インプロ(即興演劇)の専門家、堀光希さんに聞いてみたUXのタテヨコナナメ vol.6

Feb 09,2024interview

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Feb09,2024

interview

インプロ(即興演劇)の専門家、堀光希さんに聞いてみた UXのタテヨコナナメ vol.6

文:
TD編集部 青柳 真紗美

デザインだけでなくビジネスやアカデミック領域からもUXを考えてみよう、ということで始まった当連載。第6回は、インプロ(即興演劇)の専門家、堀光希(ほり・こうき)さん。堀さんが考えるUXとは?

TOP写真撮影:Kazuhisa Tanaka(取材はオンラインにて実施)

前回の記事:UXのタテヨコナナメ vol.5 参加型デザイナーの森一貴さんに聞いてみた

UXを考えることは「関係性」を考えること

早速ですが、堀さんにとってUXを考えるとは何を考えることでしょうか。

堀さん:正直なところ僕はデザインのことはよくわからなくて。でもせっかくこうした機会をいただけたので、自分なりに考えてみたんです。ご紹介いただいた森さんをはじめとして、デザインに関わる方々からインプロ(即興演劇)を面白がってもらえることも多くて、それもなぜなんだろうと不思議でした。
僕が見つけた仮説は「UXを考えることは 『関係性』を考えること」。例えば、もののデザインを考えるときは色や形について考えるのが一般的だと思います。でもUXの視点で考え始めると、ものと人、あるいは空間と人がどう関わるかという関係性の話になる。
それはすごく演劇的な思考でもあると思います。絵画が色や線、音楽が音やリズムの芸術だとすると、演劇は関係性の芸術です。ある人とある人がいて、その人たちの間で何かが起きる。キャラクター単体ではなく、置かれた状況や不意の出会いによりそのキャラクターが色々なものとの関係性を構築していくことを演劇は描きます。ここにはUXデザイナーさんたちの視点との共通項がある気がします。

まず、堀さんが専門にしている「インプロ」とは何か、教えてもらえますか。

堀さん:僕はインプロを活用した研修やワークショップを行う講師でもあり、インプロ俳優でもあります。インプロとはインプロビゼーション(Improvisation)の略で、即興演劇を意味します。つまり、台本も、設定も、配役も決まっていない状態で、その場で作られる演劇のことです。
僕がインプロについて語るときにはキース・ジョンストンのインプロ思想・方法論を前提にしています。キースはイギリス出身の作家・演出家で「インプロの父」とも呼ばれる人。彼のインプロ理論は演劇の世界だけでなく、教育学、哲学、脳科学、社会学、心理学などに広く応用されています。

普通の演劇では、俳優は台本に書かれたセリフを覚え、演出家に指示された行動を取ります。でもインプロの場合は俳優自身が演出家でもあるので、舞台上の行動も自分で判断しなきゃいけないんです。周囲の反応に応じて自分の振る舞いや価値感を修正していく必要がある。アップデートの思想があります。この辺りに、UXにも通じるヒントがありそうな気がしています。

撮影:瀬戸口史賀
どういった経緯でインプロを専門にするようになったんですか。

堀さん:大学生の頃にインプロ研究の講義があって。そこで初めてインプロと出会って、やってみたらハマっちゃって(笑)。楽しいだけじゃなくて、どうやら何か分厚い思想があるらしいぞとわかり、修士課程まで進んで研究し、インプロを研修で取り扱える企業に就職しました。

インプロ俳優としては、今でも年に4回、自分で公演をプロデュースして舞台に立ち、仲間を集めて一緒にパフォーマンスをしています。おじいちゃんになってもインプロを続けるのが僕の夢です。

写真提供:堀さん
インプロを応用した企業研修について教えてください。演劇と企業活動は遠いように感じるんですが、どんな研修なんですか。

堀さん:普通に会社勤めしている方の多くは演劇やパフォーマンスになんて興味がないと思います。でも一方で、僕たちの日常生活や仕事の場ではいろんなことが即興的に行われていくんですよね。着地点がどうなるのかわからないままみんなで協働してやっていく状況も多々あります。それは僕たちがインプロでパフォーマンスするときの状況とよく似ています。

