「わたしたちのルール」をデザインすること「ルール?展」レポート

NEW Oct 22,2021report

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「わたしたちのルール」をデザインすること 「ルール?展」レポート

文:
TD編集部 藤生 新

2021年11月28日(日)まで、21_21 DESIGN SIGHT(東京・港区)で「ルール?展」が開催されている。この展覧会は、日常のさまざまな場面で遭遇するルールを取り上げ、ルールをデザインすることの面白さと奥深さを体験してみようという企画だ。「だれかが作ったルール」から「わたしたちが作るルール」への転換を目指しているという本展。その詳細をレポートしたい。

TOP写真:
コンタクト・ゴンゾ「訓練されていない素人のための振付コンセプト 003.1(コロナ改変 ver.)」

「ルール」の新しい見方・つくり方・使い方

わたしたちは、なぜこんなにもルールに不自由さを感じるのでしょうか? わたしは、その原因が、わたしたちがルールづくりに参加できていないから、あるいはルールづくりに参加している感覚がないから、だと考えています。

展覧会ディレクターのひとり、法律家の水野祐氏はこのように問い掛けている。21_21 DESIGN SIGHTで開催中の「ルール?展」では、それぞれの目的や方法でルールと向き合うデザイナーやアーティストの取り組みを目にすることができる。

ここでいう「ルール」には、法律や憲法といった法的なものから、公共インフラや公的サービスなどの社会的なもの、さらには家族や個人の習慣に至るまで、大小さまざまなレベルのルールが包括される。本展では、こうした「ルール」の新しい見方・つくり方・使い方が、ポジティブな視点から提案されている。

展覧会ディレクターを務めるのは、先述した水野氏のほかに、コグニティブデザイナーの菅俊一氏、キュレーターの田中みゆき氏の3名。グラフィックデザインは、福祉や地域に関わるプロジェクトを中心に活躍するUMA/design farmが手掛けている。

会場風景(ロビー)

会場の各所で展開されるグラフィックには、いずれも斜めの傾斜が取り入れられており、まるで地面が斜めになったかのような錯覚を覚えたり、鑑賞者の首が斜めに傾いたような格好になったりする。世の中に偏在するルールが、決して永続的なものではないことを体感させるようなグラフィックだ。

会場風景(ギャラリー2)

メインの展示室ですぐ目に飛び込んでくるのは、天井から吊り下げられた巨大な構造物だ。重力というルールを無視するかのように、大きな物体が浮遊したような空間に圧倒される。この空間をデザインしたのは、大阪・北加賀屋を拠点に活動するdot architects。視覚的に斜めのラインを強調するのみならず、観客の導線を斜めに誘導する働きをしている。

「ルール」が生み出す形

続いて現れるのは、3名の展覧会ディレクターが企画構成した《規制によって生まれる形》である。このコーナーには、ドローン、ビール系飲料、電動キックボードが展示されている。

《規制によって生まれる形》(筆者撮影)

ドローンは、航空法では無人航空機に分類されているため、家屋の密集地で飛ばすことができない。しかし、200グラム以下の場合は模型航空機に分類されるため、撮影などに用いられるドローンは「200グラム以下」を基準にデザインされることが多い。ルールが形を規定するケースである。

それに対して電動キックスクーターは、形がルールを変えるケースだといえる。2021年現在、道路交通法上で原動機付自転車に分類されている電動キックスクーターは、国内の公道を走るには免許証の携帯やヘルメットの着用などが義務づけられている。しかし、シェアリングサービスと結びつくことで欠かせない移動手段として認知され始めている現状では、公道での走行条件を緩和するための社会実験や法改正が進められており、まさに現在進行系で形がルールを変えつつある

TDでもレポートした株式会社Luupの提供する電動キックスクーターは、2021年4月、特例措置として小型特殊自動車に分類された。これにより現在は、ヘルメットの着用は任意で公道を走ることができる。私たちの身の回りには、このように、まさにいま変わりつつあるルールが潜んでいるのだ。

「ルール」を疑う

中国出身のアーティスト、葛宇路(グゥ・ユルー)氏による《葛宇路》は、既存のルールを逆手に取った作品である。《葛宇路》は、作者の名前に中国語で「通り」を意味する「路」という漢字が含まれていたことから着想された。

葛氏は、北京市内の無名の道路に自身の名前を表した標識を設置したところ、誰にも気づかれずに数年間放置されたうえ、オンライン地図サービスに「葛宇路」が正式名称として登録されることになった。大学の卒業制作としてこの試みを発表したところ、この道はテレビやネットで話題となり、最終的には中国当局によって標識が撤去されるに至っている。

葛宇路(グゥ・ユルー)《葛宇路》

人の行動指針となる公共空間のルールが形成されるプロセスを、実証実験したような作品である。個人的に面白かったのは、これを偽の標識だと知った人々が、標識が立てられた道を物々しく報道したり、当局が慌てて撤去したりする様子を伝える映像記録だった。公共空間の安定性を維持しようと慌てふためく人間の姿は、はたから見るとどこかユーモラスであり、公共のルールが後天的に書き換えられうることを証言しているように見えた。

会場風景(ギャラリー2)

それに対して、遠藤麻衣氏の《アイ・アム・ノット・フェミニスト!2017/2021》は、もう少しシリアスな作品である。この作品では、新しい婚姻のあり方を探るべく、オリジナルの婚姻契約書を作成する過程が描かれている。
その内容は、異性愛者である遠藤氏が、同性愛者であることを公言している写真家の森栄喜氏とともに、婚姻制度に代わる親密な関係のあり方について話し合うというものだ。会場には、対話を記録した映像に加えて、オリジナルの婚姻契約書が展示されており、来場者はQRコードで書類をダウンロードすることもできる。

