独創的なシトロエンが戻ってきた!青戸務のカーデザイン大賞解説 vol.1

Apr 07,2017report

#CITROEN

Apr07,2017

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独創的なシトロエンが戻ってきた! 青戸務のカーデザイン大賞解説 vol.1

文:
TD編集部

日本カーデザイン大賞、ゴールデンマーカー賞 量産車部門を受賞したシトロエンC4カクタスは、2015年にヨーロッパでデビューした。その革新的なデザインが高く評価され、ワールド・カー・デザイン・オブ・ザ・イヤーをはじめとして、数多くの賞を受賞している。日本カーデザイン賞2016-2017の選考委員長を務めた青戸務氏に、シトロエンC4カクタスのデザインについて伺った。

「みにくいアヒルの子」と呼ばれたクルマ

そして1948年、シトロエンは「2CV」という名車を生み出します。特徴的な形をしているので、写真などで見たことがあるという方も多いかもしれません。

このクルマの開発のきっかけは、副社長のピエール・ブーランジェが南フランスを訪れたときのこと。農民たちが苦労しながら荷車で農作物を運んでいるのを見て、彼らのためのクルマを作ろうと思い立ったんですね。

農民のためのクルマからフランスの国民車へ

農民のためのクルマを作ろう、ということでブーランジェは開発陣にこんな条件を出すんです。「ジャガイモを50kg積めること」「カゴいっぱいの卵が割れないこと」「シルクハットをかぶったまま乗れること」などなど…。当時の技術では、かなり難しい条件です。エンジニアたちは工夫を重ねて、なんとかブーランジェの要求を満たすクルマを作り上げます。

そうしてでき上がったクルマは、デザインも構造もユニークなものでした。例えば、卵が割れないようにと考えられたサスペンションは4輪が自由に動く構造で、当時としては画期的なもの。田舎の悪路でも安定して走ることができ、乗り心地も優れていました。

デザインやパッケージングも優れていて、コンパクトながら大人4人がそれこそ山高帽をかぶってゆったりと座れる空間を実現していました。外観に関しては、当時のクルマの常識とあまりにかけ離れていたため、初公開のときには「みにくいアヒルの子」と笑われたという話もあります。
しかし実際に発売されると、価格が安い上に信頼性も高く、実用性も高いということで、急速に普及します。そして「フランスの国民車」と言われるまでになりました。

ちなみにこの2CVには面白い逸話があって、2CVの開発は第二次世界大戦前の1930年代半ばに始まっているんですが、戦争が激化するとドイツ軍が侵攻してきて、シトロエンの会社も占領されてしまいます。このとき、ブーランジェは開発中だった2CVをドイツ軍に渡さないよう、すべての試作車の破壊を命じます。ところが工場の技術者たちは、数台の試作車をこっそり工場の壁に塗り込めたり、地中に埋めたりして隠すんですね。そうしてドイツ軍の目を逃れた試作車が、戦後掘り出されて開発が継続されたそうです。

それはすごいエピソードですね。

はい。ほかにも世界ではじめて前輪駆動を実用化した7CVや11CV(トラクシオン・アヴァン)、まるで宇宙船のようなデザインのDSなど、独創的なクルマを次々と送り出し、シトロエン=先進的というイメージを確立しました。7CV/11CV、2CVやDSは、フラミニオ・ベルトーニというイタリア人の彫刻家がデザインしているんですが、どれも前衛的ですよね。

シトロエンはその後もユニークな車を作り続けるんですが、凝りすぎてコストがかさみ(笑)、経営的にはうまく行かなくなります。結局、1976年にプジョーと同グループになりました。

2017年4月に行われたソウルモーターショーでのシトロエンのブース。
搬入時の写真のため、まだ床にビニールシートが…。しかし抜群の存在感。

今後のシトロエンの方向性を示すデザイン

プジョーとシトロエンは、同グループでもデザインの方向性は違いますね。

統合以降、プジョーのクルマをシトロエン風に作り直したようなクルマが増え、フランスではシトロエンは「おじいさんのクルマ」といったイメージができてしまいました。でもここへきて、シトロエンもまた独自のデザインをしはじめています。

プジョーシトロエンは2004年頃に新しいデザインセンターを作ったんですが、真ん中で仕切られていて、お互いのスタジオは行き来できないようになっています。独自性が出てきたのは、そのためかもしれませんね(笑)。

C4カクタスは、新しいシトロエンの方向性を示した第1弾のクルマです。シトロエンは2007年にC-Cactusと呼ばれるコンセプトカーを発表したのですが、これは今のカクタスよりももっと2CVの面影を残していて、新しい時代の2CVを作ろうという意気込みを感じるクルマでした。テールランプの中に花がデザインされていたりして、ディテールもすばらしかった。

今回のC4カクタスはそこからさらに一歩進み、今後のシトロエンのデザインの方向性を示しています。フランスでは同じイメージを引き継ぐ電気自動車のeメアリが発売されていますし、昨年のパリショーで発表された新型のC3も同様です。今後のシトロエンの展開が楽しみですね。

 

プジョー・シトロエン・ジャポン 代表取締役社長
クリストフ・プレヴォ氏からのコメント

――デザインという分野でこのように名誉ある賞をいただけたことは非常に光栄です。特に、C4カクタスはとてもユニークな形をしているので、評価していただき喜んでいます。

C4カクタスは単にデザインがユニークなクルマというだけでなく、今後のモデルの起点ともなる1台です。今後、このデザインを踏襲したモデルが登場しますから、皆様にもお楽しみいただけると思います。2017年夏には、C4カクタスと似たスタイリングを持つ新しいC3を発売予定です。

シトロエンには「Feel Good」というキャッチフレーズがあります。いかに気持ちよく、心地よく、楽しく乗っていただけるか。そのことを目指して、これからも新しいクルマを作っていきます。

 

最新のカーデザインを眺め、今後のシトロエンの展開について語る青戸氏・プレヴォ氏

シトロエン・ジャポン公式HP
Citroën C4 Cactus Official Web site

 

青戸 務 | Tsutomu Aoto

1943年生まれ。本田技研工業にデザイナーとして入社。その後、オペルやヒュンダイでもデザイナーとして活躍。ドイツ、フランスで合計23年暮らし、海外のカーデザイン事情にも詳しい。現在はアオト・デザインを主宰。世界中のイベントを取材し、最新の自動車デザインについて講演。次世代デザイナーの育成も行っている。

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