【連載】カーデザイナー・トム俣野とロードスターvol.4 海外経験を結集したマツダでの取り組み

Jan 22,2018interview

#Miata

Jan22,2018

interview

【連載】カーデザイナー・トム俣野とロードスター vol.4 海外経験を結集したマツダでの取り組み

文:
TD編集部

初代ユーノス・ロードスターのデザインを手がけたトム俣野氏へのインタビュー。今回はマツダに移籍してから俣野氏が取り組んだ、プロセス改革のお話。複数の海外自動車メーカーで長年活躍したからこそ気づいた日本の「当たり前」に対する違和感を、俣野氏はどのように解決していったのだろうか。

開発システムを全て見直し、クレイモデルの制作プロセスまで変える

俣野さんは、デザイン以外にもマツダの内部で様々な取り組みをなさったんですよね。

ええ。僕はマツダでミアータやRX-7の開発に関わりましたが、一つずつの功績はそれほど大きいとは思っていません。むしろ今となっては、マツダの開発システムとプロセスに関与したことの方が大きいと思います。
マツダ入社当時、デザイン・クリニックは正面、側面、後面の3枚のスケッチやモデルの写真で評価されていました。米国では3/4ビューで全体を把握した中で判断します。従って、デザインの良し悪しも3/4ビューでの面造形のつながりやスタンス、光と影の繰り広げる感情に訴える要素によって判断されます。そこで以前の評価方法を変え、フロントとリアの3/4ビューを加えた5枚セットでのクリニック・ツールとしました。

1993年に発表されたRX-7(3代目)。スポーツカーらしさを引き出したデザインとなった。

それから本社におけるデザイナーの評価方法にも意見しました。当時は、いわゆる「想像力」「造形把握力」などの評価軸はなく、他の職種と同じく「時間を守る」「コストを守る」ということがデザイナーの評価軸になっていました。それは違うんじゃないかと。当然ですが、デザイナーは「デザイン力」を評価されるべきですからね。
ただし、デザイナーは「デザインバカ」ではいけない。商売としてのデザインも考えなくてはなりません。会社の売上を向上させるには量産型の開発が不可欠ですから、クリエイティブな才能とマーケティング視点の考え方の両方を兼ね備えていることが理想です。

開発システムやプロセスを変えることで、出来上がるデザインも変わることを海外の自動車メーカーで学んだという。

マツダにとって、海外経験のある日本人デザイナーを雇ったのは僕が初めて。そこで僕は自分が『チェンジ・エージェント』としての役割を求められていると勝手に判断し、他のデザイナーに勝つか負けるかということよりもマツダの開発システムを根本から変えることによって、より良いモノづくりができるようになればと考えました。デザイン提案だけではなく、全てのプロセスにおいて本社とは異なる視点で提案し続けよう、と

ほう。具体的な例は何かありますか。

そうですね、例えばクレイモデルを造っていくプロセスでしょうか。僕が入社した当時は、マツダではまず、設計図で描いた窓ガラスの位置を決め、そこから柱(ピラー)を貼っていくという方法でクレイモデルを造っていました。この方法をGM式に変更したんです。
GMではデザイナーが面を造った後で設計が入り、窓ガラスをはめていくという流れでクレイ造形をしていました。GM式にすると面を作ってから切ることになるので、細いAピラーやBピラーが、あたかも一面から切り取られたようにつながって見えるのですが、マツダ式の場合、面が全部バラバラでつながらない。後からつなごうとしてもダメなんです。ガラスが先に入っているから、二倍の幅のピラーを作っておいて後から面を切るという方法で、少しでも面がつながって見えるようにコンプロマイズするしか方法がなかったんですね。そのため、GM式を採用し、細いパーツも含めて面同士が美しく繋がるように変更しました。

ホイールの制作プロセスについても同じようにGM式を採用しました。マツダでは当時、図面を描いて木型を作っていたんです。GMではクレイでフィンを1個ずつ作るというやり方。
マツダ方式の場合、きれいに磨いたピカピカのメカニカルなホイールが出来上がるんですが、ミアータのような車に、ガチガチのホイールは似合わない。結果として、クレイを用いてホイールを作るGM方式を採用するよう、本社に提案しました。

ちなみに、余談にはなりますが、BMWではホイールを作るとき、図面からいきなり金型を作っていましたね。ホイールカバーの図面が出来ると、ゴルフボールみたいなデコボコの手で叩いたような鉄板を持ってきて「これでいいかい?」って尋ねてくるんです。そう言われたって分からないから適当に「いいよ」って答えたら、物感も質感も良い、ものすごく素晴らしいホイールカバーが出来上がるんですよ。各社ごとにやり方が全く違うのも面白かったですね。

日本で抱いた違和感

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