通常の演劇だと、キャラクターがある出来事を通じて変化していくことが物語の主な構成要素です。成長するとか、酷い目に巻き込まれるとか……。これを「キャラクターと物語」のレイヤーとすると、即興演劇ではここに「人間関係」のレイヤーが加わります。一緒に舞台に立っている俳優同士の関係性が自然に滲み出てくるんです。「ちょっと最近喧嘩気味」とか「この人のこと好きかも」とか(笑)。だから観客は、2つのレイヤーを同時に見る、というちょっと複雑な鑑賞体験を得る。

人間関係のレイヤーが加わるからこそ、インプロのパフォーマンスを成功させるために俳優たちは舞台上での演技やストーリーテリングに加え、自身のコミュニケーションのパターンに気をつけます。例えば「相手のアイデアを否定せずに受け入れて膨らませる」とか「自分が頑張ろうとするんじゃなくて仲間をサポートすることに専念しよう」とかですね。このコミュニケーションのパターンと、複数人で協働・共創していく時に必要なコミュニケーションにはたくさんの共通点があります。それらを応用した企業研修、ワークショップを僕らは提供しています。

組織の中でも、なぜかギスギスしちゃうとかやりとりがうまくいかないとか、そういう状況ってたくさんありますよね。そうしたとき「あの人はそういう人だから」とか「性格が悪いから」とか、変えられないことが理由にされがちなんですが、シンプルにコミュニケーションのパターンを使い分けることで一気に前にすすむことも多々あるんです。
インプロという建て付けで、日常生活から少し距離をおいてコミュニケーションについて考えてみる。日常生活におけるやりとりの様子を俯瞰して見てみる。ワークショップでは、簡単なスキルを習得しながら実際のパフォーマンスを通じて参加者たちが自分自身の現場を捉え直していきます。

具体的には、300種類くらいのゲームの中からいくつかを行い、インプロのコミュニケーションのやり方を身につけていきます。演劇もインプロも初体験の人が多いので、スキル差がほとんどない。部長が新入社員に助けられたり、いつも憮然とした印象の人が実はラブリーな一面を持っていたり……「課長のそんな表情、初めて見ました!」みたいなことが起きるんです。コミュニケーションのテクニックを習得しながら、同時に参加者同士の関係性も一度フラットにしてつくり直す体験にも繋がっているのかなと思います。

写真提供:堀さん
インプロのコミュニケーションスタイルとはどんなものですか。

堀さん:演劇に即興性が加わると「相互に変わっていく」という特徴が追加されます。通常、何人かが関わって何かをするときって、自分を変えずに相手を変えようとすることが多いじゃないですか。みんなの希望が一致することはあるかもしれないけど、偶然に頼っている。インプロのコミュニケーションの基本は、お互いが相手に良い時間を与えようとすることなんです。エゴを捨てて、相手に応じて自分も変わっていく、フィット感をお互いに高めていく。そのプロセスを繰り返していきます。

これをUXの切り口で考えるなら、ユーザーの反応を受けてプロダクトも変わっていき、プロダクトと関わるユーザーもそのプロダクトから影響を受けて少し変わっていく、ということだと思います。その相互変化をどう起こせるかを考えていくことも、ある意味ではUXを考えることなのかもしれません。

例えばカスタマージャーニーひとつとっても、ユーザーに寄り添って、感情グラフみたいなものを作ってデザインなどを修正していきますよね。ユーザーがスムーズに動けるようにとか、フィードバックしやすい導線を作るとか。それは、自分達が手がけるプロダクトを通じて、ユーザーとの間に関係性をつくり出したいという狙いがあるんじゃないかと僕には思えるんです。つまり、ユーザーとプロダクトが相互に変わっていくパートナーシップをどう築いていくかまで含めて考えている。
そう考えると、UXもインプロと同じように「物語(≒プロダクト)」のレイヤーだけではなく、会社とユーザー/ブランドとユーザーといった、人間関係的なレイヤーもデザインに組み込んでいくことを前提としているのかなと。

コントロールがシェアされている状態をつくる

ここまでのお話をふまえて堀さんが考える「良いUXのルール」はありますか?

