若手クリエイターを訪ねて | vol.2 木村稔将感性と理論の両面を磨き上げる

Oct 23,2019interview

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Oct23,2019

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若手クリエイターを訪ねて | vol.2 木村稔将 感性と理論の両面を磨き上げる

文:
TD編集部 藤生 新

TD編集部・藤生(ふじゅう)による、若手クリエイターの仕事場訪問企画第二回。今回はグラフィックデザイナーの木村稔将(きむら・としまさ)氏へのインタビューをお届けする。2006年にオランダのヴェルクプラーツ・ティポグラフィを修了後、秋山伸氏が率いるデザイン会社「schtucco」に参加、2010年からはフリーランスとしてアーティストや美術館などと積極的なコラボレーションを展開している。コンセプチュアルで構造的、しかしどこか親しみやすさも覚える彼のデザインはいかにして形成されたのか、その原点に迫ってみた。

前回の記事:vol.1 北岡 誠吾 デザインの身体性が立ち上がる瞬間

一冊の本を想起させる仕事場

小さなベランダのあるワンルームに、パソコン、デスク、レーザープリンター、そして本棚が並んでいる。部屋のレイアウトにはすべて意味があるように見え、本の一冊さえ、勝手に動かすことは躊躇われる。デザイナー・木村稔将(きむらとしまさ)さんの仕事場の風景である。小ぶりではあるが、一人で作業するにはちょうど良いスケールのこの部屋で、木村さんはエディトリアルデザインを中心に数多くのデザインワークを手がけてきた。
この部屋を訪れたとき、すぐに想起した木村さんのデザインは、2013年に刊行された『コンテンポラリー・アート・セオリー』だった。タイトルの示す通り、現代アートの代表的なセオリー(理論)がまとめられた論考集であるが、実際に手に取ってみると、「その手の本」にありがちなとっつきにくさが全くない。

photo: Gottingham

小ぶりな判型、さらさらした質感のハードカバー、優しいパスを受け取るように文章が頭に入るタイポグラフィ。すべてのレイアウトに意味があるように見えるが、それでいて、厳しいわけでもなくどこか優しい雰囲気がつきまとう。こうしたデザインを生み出す木村さんの手腕は、果たしてどのように育まれたのか?
主に日本国内のアーティスト、美術館や専門書の出版社などと積極的な仕事を行う木村さんに対して、そのキャリアとデザインに対する想いをたずねてみた。

アーティストや美術館とのコラボレーション

木村さんはアート系のクライアントとお仕事を共にされることが多いですが、クライアントからはどのような要望を感じ、それに応えられていますか?

木村クライアントによって様々なケースがありますが、それぞれの要望に対して、最適な提案が出来るようにと考えています。「それ以上」でも「それ以下」でもないような率直なデザインを提案することで、その対象の魅力を出来るだけ引き出したい。デザインの強度を担保するために、文字は丁寧に扱うようにしています。

お仕事全体で見ると、具体的にどういった内容の案件が多いのでしょう?

美術館からの依頼の場合は展覧会のパッケージをまるごと請けることが多くて、チラシ・ポスターなどの広報物やサイン関連、カタログ制作などを行っています。
ほかにもギャラリーや出版社からの仕事、あとはアーティスト個人からのご依頼なども同時に手がけていますね。
最近だと、アートダイバーという出版社から刊行された『スペース・プラン』や、画家の小林正人さんの自伝的小説『この星の絵の具』などをデザインしました。

とくにアーティスト個人と協働する際に工夫していることなどはありますか?

アーティストに限らず、クライアントとコミュニケーションを取るときは相手の抽象的な表現に注意を払います。具体的なアイデアは共有もしやすいので、ディテールなどを詰めていくときの助けになりますが、まだきちんと言語化されていないアイデアは、断片的なコトバとして浮遊していて、全く別のアイデアと繋がるときがあります。その飛躍・逸脱が成果物に上手く作用するときがあると思います。

いろいろなお仕事の中でも、個人的には木村さんのブックデザインが非常に印象的です。フリーとして最初に手がけたブックデザインはどのようなものでしたか。

2010年に手がけた、ジェイ・チュン&キュウ・タケキ・マエダの『Hans Ulrich Obrist interviews Volume 1』です。
当時まだ日本では出ていなかった、キュレーターのハンス・ウルリッヒ・オブリストのインタビュー集で、ジェイ・チュン&キュウ・タケキ・マエダの作品でもあるという変わった本でした。

photo: Gottingham

彼らからの要望は「本として物質感のあるものにしたい」というもので。この本の場合は一冊の本にかかる労力をすべて可視化したいと言われたので、それならと本の構造自体を見えるようにしました

構造自体を見えるように……といいますと?