遠藤麻衣《アイ・アム・ノット・フェミニスト! 2017/2021》(撮影:藤川琢史、小柳多央)

その書類に記されているのは、たとえば次のような文言だ。

1条:〈相互の関係の確認〉
MEとEM[引用者注:遠藤麻衣と森栄喜]は、友愛と信頼に基づき共生する関係にあることを確認したうえで、互いの関係について現行の婚姻制度が想定しておらず、保障していない事柄についても、互いに補完し合っていくことを誓約します。

2条:〈命名〉
MEとEMは、「婚姻」に代わる、互いの関係にふさわしい名称を考案します。MEとEMは、かかるふさわしい名称を考案した場合には、その名称に沿うように本契約書のタイトルを書き換えるものとします。

映像のなかで遠藤が「教会で誓い合う結婚は、終身雇用契約を結ぶみたい」「最近は『終身雇用結婚』だけじゃなくてもいいかなと思うようになってきた」と話しているように、婚姻というルールを、自分たちの生き方に合わせてアップデートする過程が描かれている。

とくに印象的だったのは、契約書10条の「弔いの生前共有」という項目だ。そこには「未来に死亡する互いに対する弔慰」として「月に一度、サプライズで花を贈り合うものとします」という取り決めが記されている。ささやかではあるが、婚姻制度(に代わる仕組み)には、生前の時間だけでなく、死後の時間を共有し合う側面もあるのだということには思わずハッとさせられた。

死後の「ルール」を考える

さらに、直接的に「死」を扱った作品も展示されている。Whatever Inc.の《D.E.A.D. Digital Employment After Death》だ。

Whatever Inc.《D.E.A.D. Digital Employment After Death》

これは、自らの死後の肖像の扱われ方について意思表明できる作品だ。その背景には、近年のテクノロジーの発達により、個人のデータを利用して、死者を擬似的に復活させられるようになったという状況がある。

最近の事例としては、2019年のNHK紅白歌合戦において、故・美空ひばり氏をAIによって「復活」させたAI美空ひばりが出演し、賛否両論を巻き起こしたことがあった。
また韓国では、幼い娘を病気で亡くした母親に対し、残されたデータから故人の姿をVRで復活させ、「再会」を果たす様子がテレビで放送されている。

前者は少なからず物議を醸したが、後者はおおむね好意的に受け止められており、娘を失った母親も「とても幸せな時間でした」と振り返っている。

故人の姿をVRで復活させ、娘と再会する

このように、現代人にとって死後の肖像権の管理はすでに現実の問題になりつつある。自身も考えることを促すように、会場には、来場者が意思表明できる書類を記入・提出できるブースも設置されていた。

また、同作のウェブサイトでは興味深い調査結果も発表されている。それによると、自身の死後の「復活」について、過半数の人は否定的に捉えているものの、自分以外の誰か(たとえば、芸能人)の「復活」については、76%の人が肯定的に捉えているそうだ。

死後のデータの管理については、多くの人が家族や親しい友人に管理してもらうことを望んでいる。こうした求めに応じるように、2015年、フェイスブックには故人のアカウントを家族や友人が管理できる追悼アカウント機能が実装された。こうした事例に見て取れるように、死後の肖像権やデジタルデータの管理については、これからますますその「ルール」の整備に対する必要性が高まっていくことだろう。

 

まとめ

冒頭のメッセージにあったように、本展では、作品を見ながら自然と鑑賞者がルールづくりに参加していることを体感させられる内容になっていた。その意味では、ただ受動的に見るだけでなく、体験的な要素や教育的な印象の強い展覧会だった。ひとりでじっくりルールに向き合うことはもちろん、家族や友人と身近なルールについて話し合いながら鑑賞するのも、きっと楽しいはずだ。

会場を歩いていて「いいな」と思わされたのは、展示室の隅にあった「会場ルール変更履歴」と記されたボードだ。そこには、看板設置や案内変更など、運営側のルール変更の履歴がすべて見える位置に掲示されていた。

会場ルール変更履歴(ギャラリー2)

記事の冒頭で「ルールづくりへの参加」にまつわる水野のコメントを紹介した。本展では、アーティストから会場運営に至るまで、さまざまな主体による「参加」の実例が示されている。それらを見ていくことで、自分でもそのプロセスに(小さな事柄であっても)「参加」してみたいと思うようになった。

世の中には、無数のルールと潜在的な「?」が溢れている。ルールづくりに「参加」するうえで最初に必要になるのは、既存のルールに「?」を見つける作業だ。そんなことを思いながら会場の外に出たとき、ふと世の中が違って見えるような気がした。

「ルール?展」

会期:​​2021年7月2日(金)–11月28日(日)※要事前予約
会場:21_21 DESIGN SIGHT ギャラリー1&2(東京都港区赤坂9-7-6)
電話番号:03-3475-2121
開館時間:平日11:00 – 17:00、 土日祝11:00 – 18:00(入場は閉館の30分前まで)
休館日:火曜日(11月23日は開館)
料金:一般 1,200円、大学生 800円、高校生 500円、中学生以下無料

展覧会ディレクター:水野祐、菅俊一、田中みゆき
参加作家:石川将也+nomena+中路景暁、ダニエル・ヴェッツェル(リミニ・プロトコル)+田中みゆき+小林恵吾(NoRA)×植村 遥+萩原俊矢×N sketch Inc.、遠藤麻衣、葛宇路(グゥ・ユルー)、高野ユリカ+山川陸、一般社団法人コード・フォー・ジャパン、コンタクト・ゴンゾ、佐々木 隼(オインクゲームズ)、NPO法人スウィング、田中功起、丹羽良徳、野村律子、早稲田大学吉村靖孝研究室、Whatever Inc.

 

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