堀さん:インプロが大切にしていることの中にそのままUXデザインに応用できることがありそうです。

良いインプロをするために重要なのは舞台上のコントロールがシェアされている状態。つまり、物語をつくるときのリーダーシップが全員にある状態です。例えば「風のセレナーデ」というタイトルでインプロを上演するとします。幕が上がった瞬間、役者たちはそれぞれ自分なりの設定や筋書きを持っているはずです。それは風の谷のナウシカみたいな物語かもしれないし、星新一的な世界観かもしれない。そうした時に、互いに自分のプランにこだわっても良い作品は作れません。

例えば最初に僕が「ここは砂の惑星だ、冒険しよう」とアイデアを出して舞台上の物語に入っていったとしても、次に入ってきたキャラクターがウサギだったらそれを受け入れていきます。そうすると僕が持っていた物語の主導権みたいなものはウサギのアイデアを出してくれた仲間の方に移り、僕はその人に次の展開を委ねます。そしたら次の瞬間には別の人が斬新なアイデアを持って入ってくる。するとまた次の人にコントロールが移っていくわけです。自分の予想しなかった要素が組み込まれて、どう処理していくかを試行錯誤し、その中で誰も予想しなかった物語が作られていく。これがインプロにおける創作の喜びです。

1人がグイグイ引っ張っていくモデルではなく、コントロールがシェアされた状態ーーこれがUXデザインにも当てはまる気がするんです。

細部までデザインを磨き上げて一つの世界を作り上げるのがデザイナーだと思うんですが、一方で彼らは「そんな動きするの?!」みたいなユーザーの動きや「そんな使われ方するの?!」みたいな驚きだったり、そういうことに対してテンションが上がる人たちでもあるのではないでしょうか。
想定した動きしか許さないのではなく、ある程度ユーザー側に主導権を預けて、フィードバックやリアクションを求める余地のあるプロダクトやサービスが、良いUXを提供しているのかなという気がします。

そう言われてみると、想定していないユーザーの動きを見つけたとき、エラーやバグだと切り捨てないことによって始まる何かがありそうです。

堀さん:例えばインプロ中に、あるキャラクターが突然死んじゃった、と。その時「なんで死んだんだ!」とか「死んだふりはやめろよ」みたいに死んでないことにするようなリアクションを返すのもありなんですけど、より楽しい方法は「まるで織り込み済みかのように振る舞う」こと。本心ではめちゃくちゃパニクっていたとしても。

プランが定まってから受け入れるんじゃなくて、まず受け入れてからプランを考えるプロセスは意外と楽しいですよ。僕らはサプライズをつい拒否しがちですが、あらかじめシナリオに書かれていたようにそれを受け入れて、正当化してみる。そうすると脳が勝手にそれを正当化しはじめて、何かしらアイデアが出てくるんです。思ってもみなかった道が見つかることがある。そういう、脳の自動編集機能みたいなものを信頼してみることかな、と思います。

納期が迫っているとか予算が限られているとか、現実的な場面では厳しいかもしれませんが、ブレークスルーが欲しいなら敢えて「そういうアイデアが来ると思ってたんだよ」って言っちゃう。そんなところから何かが生まれるかもしれません。生まれないかもしれませんが。でも、そっちの方が楽しくないですか。

コントロールのシェアや、サプライズを受け入れること。そうしたことを実現するためには何が必要だと思いますか?

