【連載】グッドパッチが挑む、デザインの社会的価値の向上vol.2 デザイナーの領域を超える仕事

Jul 21,2017interview

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Jul21,2017

interview

【連載】グッドパッチが挑む、デザインの社会的価値の向上 vol.2 デザイナーの領域を超える仕事

文:
TD編集部

グッドパッチ創業者の土屋尚史氏へのインタビュー。第二回は、UI/UXデザインが当たり前となった現代における「デザイナーの役割」の変化について聞きました。

日本のデザイナー教育を変えていく

そういう概念自体があまりないですよね。でも、御社がそうやってデザインの価値を証明し続けることは、一種のデモンストレーションというか、未来のデザイナーたちに気付かせる役割になるのかなと思いますね。

そうですね。最終的には日本のデザイナー教育が変わらないといけないんです。でも、チャレンジしている大学も少しずつですが出てきましたよ。
多摩美(多摩美術大学)は、グッドパッチが開発しているプロトタイピングツール「Prott」導入をして授業でも使ってくれています。UIデザインの授業は、産学連携として僕たちがサポートさせていただいています。まぁでも、全部の美大がUI/UXを授業に取り入れられるかというとそうはならないでしょうね。
やっぱりほとんどの教授陣が他業界出身ですから、学内で教えられることも限られますし、学生に勧められるキャリアも限られますよね。

複数の画像をアップロードしつなぎ合わせ、アニメーションを指定するだけでプロトタイプを作成できる「Prott」。多くの企業・教育機関で使われ始めている
なるほど……。

例えば昔は、広告におけるターゲットユーザーのタッチポイントは基本的に一回だけで、そこで必ず心をつかまないといけないという考え方がありました。ファーストタッチで全て決める、みたいな。
でも今は「ユーザーを育てる」という考え方にシフトしてきていて、割と長い期間プロダクトに触れさせるという考え方に変わってきています。広告すらもサービスの一部として考える、という感覚ですね。その流れを受けるようにUXという言葉がマーケットに溢れ始めたんだと思います。

UI/UXという概念自体が最近になって一般化したように感じますね。

やっぱりスマートフォンが出てきて変わったところは大きいでしょうね。昔から当然、こういった概念はありましたが、本当にビジネスシーンで語られるようになったのは、この5年くらいなのではないでしょうか。
当然、教育現場にUI/UXを教えることができる人も少なくて。

そういう意味では、ビジネスの第一線で頑張っている人たちすらも、世の中の流れに適応しながら「UIとは何なのか」「UXとは何なのか」を考えながら仕事をしている状態です。それをアカデミックな領域まで落とし込んで、教えることができる人が本当に限られている状態なので、教育自体もかなり難しいんでしょうね。

UI/UXデザインが必要とされるようになったのはなぜ?

UI/UXデザインといっても、ビジネスの現場では本当にこの数年ぐらいで求められるようになってきたなという感覚があります。なぜ今、UI/UXデザインがこんなにも必要とされるようになったんでしょう。

世の中の流れ、トレンドが大きく影響していると思います。スマートフォンの普及に伴い、様々なデバイスが登場したこと。

昔は、PCを含むいわゆる「デジタルデバイス」に触れる機会って1日のうちに多くても2回だけだったんです、一般の人は。
朝起きて、自宅のパソコンにログインして、その後学校とか会社に行ったら自分のパソコンには触れないわけです。家に帰ってもう1回ログインしてメールしたり、インターネットで遊んだりする。多くても2回しかタッチポイントがなかった。しかし、スマートフォンが登場したことによってデジタルデバイスに接触する機会が大幅に増えました。

これは『Design in Tech Report 2015』の中で調べられているんですけど、スマートフォンのロック解除を1日に平均して150回以上している、と。

すごい数ですね。

しかも今となっては、パスコードも入れないで使ってますからね。

指紋認証で一瞬ですね。

押すだけですからね。「ログインした」という感覚もないわけですよ。昔はデスクトップ上だけの体験だったのが、常に電車に乗りながら歩きながら、待ち合わせをしながら、お店に入ってから……と、シチュエーションが全く違うところで使うようになったわけです。
この変化が確実に大きな影響を与えていて。

しかも、これらのデバイスは生活にかなり重要な部分を担っています。人とコミュニケーションを取ったり、何かを調べたりする全てのインターフェースですよね。
この使い勝手とかユーザー体験ってめちゃめちゃ重要なわけです。

そしてもう一つ重要な点として、iPhoneが最初にスマートフォンをマーケットに投入してくれたおかけで、体験レベルのハードルが劇的に上がったんです。

iPhoneで使えるアプリケーションは、使いやすくて、ルールに則っていて、ユーザーが意識しなくても直感的に操作できるという必要があります。そしてそこから提供されるアプリケーションのほとんどが無料、という。
90%以上が無料のアプリで、同じ目的を達成できるアプリはたくさんあります。
例えば家計簿アプリなんかはわかりやすいですよね。ほとんど同じことができるものばかりで、ユーザーが何を基準に選ぶかというと、やはり自分が使いやすいと思えるかどうかなわけです。それだけでなく「使いたくなるデザイン」であるかどうかもかなり重要です。

使いやすさについてわかりやすく言うならば、要は説明書がなくても触っていたら何をすればいいかが分かる、ということ。これがUIです。使っているなかでストレスがない、使いやすい、楽しい、という感覚。これがUXです。

結局ユーザーは、ここが優れているプロダクトを使い続ける。ユーザーが使い続けることがビジネスの価値にひも付いていくので、だからUI/UXが大事だと気づき始めて、この領域がわかる人間が必要とされるようになったのではないかと思います。

開発中のアプリやウェブサイトの画面にワンアクションでスクリーンショット・ムービーを撮り、コメントと共にチームメンバーに伝えることができる『balto』。
クライアントワークだけでなく、UI/UX改善のためにエンジニアやデザイナーが使えるツールを独自開発している点もグッドパッチの面白いところだ

結局、なぜ僕たちがUIにフォーカスしてるのかというと、ここがビジネスの肝になるからなんですよね。いくら企画段階でいろんな素晴らしいことを考えたとしても、ユーザーとのタッチポイントであるUIが使いづらかったり、使っててなんかちょっと気持ち悪いとか指に引っ付いてこないとかというものだと、結局ユーザーが使ってくれないわけですから。
ユーザーに使い続けてもらうことを考えて設計し、実装するところまでやらないといけない。僕が5年前に会社を創る以前は、そこだけをやる会社が日本にはなかった、ということなんです。

なるほど、よくわかりました。ありがとうございます。次回は最終回。デザイナーを志す若者へのメッセージを中心に、お話を伺っていきます。

 

※次回「vol.3 学生時代の海外インターンを薦める理由」は7月28日(金)更新予定です。

 

土屋尚史(つちや・なおふみ)

株式会社グッドパッチ 代表取締役社長 / CEO 1983年生まれ。Webディレクターとして働き、サンフランシスコに渡る。btrax Inc.にてスタートアップの海外進出支援などを経験し、2011年9月に株式会社グッドパッチを設立。 UIデザインを強みにしたプロダクト開発でスタートアップから大手企業まで数々の企業を支援。 2015年にベルリン、2016年には台北に進出。 自社で開発しているプロトタイピングツール「Prott」、フィードバックツール「Balto」はグッドデザイン賞を受賞している。http://goodpatch.com/

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