【連載】「ロボットがいる日常」をデザインするvol.3 モダニストが語る現代のデザイン

Jul 27,2018interview

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Jul27,2018

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【連載】「ロボットがいる日常」をデザインする vol.3 モダニストが語る現代のデザイン

文:
TD編集部 成木

フラワー・ロボティクス社代表、ロボットデザイナー松井龍哉(まつい・たつや)氏へのインタビュー。最終回では、松井氏の感性の軸になるものについて聞いてきた。テクノロジーが発達し、人々の生活が変わって行く中で、過去から未来まで共通する、普遍的な美しさとは何だろうか。

企業を超えたソリューションのデザインへ

松井さんはロボットデザイン以外の領域でも活躍されていますね。

はい。いくつかありますが、お話しできる範囲だと「コネクティッドホームアライアンス」という企業連合体のデザインディレクターをやっています。
家電や車、保険などの全ての製品や産業が総合的に”つながる”、そういうアソシエーションを去年の秋につくりました。現在100社以上が加盟しています。
例えば日立のエアコンと、パナソニックのテレビと、シャープの冷蔵庫……。今は同じ家の中にあっても関わりがないんですよね。でも、これらをコネクトすると新しいことがたくさん生まれるんです。

コネクティッド・ホームアライアンスのWebサイトより。 アライアンス連携前の状況と、連携することによりものが繋がるイメージ

例えば朝「おはよう」って部屋に話しかけると、カーテンが開いてコーヒーが出来上がって、テレビのニュースが流れる。地震が起こったら、ドアの鍵が開いて、ガスは止まり、テレビには地震速報が流れて、家族の安否や居場所がわかる。”地震”という言葉を家が理解した瞬間に、全部が一瞬でできる。人間はあたふたしてても大丈夫。
これって家電のメーカーやサービスが全部つながれば今すぐにでもできる話なんですよね。
ちょっと工夫すればすぐつながるのに、いろんな理由でできない。だから企業と企業が連合して壁を取り払うっていうのが、このプロジェクトです。

Webサイトで公開されているイメージムービー。IoTが暮らしをより便利にしていく様子がわかる。

ここでは「つなげたことで生まれる価値をどうデザインするのか」を考えるのが僕の役割です。姿形のデザインというよりも、ソリューションのデザインですね。
プロジェクトの中では「ネットワークをつなげた際にデータを盗まれたらどうするか?」など、ネットワークをつなげることで発生する問題や障害の研究も同時におこなわれています。

つながることが前提になると、今後デザイナーの仕事も大きく変わっていくでしょう。個別のプロダクトやデバイスを作ることじゃなくて、ひとつのまとまった価値をデザインすることが仕事になります。どういうつながりをつくるのか、何をどうつなげると新しいサービスができるのか、そうするとどんな世界になるのかを描いていくのがデザイナーの仕事になる。

ビジネスもお金の作り方も変わって、デザイナーの仕事もどんどん変わっているのが現状ですよね。日本のデザインの分野でもモノづくりの部分だけがホットなわけではなくて、いろんなものをどうつなげるか、ということもデザイナーに求められています。
普遍的でシンプルな仕組みを常に追求していくことが、デザイナーの能力としてはすごく大事だと思います。

松井さんの仕事って、一般的な「デザイナー」のイメージとは違っていますよね。

皆さんが一般的に現代のデザイナーをどのように把握しているかわかりませんが、私の知る、世界で活躍している多くのデザイナー達はかなり広範囲で仕事をしていますよ。
机でコツコツとプロダクトデザインだけやっている人なんてほとんどいません。

例えばダイソン社の創業者のジェームズ・ダイソンはそもそもデザイナーです。彼の仕事の範囲は途方もありません。
そして、私が尊敬する建築家のノーマン・フォスター。彼は世界中で1400人を超える建築家が働く設計事務所の経営者です。
彼が大勢の社員を率いてなぜあれだけ技術的に難易度の高い建築を完成させているかと言えば、技術者……特に構造家、設備設計、機械設計、電気設計、環境計画の専門家や財務計画、法務を行う様々なエキスパートを集め、最適な設計ができる組織を作っているからです。
フォスターの建築こそ現代的で、作るプロセスもインダストリアルデザイン的。この仕事の最上位にあるような気がします。なぜなら最良のデザインをするために、フォスターが現代で考えられるあらゆる手法でデザインに挑戦しているからです。それは彼が建築家でありデザイナーだから出来ることなのです。
デザイナーの仕事は図面を作るだけではありません。独立したプロフェッショナルなら様々な交渉から人事、財務計画も含め途方もない仕事量を責任をもってやっているのが当たり前の現状だと思います。それが現代のデザイナーと言えると思います。

現代のデザイナーですか。

一言でデザイナーと言っても世界には様々な方向性があると思いますが、僕はデザイナーの中では「モダニスト」であると自負しています。
僕のデザインの師は建築家の丹下健三先生です。師は建築家でありモダニストです。
新しい技術や材料、新しい考え方、新しい社会に対して、最も現代的な方法と工法で社会の中で新しいデザインを実行する仕事です。
その思想は僕の仕事の中で建築になっていくときもあるし、ロボットになっていくときもあるし、工業製品になる場合もある。いろいろ変わりますけど、常に「次の”現代的なもの”とは何か」と追い続けている仕事です。

あぁ……モダニスト、ですね。今すごく、しっくりきました。
今回、ロボットデザインについて聞きたいと考えインタビューを依頼しましたが、終わってみれば「ロボットのデザイン」という狭い領域だけでなく、デザイナーの仕事の価値と意義について深く考えさせられました。ありがとうございました。

松井 龍哉(まつい・たつや)

フラワー・ロボティクス株式会社代表取締役社長/ロボットデザイナー。 1969年東京生まれ。91年日本大学藝術学部卒業後、丹下健三・都市・建築設計研究所を経て渡仏。科学技術振興事業団にてヒューマノイドロボット「PINO」などのデザインに携わる。 2001年フラワー・ロボティクス社を設立。ヒューマノイドロボット「Posy」「Palette」などを自社開発。現在、自律移動型家庭用ロボット「Patin」を開発中。2017年よりヨーロッパ各地の美術館/博物館にて開催される巡回展”Hello, Robot”展に出展中。 ニューヨーク近代美術館、ベネチアビエンナーレ、ルーヴル美術館、パリ装飾芸術美術館等でロボットの展示も実施。 iFデザイン賞(ドイツ)red dotデザイン賞(ドイツ)など受賞多数、日本大学藝術学部客員教授、グッドデザイン賞審査委員(2007年から2014年)。

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