未来のデザイナーに贈る2つのアドバイス
2つあります。ひとつは、その領域のデザインについて、最初はセンスがなくてもいいから、その領域の文脈について誰よりもオタクになろうとしてみてほしい、ということ。これから世の中のデザインは加速度的に領域越境型のデザインになっていくと思います。そうなればなるほど、その文脈に対する知識が重要になります。そこが弱いと、デザインの強度が低いものしかできないんです。
ある程度までの文脈とか知識というのは、とても得やすくなっています。だからこそ、どこかの分野でひとつ、他の人にオタク的に勝てる部分を持っていると、それがすごく自分の身を守ることになるんです。誰でも広く浅くは追うんですが、どこかを深掘りするというのを怠りはじめる。だから自分がどこかの領域で強度のあるアウトプットが出せるというのを持っているのはすごく大事なことだと思います。

もうひとつのアドバイスはそれとは真逆で、その文脈がまったく関わっていないところをよく知っておいた方がいい。例えばグラフィックデザイナーとしてグラフィックをやりきってきた人が、今ウォール街でどういう投資が流行っているとか、面白いスタートアップはこれだとかを知っておくようなことです。そういう全然関係なさそうなことって、実はすごく関係がある。だから自分の領域外で起こっていることと、自分が深く掘った部分の答え合わせをしてみるといいと思うんですよ。そうすることでデザインにとって新しい文脈を取り入れると同時に、他の領域にデザインというツールを持ち込むことにもなり、ニ重の意味で文脈を作っていけるから。
「徹底的に深掘りした自分の領域を持つこと」そして「その外の領域も広く知っておくこと」。この2つですね。
僕であれば、デザイナーの言葉と、建築家の言葉と、ファシリテーターとしての言葉を使い分けることができるから、その幅によって揺さぶりをかけたり、ずらせるんです。
スケールを横断できるいくつかの特技があることで、強いアイデアにたどり着くまでの速度がグッと上がると感じています。


太刀川瑛弼(たちかわ・えいすけ)
NOSIGNER代表。慶應義塾大学SDM特別招聘准教授。ソーシャルデザインイノベーション(未来に良い変化をもたらすデザイン)を目指し、見えないものをデザインすることを理念に総合的なデザイン戦略を手がける。建築・グラフィック・プロダクト等のデザインへの深い見識を活かした手法は世界的に高く評価されており、グッドデザイン賞金賞、アジアデザイン賞大賞(香港)、PENTAWARDSプラチナ賞(食品パッケージ世界最高位/ベルギー)、SDA 最優秀賞、DSA 空間デザイン優秀賞など国内外の主要なデザイン賞にて50以上の受賞を誇る。東日本大震災の40時間後に、災害時に役立つデザインを共有するWIKI「OLIVE」を立ち上げ、災害のオープンデザインを世界に広めた。その仕事が後に東京都が780万部以上を発行した東京防災のアートディレクションに発展する(電通と協働)。また2014年には内閣官房主催「クールジャパンムーブメント推進会議」コンセプトディレクターとして、クールジャパンミッション宣言「世界の課題をクリエイティブに解決する日本」の策定に貢献した。


