【連載】「デザインに固執しないデザイナー」が見ている世界vol.1 デザイナーを活かすチームづくり

Feb 16,2018interview

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Feb16,2018

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【連載】「デザインに固執しないデザイナー」が見ている世界 vol.1 デザイナーを活かすチームづくり

文:
TD編集部

「デザイナー 」「エンジニア 」「ストラテジスト」という3つの肩書きを持つ久下玄(くげ・はじめ)氏へのインタビュー。vol.1でフォーカスしたテーマは「チームづくり」。デザイナーという職種にとどまらずに様々なポジションで成果を生み出してきた久下氏だからこそ語れる組織論を聞いてきました。

「あの会社はプロモーションが上手だから……」

「ヤンキーとオタクのチーム論」ですか。面白い! どんなに良い商品やサービスであっても、それを売りに行く人がいなければ事業としては成立しないですもんね。

よくあるのが、「あの会社はプロモーションが上手だから……」という一種のひがみです。
でも、自分たちの良いポイントをちゃんと世の中にPRする人が仲間にいるっていうのは、ひがむことじゃなくてクレバーで尊敬すべきことですよね。

この手の話でよく話題にのぼるデザイン会社があります。
例えば「1つのデザインを3日やそこらでやってしまう。そんな短い期間で良いものができるわけはない。あそこはPRが上手なだけだ」って。
でも、僕はそう思わない。
3日の制作期間でちゃんとクライアントが満足して、かつそのクライアントがビジネス的に成功するならそれでいいと思う。もっと言えば、そんなスピードで成り立つワークフローを作っていることがすごいと思っています。見習いたい。

「時間をかければ良いものができる」と思っていたら、むしろビジネスマンとしてアウトですよね。そういう意味でも、適切なチームをデザインすることは、デザイナーだけでなく、新しいものを作っていきたい、事業を成り立たせたいという人たちには重要なことだと思います。

プロジェクトにアサインされたときにすでにチームメンバーが決まっていることも多いと思いますが、ベストメンバーではないと感じた時はどうされるんですか。

全部理想的なメンバー構成でプロジェクトを進められる、ということはあまりないですからそこまで気にしません。
ただ、僕が適任かどうかについては冷静に考えます。明らかにこれは自分じゃない方が良いとか、自分と役割が重なっている人がいる場合には、案件そのものを断るようにしています。期待されているような結果にはならないと思いますからね。知人の中で適任者が思い当たればその人を紹介したり、具体的にこういう人の方が良いですよ、とアドバイスをすることもありますよ。

デザイナーが本領を発揮できるチームとは

デザイナーが本領を発揮できるチームづくりのために、組織としてはどんな点に気をつければ良いのでしょうか。

まずはデザイナーに適切な場所を与えること。そのために、そもそもデザイナーの仕事をもっと因数分解する必要があると思います。
「デザイン」にはいろんな種類があって、もっと仕事の中身を明文化すればデザイナーの力は活かしやすくなるのかなと思います。
プロダクトデザインを一例に挙げると、「スタイリングのデザイン」や「ファンクションのデザイン」、「売り方やブランドを含めてのデザイン」では全然違うじゃないですか。それを全部「デザイン」とまとめていうからよくわからなくなる。

「エンジニアリング」でも同じようなことがあります。車のホイールを作るための成形技術を担当する「ハードウェアのエンジニア」も、カーステレオのプロトコルを作っている「ソフトウェアのエンジニア」も、モバイルアプリを作るエンジニアも、サービスのサーバーサイドを構築するエンジニアも、インフラを構築するエンジニアも全て「エンジニア」って一括りに言われている事がある。

それが原因で多くのミスマッチも起きていますよね。解決策はあるのでしょうか。

この点において進んでいるのは「ソフトウェアエンジニアの業界」。どこもジョブ・ディスクリプションを丁寧に書いていますので、それらを参考にすると良いかもしれません。
例えば、どういうプログラミング言語を使うのかとか、プログラミング言語を書き込むためのシステム自体はどういうものを使っているのか。今あるサービスを保守的に運用するような仕事なのか、新しい新規事業を作るのか、あるいは新しい機能を作っていく小さなレベルの仕事なのかなど、詳細な記述を目にすることが多いです。

組織がデザインへの理解を深め、デザイナーに明確なジョブ・ディスクリプションを提示できれば、ミスマッチは大きく減るんじゃないでしょうか。

デザイン・開発を担当した「Coiney(コイニー)」。
久下氏は初期のアプリ開発やカードリーダーのデザイン、量産設計を手がけた。画像は現在のデザイン。
Coineyチームのみなさん。いい笑顔です。(久下氏提供)
組織として、デザインの力やデザイナーの力をどのように活かしていくことが重要だと考えますか?

「デザインの力」も「デザイナーの力」も、プロジェクトを成功させるためには重要だと思います。けれどデザインは幅広いので、何を持ってデザインというかという点については意見が分かれるところではないでしょうか。
「デザインの力」という言葉で想起されやすいのが、いわゆる0から1を作る際の想像力とか発想力の部分。でも、1を10に磨き上げることが得意なデザイナーもいる。「発想で勝負するデザイン」と、「磨き上げることで勝負するデザイン」は別物で、それぞれの力がある。
Googleは「発想で勝負する」会社。Appleは「磨き上げる力」が突出した会社に見えます。
どっちが良いか悪いか、じゃなくて、どちらにも強みがある。そういう特性があることをわかった上で、自分たちのチームのデザインは何が強みなのかを知り、活かしていくという考え方が組織にも必要なんじゃないでしょうか。

ありがとうございました。次回、vol.2ではテーマを変え、「個人のスキルアップ」について聞いていきます。

※次回『【連載】「デザインに固執しないデザイナー」が見ている世界 vol.2』は2月23日(金)公開予定です。

 

久下玄(くげ・はじめ)

デザイナー/エンジニア/ストラテジスト。東京造形大学卒業。家電メーカーのプロダクトデザイナーを経て2009年にtsug,LLC創業。事業戦略、技術開発、製品デザインまで手がける統合型デザインで、国内外の企業のイノベーションプロジェクトに携わる。2012年Coiney,inc創業に参加し、以後プロダクト開発を担う。2010~2013年まで慶応大学SFC研究所にて研究員として通信とデザインの研究および教育に携わる。近作に脳波ヘッドフォンmico(neurowear)やスマホ決済サービスCoiney(コイニー)など。受賞多数。近著は「リアルアノニマスデザイン」(学芸出版社・2013年・共著)。

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