまうタイプだったんですね。それを学部の時に、一番に指摘してくださったのが、大貫先生だったんです。そういったこともあって、社会に出る前にこの先生のもとでもっと学びたいなぁと。

吉岡くんの卒業制作作品「東京刺青」。江戸刺青と現代の東京のファッション、文字を混ぜ合わせた。
大貫先生って、たくさんの有名なコピーや広告を生み出した方ですよね。

はい。作品のクオリティに対してはとても厳しいです。いつも「社会に提案できる、通用するデザインを作れるように」とおっしゃっていますね。

ただ、厳しいだけでなく、学生それぞれにあった指導やアドバイスをしてくださる、とても良い先生ですよ。例えばデザインじゃなくてイラストを描く学生に対しても、その絵がどうすれば社会に通用するかを考えてくれたり。

大貫卓也氏が手がけた代表的な広告、「プール冷えてます」(『広告批評』別冊『大貫卓也全仕事』より)。
でも「使い物にならない」って言われちゃうんだね(笑)

大学院は修行を積んでいく場所、と考えているので、あえて自分の課題に向き合い続けるようにしているんですが……。まぁ、大変です(笑)。普通、つらいことってなるべく避けたいって思うじゃないですか(笑)。

外の人たちとのつながりは「美大に対するがっかり」から生まれた

外の人からはミステリアスにも見える「美大」の世界。大学、大学院と多摩美に通われてますが、実際はどうですか。

そうですね、入学する前は「美大」ってすごく変で面白い人が集まってきている場所だと思っていたのですが、正直、自分の周りにはそんな人があまりいなくて、「あれ?」と感じました。もちろん同じ学科で何人か仲の良い友達はいましたが、1・2年の時は自分のやりたい課題だけをやって、他の時間は他学科や部活関係の人たち、多摩美以外の人たちと遊んでいました。

不真面目な学生でしたけど、その時期に色々な人と出会えました。フットワークだけは軽かったので、社会人の飲み会に行ってみたり、知り合った音大の人からフリーペーパーの制作を頼まれたり、書道家の人には書道を教えてもらったり、色々な経験ができました。

まぁ、入学当初は自分が持っていた美大のイメージと違ってがっかりしましたが、それがきっかけでたくさんの人に出会えたので、逆に良かったかもしれません。

研究室で作品集を見せてくれた。資料の山の上にカップ焼きそばが乗っているのがすごい、大学院生っぽい。
大学の外の方が楽しかったんですね(笑)。

はい(笑)。普段、美大生って、課題に追われて、大学にこもりがちなんです。でもそれだと世界が拡がらないので、僕は積極的に外に出ていくことを心がけていました。

例えば、学部生の時に、「はだかもじ」という作品を作ったのですが、実際に幼稚園に持ち込んで撮影を兼ねてワークショップをさせてもらったことがあるんです。課題をこなすだけであればそこまでする必要はなかったんですが、参加してくれた園児たちから反応をダイレクトに得ることができて。

吉岡くんの作品「はだかもじ」。ちぎった紙を貼ったり、直接絵を描いたりして、はだかの文字に服を着せてオリジナルの文字をつくる作品。
「はだか」の文字に、カラフルな洋服を着せる。
 

結果? それが予想以上に反応がよかったんですよ! 事前に園長先生からは「園児は警戒心が強いのでいい反応は得られないかも」と言われていたのですが……。自分の作品を園児たちが楽しそうに体験してくれているのを見て、なんだか感動しました。

美大生、社会に出る。ってかんじですね。

まさに。例えばブランディングの課題などでよくあることなんですが、いくら自分で良いと思ったものができても、結局社会からのリアクションを見なければ本当の学びにはつながらないのかなと。せっかく作品をつくったのだから、講評会で先生のコメントをもらっておしまい、ではもったいないですよね。

大学以外の人から作品に対しての反応や直接的な意見・評価を頂ける機会はすごく貴重な経験になると思います。

実際に幼稚園で撮影した写真。これはひらがなの「こ」。

1枚のポスターが美大を目指すきっかけに

そもそも、どうして美大に入ったの?