どんな本も「折り丁」という紙の束で構成されるんですが、それがわかるように折ごとに2種類の紙を使い、交互に変えることにしたんです。
折で紙を変えるという仕様自体は比較的よく見られますが、この本の場合は内容に全く即していないところで、インタビューの途中なんかでも突然紙が変わったりします。

それによって「この本はこれだけの数の『折り丁』で出来ている」ということを見えるようにしたんです。大きな紙に面付けしたものを折って断裁し、その束を重ねたものが本になっているんだということを分かりやすく視覚化するためにこの構造にしました。ビジュアルでデザインするというよりも、構造でデザインをするような感覚でした。

photo: Gottingham
10年近くに渡って数多くのデザインを手がけていらっしゃいます。ご自身の考える、とりわけ代表的なお仕事は何でしょう?

ミヤギフトシさんの印刷物のシリーズは数年にわたって取り組んでいて、現在も継続しているプロジェクトです。
ミヤギさんはアメリカン・ボーイフレンドというプロジェクトを行っているんですが、その過程で生まれたリサーチの成果や作品の断片を印刷物として郵送するというものです。

とても凝った造りですね。

そうですね。それに造りだけでない部分にもこだわりがあります。ミヤギさんは沖縄出身で、沖縄を題材にした作品を作られていて。例えばこれは郵送物を一度沖縄に届けた上で沖縄から投函されているので消印が全部沖縄になっていたりと、そういうこだわりもあったりします。
印刷してあるURLを見るとブログと連動していたり、ミヤギさんが書いた小説の草稿のようなものがあったり。デザインのアイデアを形にするのはぼくだけど、大まかなアイデアはミヤギさんからいただくときもあります。たとえば「写真を破きたい」と言われたことがあったり、栞を作ろうと言い出したのはぼくだったりさまざまです。

「逸脱」をコントロールするためのフォーマット

これらのお仕事では顕著ですが、木村さんのデザインにはきっちりしている部分と、柔らかくて親しみやすい部分がどちらもある気がします。普段のお仕事の中で、意識していることはありますか?

たとえば、ページ数が多いカタログなどをデザインするとき、フォーマットに沿ってレイアウトしただけでは上手くいかない場面に直面します。その場合、カタログ全体を通してみる視点と、見開き単位でみる視点など、複数の見え方を考慮してフォーマットを部分的に逸脱する場合があります。複数のフォーマットを設定しておくなど、最終的にフォーマットがずれるのもデザインの範疇に留めておくなどしています。
逸脱をできるだけコントロールするために、異なるフォーマットを幾つも重ねるような作業ですね。
だから隅々まできっちり作り込むというよりは、なるべく作り込まないフォーマットをいくつも用意しておいて、それぞれの状況にできるだけ対応していくような感覚です。

「フォーマットを部分的に逸脱する」ということですが、そうであってもデザインとして成立させるために決めていることなどはあるのでしょうか。
まず、なんでもかんでも逸脱してOKなわけではありません。たとえば基本的なルールとして、本文のベースラインは必ずキープするようにしています。そうですね、ここの部分を見てみてください。
テキストボックスのスタート位置が、上から始まっている場合と下から始まっている場合の2つがありますよね。でも、本文の行のラインはどのページを重ねてもズレないようにしています。
ここがズレてしまうとなんでもありになってしまうので、本の中では最も基本的な構造になる部分は維持するようにしています。
思い切って全ページのラインをずらしていくという選択肢であれば「有り」なんですが、ページによって合っていたり合っていなかったりすると、あやふやなままデザインしていたんだなということが相手に伝わってしまう。だから絶対的に揃えることが正しいわけでもなく、明確な方針さえあれば、どんなものでもとりあえずデザインとしては成立すると思います。
書籍のデザインにおいては、いわゆる「ページデザイン」以外にもフォーマットの逸脱にトライできる領域がありそうですよね。たとえば製本のプロセスなどにおいてもそうしたことができるのかもしれません。

はい。たとえば、この『スペース・プラン 鳥取の前衛芸術家集団 1968-1977』は中綴じで作った本ですが、製本所の人からは「これが中綴じ製本できるギリギリの厚さだよ」と言われたんです。
その前に手がけた別の本でも同じようなことがありました。ある製本所ではこれはできないと言われて、別の製本所ではできると言われたんです。それで、なるほどここがギリギリのラインなんだなと。
そうやってミシン綴じや中綴じにおけるプロトコルが徐々にでき上がっていって、そこから使える用紙の種類やページ数がだんだんと決まっていくんです。

完成するまでの工程を細部まで知り尽くしているからこそ、細かな部分にどうこだわればいいのか、見えてくることも多いように感じます。

そうですね。たとえば中綴じの場合、紙を折り曲げた状態で断裁するので、本の中心部のページほど断裁される面積が大きくなります。最終的に重ねた紙がそれぞれどれくらいはみ出るのかを計算して調整したりもしています。そのときには、0.1ミリ単位での調整をしていて、細かく厳密な作業が求められるときもありますね。

独特な空気が流れていたオランダの美大・ヴェルクプラーツ

 

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