【連載】カーデザイナー・トム俣野とロードスターvol.5 「いま」と「これから」

Jan 26,2018interview

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Jan26,2018

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【連載】カーデザイナー・トム俣野とロードスター vol.5 「いま」と「これから」

文:
TD編集部

初代ユーノス・ロードスターを手がけたカーデザイナー、トム俣野氏へのインタビュー。今回はいよいよ最終回。現在、サンフランシスコのアカデミー・オブ・アート・ユニバーシティで工業デザイン学部の学部長を務める同氏。「いま」と「これから」をテーマに、大学の様子や特色、そして次世代に向けたメッセージを語っていただきました。

俣野氏はどう見る?! 自動運転のある未来

人工知能や自動運転技術……クルマの新しい技術開発のスピードは飛躍的に上がっています。私はこのようなクルマを「自走車」と呼んでいますが、このような新しいクルマは人々に受け入れられるでしょうか。

なるほど、「自走車」とは言いえて妙ですね(笑)。
いつの時代でもそうですが、車だけに限らず、新しい技術が生まれると、最初は皆、未知の物に対する恐怖感や抵抗感を抱きます。特に僕のような車を運転することが大好きな者からすれば、自走車は余計に抵抗があるでしょう。しかし僕だってアメリカ大陸を横断するということになれば、自走車を選びますよ。
自走車はいろんな意味で効率も良いし、事故のリスクも減る。そのうちに、じわりじわりと僕らの生活の中に入ってきて、気がつくと当たり前になっているかもしれません。今僕らが乗っている車を指して、「今どきあんな車には乗らないよね」と言われる時代が来るかもしれません。

終始笑顔で穏やかに話してくださった俣野氏。未来の話も大好き!

社会にある車が自走車に置き換われば、インフラやサービスも必然的に変わっていくでしょう。例えば、アリゾナのど真ん中を走行していて空腹を感じても、サービスエリアはいりません。車内から注文すればドローンが降りてきて、アペタイザーとファーストプレートを提供してくれる。そのまま30~40分くらい走ったら、次のドローンがセカンドプレートを降ろし、ファーストプレートの空き皿を回収してくれるんです。そうしたことが車に乗りながらできるようになる。

自走車によって家族関係も変化するかもしれません。
僕らが子どもの頃は、父親が運転する車の後部座席に座り、父親が運転する姿を見ながらいろんな会話をしていました。ところが今、子どもの目の前にはスマートフォンやDVDがあり、家族のコミュニケーションが分断されています。
でも、自走車が登場したら、お父さんが運転から解放され、そうした家族の輪が戻ってくるかもしれません。

以前はベンチシートで、カップルが寄り添ってドライブインシアターを観るという光景が実際にあったんですが、安全規制が厳しくなりベンチシートは消えてしまい、そうした和やかなひと時も見られなくなりました。
しかし自走車にはベンチシートが復活し、またそんなカップルの姿が見られるようになるかもしれない。それによって夫婦関係が改善し、アメリカの離婚率も下がるかもしれません。

自走車の先に広がっている未来も悪くない。自走車が生まれることによって別の世界が生まれたらいいなと思います。

ありがとうございました。5回にわたってお届けした俣野氏のインタビュー、一人でも多くの読者に届くことを願っています。

「【連載】カーデザイナー・トム俣野とロードスター」は今回で終了です。
長らくお付き合いいただきありがとうございました。本編は終了となりますが、聞き手の藤本氏による対談後記、編集部のこぼれ話の掲載も予定しております。Always Inspired !

 

俣野 努(またの・つとむ)

1947年長崎市生まれ、東京育ち。成蹊大学工学部を中退し、渡米。世界的なデザイナーたちの登竜門であるアートセンター・カレッジ・オブ・デザインへ入学し学位を取得。卒業後は1974年にGMに入社。オーストラリアのGM Holdenを経て、1982年にBMWへ移籍後は3シリーズを手がける。数々の実績が評価されマツダに招かれ、初代ユーノス・ロードスター、3世代目のRX-7(FD)のオリジナルデザインなどを手がけ、マツダの開発システムにも多くの影響を与えた。 2002年から、サンフランシスコにある美術大学、アカデミーオブアートユニバーシティの工業デザイン学部の学部長を勤めている。

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