「ダサい」デザインに着地しそうになったら?
「だってその色が売れてるんだから」って話ですよね。
そういうときでも、相手はちゃんと相手の論拠があって言っていると思うんですよ。「だって、これだけ売れてるんだもん」っていう。ただその論拠は「今」に立脚しているわけです。マーケティングってそういうものですよね。そこで勝負してもしょうがないんです。だから「将来はこうなのだ」っていうための材料を、自分でどれだけ用意できるかが大切です。例えば、一番進んでいると思われるファッションを例に出してみたり。自分なりの立脚ポイントを作っていくっていうのが、すごく大事です。そうすることで、前向きな議論になりますよね。ちょっとずるい手使うなら、「これは、この色で一番よく見えるようにデザインしたんで」って言ってみたり(笑)。
僕もよくありますよ。クライアントさんから「これ、シャンパンゴールドにしてみたらいいんじゃない」みたいに言われるの。その瞬間は、僕のほうがイメージの解像度が高いので、頭の中で「ダサくなるよ……」って思うんだけど(笑)。でも、あえてやってみるんです。それはやっぱり手間ですが、僕は相手へのスタンスとして一回その案を信じてみるんですね。信じた上で、最大限その案で良くしてみるんです。シャンパンゴールドって言われたら、その範囲で試行錯誤してみる。もしかしたらシャンパンゴールドと言いつつ、限りなくシルバーに近いシャンパンゴールドが、一番良くなるかもしれないんです。

もしそうなったらそれはひとつ階段を上った瞬間ですよね。自分では絶対シャンパンゴールド系にはいきたくないと思ってたのに、信じてやってみたらシャンパンゴールドのようなシルバーのような不思議なところにたどり着いて、全員が納得しちゃう、っていうね。それがクリエイティブなコミュニケーションだと思うんです。だから、一回はちゃんと信じてみる。相手だってきっと現状に満足してないから言うんだと思うんです。その人が納得して黙るところまでたどり着いていないんだな、という情報は受け取らないといけないですよね。マーケティングってそういう情報だと思います。
どんな情報にでも絶対に価値はあると信じています。マーケティングの人が「絶対、白が売れるんです」とか「今はシャンパンゴールドなんですよ」って言ったら、「ちっ、またかよ」って思っちゃダメですよね(笑)。実際売れてるんだし。だから、そういうのも含めて自分のクリエーションのきっかけにしてしまえば良いんです。嫌な意見が出たら、「やった」って思わないと。「これで俺、変われる」みたいな感覚です。それが一緒に階段を上っていくっていうことだと思うんですよね。
これ、デザインの本というより、コミュニケーションの本なんですけどね(笑)。決して、対立の場ではないんですよね、会議って。でも対立意見が出るっていうことが一番健全なのは間違いなくて。それをどう自分の中でクリエイティブなものに昇華できるかってところが勝負です。そして、自分がそういうことをやると、相手もどんどんそういうモードになっていくんですよね。



