独創的なアイデアを生むための思考プロセス
そうですね、まず、先程申し上げたようにコンテクストは徹底的に洗います。そのブランドそのものだけでなく、領域全体を徹底的に見直し、考え直します。
あと、意外なものと結び合わせようとしますね。
「今までこの作戦は取ってなかったはずだ」
「でもこういう領域ではこの作戦はあるな」
とか、そういうことをつなげていきますね。
例えば日本茶だったら「スタバと結びつくとどうなるか?」とか。そういうふうに「隣にあるのに、つながってないもの」をいっぱい探します。

そうやってみていくと、つなげていったときに小さかったはずのその領域が、ほとんど姿を変えず、「もう少し拡張されたもの」に見えるようになるんです。
例えば「お菓子屋さん」を例に考えてみましょう。そしてテーマを「お菓子ではなくティータイムを作る」ということにふうに拡張するとします。そうすると、「良い時間をつくるための手段は何か」という問いにアップデートされますね。そうすると「全てのケーキに、食べる時のオススメの音楽をくっつけるとどうなるか」みたいな、角度のちがうアイデアに飛ぶことができるわけです。
問いを拡大して、会社の問題を領域の問題へ、文化の問題へと可能な限り拡げていく。その他にも拡大していくレイヤーはいくつもあり、プロジェクトによってどこまでやるかは違いますが、すべてのプロジェクトでこういった拡大にトライするようにしています。
身に付きますよ。
ぼくにとっても毎回謎かけですから、最初は全くわかんないんですよね。笑
うーん、本を読むのが好きだということもありますが、デザインする対象の周囲の知識や情報が無いと、デザインをするための適切な制約が見えないんですよね。制約の中にもいろいろあって、「制約に見えない制約」とかもある。例えば歴史的にこうだからとか、みんな知らないからとか、明文化されていないけど制約になっているものがある。この制約を1回喜んで受け入れるプロセスっていうのが必要なんですよ。
こういう、制約を俯瞰するための知識がなくても「偶然のヒット」が出ることはあると思います。偶然、当たったり外れたりするための強度のあるぶっ飛んだアイデアを出せるようになるっていうのも、それはそれで手法があります。だけど「このアイデアはぶっ飛んでいながら地に足が着いている」という両方ができないといかんな、とプロとしては考えます。文脈そのものに響くようなアイデアの強度が大事なので。だから僕はプロジェクトが始まると、その文脈について薄く広くまず勉強をしますね。基礎知識レベルを上げておくというか。
うん、そうかもしれないですね。「皆さん、今日の取材のために僕の本を読んできていただいたみたいで、ありがとうございます」って……それと同じことですよ、要するに(笑)。「このプロジェクトを始めるんだったら、この分野の常識は持っておいてもらわないと不安だよ」、と思うのは、クライアントにとって当然の心境だと思います。面と向かっては言われないですけどね。
ところが逆に基礎知識を固めていけば「そこまで勉強してきてくれたなら、安心できる」みたいな空気になる。相手も「俺も見たことないわ、それ」みたいなかんじで盛り上がることもある(笑)。
今まで関わってきたプロジェクト、それぞれのときにマイブームのようになって、その分野や業界に没頭するんです。「このプロジェクトが始まったから、せっかくだし趣味にしてこの分野に詳しくなろう」みたいな感じで始まっていくわけです。
そうなんですよ。すでに知っていたり、見たことがあったりするものであっても、いざ仕事しなきゃいけないってなると、もう一歩も二歩も詳しくならなきゃいけないですよね。そうすると、「まだまだやらねばならん!」みたいな感じになるじゃないですか。
そのときに仕事を通して知識の層が広がっていくわけですね。いい仕事ですよ、デザイナーって。
僕はデザインに対して、僕たちがいるデザインの文脈でアプローチをするんじゃなくて「デザインする対象の文脈を受け取って、自分たちが持っているデザインの文脈と掛け合わせていく」っていう考え方なんです。
こういう見方をすれば、職能としてのデザイナーの意義、価値は上がると思うんですよ。どんなプロジェクトにもデザインは必要なので。それはある意味では、古来、総合的な哲学者というか、創造者として建築家がいた、みたいな話の復権に近いのかもしれません。
「領域同士をつなげられる知」を持っている人がいいよね、みたいな話は、ここ最近になって盛んにされている印象だけど、でも実は昔からそうだったんじゃないかな、と。
だから今、デザイナーがそういうふうに他領域を勉強して飲み込んでいく、という意味でもっと野心的になっていいんじゃないかって思いますよね。そういうデザイナーを必要としている人いっぱいいますよ。本当に。

日本産オーガニック栽培のレモンの皮をそのまま剥いたかたちが瓶にあしらわれている。
UV印刷でエンボスまでリアルに再現されており、剥きたてのレモンの皮の瑞々しさが表現されている
仕事を選ぶ3つの基準
大きく分けると3つですね。
1つはすごい個人的ですけど、テーマが魅力的かつ、自分たちの成長になり得るかどうか。自分たちがそのテーマに対して、結構ディープに時間を使いますからね。だからそのテーマにディープに入っていきたいと思えるかということですかね。
2つ目は、相手が起こそうとしている変化に共感できるかどうか。僕は基本的にチェンジメーカーを応援するっていう姿勢で仕事をしているつもりなので、相手がその文脈の中で変えようとしているものや、そういうふうにありたいと思っているあり方に共感ができるかどうかはとても大事です。
もっと平たく言えば「相手の取り組みと、相手自身が好きになれるかどうか」っていうことに近いかもしれませんけど。
「あなたのやろうとしていることはすげえ、いい。でもデザインがあったらもっとよくなるよね、もったいないよね」っていうふうに、素直に言えるプロジェクトをなるべくやりたい。

※次回「vol.3 未来のモビリティとデザインの関係性」は6月23日(金)更新予定です。

太刀川瑛弼(たちかわ・えいすけ)
NOSIGNER代表。慶應義塾大学SDM特別招聘准教授。ソーシャルデザインイノベーション(未来に良い変化をもたらすデザイン)を目指し、見えないものをデザインすることを理念に総合的なデザイン戦略を手がける。建築・グラフィック・プロダクト等のデザインへの深い見識を活かした手法は世界的に高く評価されており、グッドデザイン賞金賞、アジアデザイン賞大賞(香港)、PENTAWARDSプラチナ賞(食品パッケージ世界最高位/ベルギー)、SDA 最優秀賞、DSA 空間デザイン優秀賞など国内外の主要なデザイン賞にて50以上の受賞を誇る。東日本大震災の40時間後に、災害時に役立つデザインを共有するWIKI「OLIVE」を立ち上げ、災害のオープンデザインを世界に広めた。その仕事が後に東京都が780万部以上を発行した東京防災のアートディレクションに発展する(電通と協働)。また2014年には内閣官房主催「クールジャパンムーブメント推進会議」コンセプトディレクターとして、クールジャパンミッション宣言「世界の課題をクリエイティブに解決する日本」の策定に貢献した。


