『アライさん』モノローグ|語りかけてくるモノを見つめて vol.11

Jun 26,2020column

#monologue

Jun26,2020

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『アライさん』 モノローグ|語りかけてくるモノを見つめて vol.11

文:
TD編集部 青柳 真紗美

ふとした瞬間に語りかけてくる「モノ」たちがある。つい触れたくなる、誰かに伝えたくなる ー そんなモノたちと、それにまつわるエピソードを一口サイズでお届けしよう。

『アライさん』

1通のメールがきっかけで、アライさんは我が家にやってきた。
「突然であれなんすけど、食洗機のもらい手を探してるので、興味あったらご連絡ください。」
送信者は、2年ほど前に飲み会で仲良くなったきり、ほとんど会っていないお兄さんだった。

それからほどなくして、彼は現れた。
工具を広げて作業にとりかかる。「どうして私にメールしてくれたんですか」と聞いた。

「妹さんのブログを読んでね。すっごくお皿洗いが苦手なんでしょ」

耳を疑った。私の妹は一部の界隈ではちょっとだけ名が知れていて、彼女のブログには読者も多かった。そしてたしかにその頃書いていたのだ。「皿洗いがキライでたまらない」という、憎しみのこもった記事を。

「えっと、でも私は普通にお皿、洗いますけど」

なんとなく自己保身したくなって思わずそんなことを言ったが、彼は「ふーん、そうなんだ」と、あんまり意に介していないようだった。

手際よく分岐水栓を取り付けて本体を設置すると、息子とひとしきり遊んだあとでお兄さんは帰っていった。

「あ。アライさん、です。それ」

何かと思ったら、彼が食洗機につけた名前だった。

 

その日から4年以上、毎日活躍している。家にいる時間が長い最近は、1日のなかで2回も3回も使うことだってある。

アライさんも第二の人生を与えられて嬉しかったりするのかな。物に名前を付けると自然とそんなことを考えてしまうのだから、私も単純である。

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