堀さん:インプロを成功させるために僕らが目指しているのは「そこが自分たちの場所である」と感じられること。舞台上は緊張感があってプレッシャーもかかるんですけど、仲間たちとなら安心できる場に一変するんです。UXデザインにも、そうしたホーム感みたいなものは大事なのではと思います。もう少し長く居続けたいと思えるとか、このプロダクトにもう少し触っていたいとか、少しでも長くこの人と一緒にいたいとか。どれだけ綺麗な場所かとか使いやすいかとかどうかも大切ですが、それがホームになるには「あなたがいてくれて嬉しい」といういわばオンリーユー感が大切だと思います。

このUXが面白い! という例があれば教えてください。

堀さん:UXそのものより制作プロセスに関することなのですが「マウンテンバイクの作者」の話が面白くて。マウンテンバイクの作者って決めづらいんです。もちろん製品化されていく過程では設計者がいるんですけど、初期のマウンテンバイクは急勾配の坂を自転車で下るのが好きな奴らが作った、と。

毎週末、危ない坂を走り下りては「すげえ!」みたいなことを繰り返していた人たちがアメリカにいたんですが、ある日「こうやるとすごくブレーキが効くようになった」と発見したヤツがいた。別の日になると「ハンドルを回りやすくしてみた」というヤツがあらわれて、みんながそれを真似した。他にもスピードを出すための工夫や漕ぎやすくする工夫も生まれ……そうして集団的な知恵が積み重なってできたのがマウンテンバイクらしいんです。

ある意味で非常に即興的なデザインのプロセスだなって。コラボレーションの中で生み出されるものがやっぱり好きだな。こういうプロセスで創作したりデザインしたり、空間を設計したりしていくと面白いのではないかと思います。

読者に向けて、おすすめの書籍や学習コンテンツなどを紹介してもらえますか。

堀さん:このマウンテンバイクの話が載っている『凡才の集団は孤高の天才に勝る』(キース=ソーヤー著,ダイヤモンド社,2009 )を推薦します。グループジーニアスという考え方を提唱しています。一人の天才がゴリゴリやるのも旨みはありますが、一方で凡才の人たちがコラボレーションしていく中で、天才には考えつかなかった集団的な才能みたいなものが生成されることだってあり得るんじゃないかということを言ってます。著者自身がインプロの研究者でもあります。

最後に誰か、この人に話を聞きにいくといいよ!という人を推薦していただけませんか。

堀さん:竹丸草子さん。美術教育やアートプロジェクトの分野でのワークショップを数多く手がけている方で、幼稚園や小学校でのアーティストワークショップや障害者文化芸術支援などを行っています。大学院ではアートベースドリサーチの研究にも携わり、プロジェクトの仕掛け人でもあるので、場づくりーーつまり場の体験設計などを考える上で、きっと気づきを持ってらっしゃると思うので、そのあたりもUXという切り口で聞いてみてもらえたら発見があるかもしれません。

ありがとうございました!

今回のまとめ

演劇……! しかも、台本のない、即興演劇。「UXというキーワードから、結構遠い世界まで来ちゃったけど大丈夫かな」と少しドキドキしていた今回の取材ですが、蓋を開けてみればUXをデザインすることについての新たな視座に溢れていました。

・UXを考えることは「関係性」を考えること

・ユーザーとプロダクトの相互変化を受け入れるだけでなく、どうすれば起こせるかを考えてみる

・主導権をシェアすることでユーザーとUXデザイナーがパートナーシップを結び、イノベーションも生み出す

堀さんはインプロの原則がUXデザインにも応用できると仮定し、さまざまな角度から提案をしてくれました。デザイナーだけが主導権を握るのではなく、ユーザーがアイデアを持ち寄れるような場を用意すること。そうすることでイノベーションが生まれ、結果的にそれがサービスやプロダクトのUXを最適化していくのかもしれないと気付かされました。

 

堀光希(ほり・こうき)

ミテモ株式会社 インプロバイザー。東京学芸大学 教育学研究科 総合教育開発専攻 表現教育コース修了。修士(教育学)。専門はインプロ(即興演劇)。即興性や身体性をを用いた教育方法に関心があり、業界・業種・職種・年代を問わずあらゆる分野でインプロの応用可能性を探る。自身のインプログループである「IMPRO Machine」ではインプロ俳優として舞台に立ちパフォーマンス活動も行う。

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