【連載】社会を変えるNOSIGNERのデザインvol.1 デザインを暗黙知から形式知へ

Jun 09,2017interview

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Jun09,2017

interview

【連載】社会を変えるNOSIGNERのデザイン vol.1 デザインを暗黙知から形式知へ

文:
TD編集部

プロダクトデザイン、グラフィックデザイン、空間設計、インスタレーション……。幅広い分野で「ソーシャルイノベーションのためのデザインファーム」を掲げ、縦横無尽に活躍するNOSIGNER、太刀川瑛弼(たちかわ・えいすけ)さん。実は、大のクルマ好きでもあります。
全3回の連載、1回目となる今回は「デザインを形式知に落とし込む」というテーマで話を伺いました。「センス」や「才能」といった「暗黙知」の文脈で扱われがちなデザインですが、「適切に説明できるというのはすごく大事なこと」だと太刀川さんは語っています。ご本人のデザイナーとしての原点から、現代における「デザインの回帰運動」のお話まで深く濃く、お話しいただきました。

今また、デザインの回帰運動が起こっている

デザインの回帰運動、ですか。

回帰運動というのは、いわばデザインの源流に帰っていく動きですね。デザインというのは、もともとそういうもの、つまり世の中に必要な体験や接点を作りだすために、可視化・具現化するものだったんです。

例えば、第1次世界大戦で世界が荒れた後、産業革命を背景にして、誰もが豊かな世界を取り戻せるはずだといってはじまったのがモダニズムです。戦後住宅が足りなくなり、そういう問題を可視化するために今でいうインフォグラフィックのアイデアを生み出したオットー・ノイラートみたいな人が出てきて、インフォグラフィックというインターフェースを使って世の中をドライブさせ、実際に住宅供給するUXまで設計する。デザインは、社会に必要な接点と体験を作りだすことができる。そういう意味でソーシャルミッションと不可分でした。

仙台市の高進商事と共同開発した防災セット『THE SECOND AID』。
NOSIGNERが東日本大震災発生から40時間後に立ち上げた災害時に有効な知識を集めて共有するwikiサイト『OLIVE』の取り組みが反映されている

第2次世界大戦後には、同じようにミッドセンチュリーという形で新しい流れが出てきます。イームズなんかが代表的ですが、戦時中はギプスを作っていて、それが家具になって世の中に広がっていく。「世の中がこうなっている」とか「こうなりたい」というビジョンをいち早く可視化して具現化するためにデザインがあったんです。

だから本来、新しい関係性を生み出すこととデザインというのは不可分だったはずなんですが、高度成長期にわれわれはデザインを細分化してしまったので、接点や体験をつくりだすようなジェネラルな職能としてのデザインというのが希薄になってきてしまったんですね。これはとても残念なことで、それをもう1回取り戻すべきだと考えています。

確かに現代においてデザインは、分野ごとの専門性が高いですよね。

グラフィックデザイナーはグラフィックの領域にいるのが好きだし、建築家は建築の領域にいるのが好き。専門の中でやっていれば楽しいし、成熟した産業としてそれなりに需要もありますから。でも各領域で、そこで安穏としていていいのかと問題意識を持つ方もいらっしゃいます。それこそ大先輩から、僕らの後輩のような若い世代までいるんですけど、そういう人たちが自分の領域を広げて、横につながり始めています。

「THE SECOND AID」に次いで仙台市の高進商事と共同開発された車内防災キット「CAR EMERGENCY BOX」。
大雪時に車内に閉じ込められてしまった開発者の実体験が製品に生かされており、ダッシュボードに入るコンパクトでスタイリッシュなデザインになっている

これはつまり、自分たちの価値を相対化しようとしているんですね。グラフィックデザイン、インダストリアルデザイン、建築デザインの価値は何だろうということを外から見ようとする動きが起こっています。そして、これを企業の経営サイドから見ようとしているのが、デザイン思考というムーブメントだと思います。

今、デザインの回帰運動が再び起こりはじめたきっかけは何でしょう。
たくさんあります。
ひとつはモダニズムにおける産業革命のように、情報革命があったこと。ネットによって人のつながり方は大きく変わりました。
次に、戦後の様々な事業や組織、または制度が経年劣化して更新を必要としていること。新しいものをつくるのにはデザインが必要ですから。
同時に、WikiLeaksに象徴されるようにタブー化されていたもの、閉じ込められていたものが閉じ込めきれなくなっているというのもあります。そうすると、いいアイデアはなるべく早く共有するっていうマインドになってくる、という変化も起こっています。
なるほど、ありがとうございました。次回はさらに、アイデアが生まれる思考プロセスについて、より深く聞いて行きたいと思います。

※次回「vol.2 独創的なアイディアを生む思考プロセス」は6月16日(金)更新予定です。

太刀川瑛弼 (たちかわ・えいすけ)

NOSIGNER代表。慶應義塾大学SDM特別招聘准教授。ソーシャルデザインイノベーション(未来に良い変化をもたらすデザイン)を目指し、見えないものをデザインすることを理念に総合的なデザイン戦略を手がける。建築・グラフィック・プロダクト等のデザインへの深い見識を活かした手法は世界的に高く評価されており、グッドデザイン賞金賞、アジアデザイン賞大賞(香港)、PENTAWARDSプラチナ賞(食品パッケージ世界最高位/ベルギー)、SDA 最優秀賞、DSA 空間デザイン優秀賞など国内外の主要なデザイン賞にて50以上の受賞を誇る。東日本大震災の40時間後に、災害時に役立つデザインを共有するWIKI「OLIVE」を立ち上げ、災害のオープンデザインを世界に広めた。その仕事が後に東京都が780万部以上を発行した東京防災のアートディレクションに発展する(電通と協働)。また2014年には内閣官房主催「クールジャパンムーブメント推進会議」コンセプトディレクターとして、クールジャパンミッション宣言「世界の課題をクリエイティブに解決する日本」の策定に貢献した。

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