【連載】心を動かすgoen°のデザインvol.3 アイディアのヒントは「根っこ」にある

Apr 13,2018interview

#goen°

Apr13,2018

interview

【連載】心を動かすgoen°のデザイン vol.3 アイディアのヒントは「根っこ」にある

文:
TD編集部

アートディレクター・森本千絵さんへのインタビュー最終回。博報堂を独立したきっかけと、独立後を振り返ってもらった。森本さんがデザインのアイディアを考えるときに大切にしているものとは。

goen°という名前がプレッシャーに

博報堂から独立して経営者という役割も担うことになったと思いますが、いかがでしたか?

もう大変で……なんとかやっていけている状態でした。
goen°という名前をつけたこともプレッシャーになりました。「仕事を納めたら終わり」というわけにはいかないというか、きちんと深い付き合いをして仕事しなきゃいけないという重圧を感じていました。崩れては埋めての繰り返し。結婚から出産のタイミングで、やっと骨組みができたかなと感じています。
なので、独立して会社をやるってこういうことなのだと、やっと人に話せるようになったのはここ最近です。10年かかりましたね。

産後はドライになったというか、仕事と家庭の線引きをするようになりました。女心とか母性とか妙なものを仕事に入れずになって仕事しやすくなりましたね。
面白いことに、妊娠中までは育児関係の本や保育園のデザインなどのお仕事があったのですが、産後は逆に、そういった仕事が来なくなりました。お母さんらしい仕事が来るのかな、と思っていたのですが、少しびっくりしました。

へえ、それは不思議ですね。なぜだと感じますか。

うーん、妊婦の時とは違って、出産後は「母性が外付けになった」からかな。出産した時に母性も娘と一緒に外に出て行った感じがあります。例えば、娘を保育園に預ける前までは、言葉にできないような、あったかい気持ちなのですが、預けて仕事に向かう時はすごく冷静な自分がいて、仕事に立ち向かっていくモードに切り替わります。

壁一面の本棚には、これまで森本氏が手がけてきた作品や書籍、図鑑、雑誌、さらに森本氏のスケッチブック、海外の人形やオブジェなどが並ぶ。

アイディアのヒントは、根っこにある

今は、昔よりも色々なところで「デザイン」という言葉が使われ、役割も多くなっているように感じます。デザインを考える上で、森本さんが大切にしていることは何でしょうか。

デザインもそうだけど、今は誰もが映像を作れて発信源になれたり、誰もが繋がりあえて生み出せたりする時代ですよね。それでも、何が新鮮か、何が必要で何が新しいのかという壁に毎回ぶつかります。そんな時はこれからどうなっていくのだろうなと考えますが、私は「根っこ」の部分に未来があるのではないかと思うんです。

新しいことには、どんどん挑戦していきたいと思っていますが、その時は逆に根っこにあるものを引き出してアイディアに転換することが大事だと感じていますね。

未来のことを考えれば考えるほど、より身近で当たり前な、私たちの根っこに意識が戻ってきます。
延命治療などをはじめとして今は人工的に「進化させる」時代ですけど、人間を無理に生かすことが幸せなのかと疑問に思うというか……。当たり前に人生を全うして、幸せに死んでいくという、「昔から変わらない根っこの部分」を忘れないように、それを感じさせるスパイスを、デザインのアイディアに入れなきゃいけないと思います。

人の寿命とか、日が昇ったら起きて暮れたら寝るとか、ご飯は決してサプリメントでは代替できなくて箸を使って噛んで食べるとか、1人で食べずにみんなで囲むと楽しいとか。
そんなうっかり忘れてしまうことの一つひとつが、ずっと昔から、私たちが持っている才能、当たり前なこと。私はそこに未来のヒントやアイディアがあると考えています。

「根っこにあるものを引き出してアイディアに転換する」……! ありがとうございました。
「すべての出会いは、ただの出会いではなく、ひとつひとつ奇跡的なこと。それを言葉にするなら『ご縁』」
(森本さんの著書『アイデアが生まれる、一歩手前のだいじな話』より)。
goenコイン、まだ配ってるのかな。

森本 千絵(もりもと・ちえ)

1999年博報堂入社。 オンワード樫山、Canonなどの企業広告、松任谷由実、Mr.Childrenなどのミュージシャンのアートワーク、映画・舞台の美術、動物園や保育園の空間ディレクションなど活動は多岐に渡る。 伊丹十三賞、日本建築学会賞、日経ウーマンオブザイヤー2012など多数受賞。

この記事を読んだ方にオススメ