「ものづくり」の領域を超えた、イサムノグチに憧れて
僕は元々、彫刻学科で木や鉄を使ってインスタレーション型の彫刻作品を作っていました。そんなとき、たまたま見つけた「家具修理人募集」というアルバイトのチラシがデザインの道へ進むきっかけでした。
そこでは18世紀のアンティーク家具を解体し、組み直して修繕して販売する仕事をしました。一度解体したものを組み直して新しくするという方法が、デザイン的で面白かったんです。解体する作業ではその当時の技術や思想・文化が見えて、椅子というものに歴史が残っていると感じました。
当時「デザイン」という言葉は、かなり分業的な意味合いで使われることが多かったです。グラフィックやプロダクトデザインだったら商業・工業の産業にしか繋がらないものだったんです。けれど、家具の修理を通して、もっと幅の広い、領域を超えるデザインもできるのではないかと思ったんです。

その時にふと、自分がなりたかったイメージを思い出しました。
実は僕、イサムノグチのような人になりたくて彫刻学科に進んだんです。彼は彫刻以外にも建築やデザインも手がけていました。それまでは彫刻のことしか考えていなかったけど、その瞬間から自分もそうしたいなと。領域を超えたデザインやものづくりで新しい社会の構造を作れるかもしれないと、そんな可能性や新規性を感じて。
「外の視野を持ったヨソモノであれ」
田舎に直行する子が多くなったなと感じます。東京で学ばずに、そのまま地方へ行って活動する子が増えたと思いますね。その子達が、その土地に合ったデザイナーに育っていけばよいし、その場で育ったデザインというのもあってもよいと思います。
ただ、視野が広がっていないと、その土地に貢献もできないので「外の視野を持ったヨソモノであれ」と学生には教えています。俯瞰能力がすごく大事になってくると思いますね。
ただのグラフィックデザイナーや、プロダクトデザイナーというだけでは、もう仕事が回ってこないと思います。「編集能力も高いあのグラフィックデザイナーにお願いしよう」とか、「昆虫に詳しいあのプロダクトデザイナーに仕事を頼んだら、面白いものができそうだ」とか、技能だけではなく、その人の個性や特性が求められると思います。
技能は鍛えれば誰にでも身につくので、重要なのは個性ですね。自分が好きなものを突き詰めたり、デザイン以外の能力を磨いたりして、自分のオリジナリティを育てていってほしいです。

はい。graf villageについてはまだ、完成していません。この構想を思いついた当初は「場所」を作ろうとしていたのですが、今は「grafのネットワーク」自体をvillageと呼び、広げていこうと思い始めています。

※編集部が取材に訪れた、grafさんの事務所の一階にあるカフェ&ショップはこちら。

graf studio : グラフスタジオ
〒530-0005  大阪府大阪市北区中之島4丁目1番地9号 graf studio
営業時間 / 11:00 – 19:00
定休日  / 月曜日(祝日の場合は翌日休)
お問合せ / Shop&Kitchen : 06-6459-2100

服部 滋樹(はっとり・しげき)
1970年生まれ、大阪府出身。graf 代表、クリエイティブディレクター、デザイナー。美大で彫刻を学んだ後、インテリアショップ、デザイン会社勤務を経て、1998年にインテリアショップで出会った友人たちとgraf を立ち上げる。建築、インテリアなどに関わるデザインや、ブランディングディレクションなどを手掛け、近年では地域ブランディングなどの社会活動にもその能力を発揮している。京都造形芸術大学芸術学部情報デザイン学科教授。

graf
大阪を拠点に家具の製造・販売、グラフィックデザイン、スペースデザイン、プロダクトデザイン、コミュニティデザイン、カフェの運営や食や音楽のイベント運営に至るまで暮らしにまつわる様々な要素をものづくりから考え実践するクリエイティブユニット。 中之島と家具工場のある豊中を拠点に、複数の業種から生まれるアイデアを組み合わせデザインに取り組んでいる。 近年では、生産者や販売者と生活者が新しい関係性を育む場づくりとしてのコミュニティ型プロジェクト「FANTASTIC MARKET」や、滋賀県や天理市をはじめとるする自治体のブランディングなど、新たな活動領域を開拓している。 http://www.graf-d3.com