いやぁ、たまたまですよ。高校生の時に、各クラスで1枚、ポスターを作る公募のようなものがあって、絵が得意だったので代表して描いたんです。そしたら、なんと校内全60クラスの中でグランプリを受賞して。その時、自分は結構いけるんじゃないか!?と……(笑)。これが美大に進むきっかけかもしれません。あとは、母親が美大出身だったことも影響しているかと思います。

高校2年生の頃から湘南美術学院という予備校に通い始めて、デッザンなどの絵の勉強を始めました。多摩美のグラフィックを志望したきっかけは、お年玉で買ったデザインノートの「博報堂のデザイン」特集号です。そこに大貫先生のインタビューが載っていて、とても面白くて。それまでは、なんとなくデザイン学科を志望していたのですが、コミュニティデザインの面白さやデザインの奥深さに気づきました。これを読んで、多摩美のグラフィックに行こうと決めました。

環境要因も大きかったのかもしれないね。

はい。今はコンビニのアルバイトやTAを合わせて週5くらいのペースで働きながら通っています。コンビニバイト、悪くないんですよ。一緒に働いているおばちゃんたちがみんなすごく優しい(笑)。朝の時間帯なのでバイト先から大学に行く時には「いってらっしゃい」って言ってくれたり。生活リズムは良くなったし、生活にハリが生まれている気がします(笑)。

学費は出してもらっているのですが、課題に結構お金がかかるんですよね。少ない制作費で課題を提出することも可能ですが、自分はきちんとものを作りたい性格なので、制作費が高くなってしまうことが多くて。いい作品をつくるために頑張ってます。

誰にも負けたくない、死ぬ気でやったデッサンと授業で培ったデザインスキル。
でも、非・美大卒の発想力にも興味あり!

将来のこととか、就活のこととか聞いてみようかなぁ。 あれ、そもそも美大生の就活って普通の大学生と違うんでしたっけ。

おそらく、一般的な就活と同じです。自分は、来年の1〜2月に学部の3年生と一緒にスタートします。デザイン会社なども受ける予定ですが、広告代理店が第1志望です。

グラフィック学科の院生は、就職するケースが多いと思います。まれに、副手になる人もいますね。

最近は美大を卒業していなくてもデザイナーとして活躍する方が増えていますよね。

そうですね、頑張らなきゃって思います。これまで自分が死ぬ気でやってきたデッサンで培った余白のバランス感だったり、学部の課題で身につけたデザインスキルだったり、そういった部分では(非・美大卒の人に)負けたくないですね。

でも、反面、美術をやらなかったからこそでる発想があって面白そう! とも思います。方法とか作法を知らないからこそのアイデアとかも出てきそうですし。例えば、音楽だったら、バンドから始めた人は形式に縛られがちだけど、バンドとか見ないでパソコンから入った人は「ドラム4つくらいに増やしちゃおうか?」って平気で言っちゃうとか(笑)。知らないからこそ、作れるものも違ってくる気がします。

がんばれ吉岡くん! TDは君の未来を応援しています。また話聞かせてね。
これからこんなことやってみたい、などなど、最後に一言お願いします。

現代のデザインに対するイメージを変えていけるような、広告やデザインをしていきたいです。

学生の分際で何を言ってるんだという感じかもしれないですが、個人的に、今の広告は魅力を感じないものが多くて…。あと、オリンピックエンブレムの問題のときに、社会がデザインに対してとても冷たいなあと感じて。でも、それって、これから変えていけるチャンスじゃないかな、と。デザインや美術に対して風当たりが強い社会も、一時代に比べてあまり盛り上がっていないように見える広告も、変えていける可能性があると思っています。

それと、NHK Eテレの『デザインあ』のように、小さい子にもデザインとは何かを分かりやすく解説している、そんなデザインや活動にも取り組んでいけたらと思っています。

なんかもう、100点満点な回答だね(笑)。こんな吉岡くんがこれからどんな道を歩んでいくのか、とても楽しみです。また聞かせてね。ありがとうございました!

 

※「今どきの美大生」では、インタビューを受けて下さる学生の方を募集しています。
自薦・他薦は問いません。美大でなくとも、デザイン領域を学ぶ学生さんであれば皆さん大歓迎です(生活デザイン学科とか情報デザイン学科とか、その他聞き返されるような不思議な名前の学科の生徒さんも!)。
お名前、ご年齢、学校学部学科名、連絡先、応募の動機を明記の上、こちらからお問い合わせください。

吉岡 峻

多摩美術大学 美術研究科博士前期課程1年デザイン専攻グラフィックデザイン研究領域広告デザイン研究グループ所属。 高校2年生から美術予備校に通い、1年間浪人してグラフィックデザイン学科に入学。学部時代はフォントをオリジナルで作り、卒業制作では東京のファッションを文字化、刺青として表現した作品を制作。2016年に大学院入学。現在はコミュニケーションデザインや広告デザイン、アートディレクションについて研究・制作している。 http://www.tamabi.ac.jp/gurafu/

この記事を読んだ方にオススメ