【試乗レポ】「ヘルメットは任意」の電動キックスクーター「LUUP」は普及するか

May 28,2021report

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May28,2021

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【試乗レポ】「ヘルメットは任意」の電動キックスクーター 「LUUP」は普及するか

文:
TD編集部 出雲井 亨

いよいよヘルメットなしで乗れる電動キックスクーターのシェアリングサービス「LUUP」(ループ)がはじまった。ヘルメット以外にも、車道上の自転車レーンを走行できる、許可された一方通行を逆走できるなど自転車に近い自由度がある一方で、最高時速は15km/hと遅め。電動キックスクーターは日本のラストワンマイル移動を解決する決定打になるのか。試乗レポをお届けする。

TOP写真:「LUUP」の電動キックスクーターと同社の代表取締役社長兼CEOの岡井大輝氏(写真はすべて筆者撮影)

ついにこの日がやってきた

渋谷のシェアリングポートに電動キックスクーターがずらりと並ぶ姿を見て、「ついにこの日が来たか」と少し感慨に浸ってしまった。2021年4月23日、電動モビリティのシェアリングサービスを手がけるLuup社は、電動キックスクーターのシェアを開始した。最初の提供エリアは東京都心部の6区(港区、渋谷区、新宿区、品川区、目黒区、世田谷区)。すでに同社が展開する小型電動アシスト自転車のポート300カ所のうち、200カ所にまずは100台の電動キックスクーターを順次配置していく。さらに春から夏にかけ、大阪でも展開予定だ。

国内での電動キックスクーターのシェアリングサービスは初めてというわけではない。2019年には独Wind Mobilityが埼玉県や千葉県で実証実験をした(コロナ禍の影響もあり2020年に撤退)。Luup社も2019年から私有地内や一部の公道で実証実験を繰り返してきた。だが今回は渋谷のど真ん中をはじめとした都心での展開で、規模も大きい。同社代表取締役社長兼CEOの岡井大輝(おかい・だいき)氏は、「今回は今までの何十倍、何百倍という大きな規模。多くの方に使っていただき、安全性やニーズを検証したい」と意気込みを語る。

渋谷マークシティのポートにも電動キックスクーターがずらり。手前は従来から展開している小型電動アシスト自転車

今回実施された「LUUP」の実証実験の最大の特徴は「ヘルメット着用義務なし」という点だ。経済産業省の新事業特例制度に基づき、電動キックスクーターをフォークリフトや農耕トラクターと同じ小型特殊車両として扱うことで実現した。あくまで認定された事業者の電動キックスクーターに限ったものなので、全ての電動キックスクーターがヘルメットなしでOKというわけではない。ご注意を。

最高速度は小型特殊車両の上限である時速15kmに設定。これは「ママチャリをがんばらずにこぐくらいの速度」(岡井氏)。運転するには普通自動車免許が必要で、原付免許では利用できない。走行場所は車道のみで、歩道は走れない。だが車道にある自転車レーン(普通自転車専用走行帯)のほか、自転車道(川沿いなどにあるサイクリングロード)も走行可能。さらに「自転車を除く」と表示された一方通行はどちらの方向にも走行可能であるなど、走れる場所はかなり自転車に近い。あくまで原付扱いだった従来の電動キックスクーターとは異なる体験になるはずだ。

時速15kmは、ちょっと遅い

サービス開始当日の4月23日。筆者のオフィスがある目黒駅近くのポートにも2台の電動キックスクーターが配置されていたので、さっそく試してみることにした。「LUUP」アプリを見ればどこに何台の電動キックスクーター(または電動アシスト自転車)が配置されているのかをリアルタイムで確認できる。
以前から展開されていた電動アシスト自転車は、「LUUP」アプリに登録すれば使用できるのだが、電動キックスクーターに乗るにはさらにひと手間必要だ。小型特殊車両扱いのため、免許証をアプリ上でアップロードする必要があるのだ。

さらに交通ルールに関するテストを受けて合格しなくてはならないのだが、これが結構難しい。
具体的な問題を書くわけにはいかないが、事前に発表資料などを読んである程度知識があるはずの筆者でも一発合格とはいかなかった。
少々自信を失ってしまったが、岡井社長も1回目は間違えたと聞き、少し安心した。ちなみにテストは合格するまで何回でも受け直せる。
小型特殊車両の交通ルールは「一番左の車線を走行しなくてはならないが、二段階右折は禁止」などややこしい部分がある。ユーザーにルールをしっかり覚えてもらうための手段として、このテストは妥当だろう。免許の登録やテストは少し時間がかかるので、あらかじめ自宅を出る前に済ませておくといいだろう。
「LUUP」のアプリ画面。電動キックスクーターがあるポートには赤いアイコンが表示されている

テストに合格したら、いよいよ電動キックスクーターを利用できる。「LUUP」アプリを立ち上げて機体のQRコードを読み取り、返却ポートを指定すると電動キックスクーターの電源がオンになる。
海外の電動キックスクーターシェアリングはQRコードをスキャンすればすぐに利用できるものが多いが、「LUUP」は乗車時に返却するポートをあらかじめ予約する方式。これによりポートがいっぱいで返却できないというトラブルを防いでいる。今回は周辺を走って同じ場所に戻る予定だったので、借りたポートを返却ポートに指定した。料金は最初の10分が110円で、以降1分に16.5円ずつ加算されていく(いずれも税込)。決済手段はクレジットカードのみだ。

シェアリング用の電動キックスクーター。バックミラー、ヘッドライト、ウインカー、ブレーキランプなど公道走行で必要な保安部品を備えている
ハンドルポストとフロアは溶接されるなど、ボディは頑丈な作りで、走行中も安心感は高い
小型特殊車両のナンバーがつく。原付免許では乗れず、普通自動車免許などが必要だ

操作は基本的に、一般的な電動キックスクーターそのもの。足で地面を蹴って勢いをつけ、右手のスロットルレバーを親指で押し込むとスルスルと走り出す。軽い上り坂だったが、予想外に力強く加速した。「ソフトウェア制御で最高速度を時速15kmに設定しているが、本来時速25km以上出るようなモーターを使っている」という岡井社長の言葉どおりのパワフルさだ。ところが頼もしい加速に気をよくしていると、あっという間に上限の時速15kmに達し、いきなりガクッと加速が止まってしまう。ルールだから仕方ないが、もどかしさを感じた。

さて、時速15kmという速度だが、これははっきり「遅い」と感じる。道路を走っていると、ママチャリタイプの電動アシスト自転車にどんどん抜かれるのだ。あちらは時速24kmまでアシストが効くから当然なのだが、車道を走っているとクルマだけでなく自転車に対しても申し訳ない気持ちになってくる。これが時速20kmまで出れば、ある程度は自転車の流れに乗れるだろう。わずかな差だが、結構大きい。

機体は頑丈で多少路面の悪いところを走っても安心感があるし、ブレーキは左右ハンドルに握るタイプが付いていてこちらも安心。時速15kmでは余裕たっぷりで、それだけに速度の遅さがもどかしくなってしまう。

今回の実証実験では、「自転車を除く」と表示された一方通行道路の逆走が認められているので、それも試してみた。人もクルマもそこそこ通る、広めの一方通行道路をまずは普通に走り、端でUターンして引き返す。普段から自転車で走っている道ということで、自分としてはあまり違和感はないが、前から来るクルマのドライバーや歩行者からは、戸惑ったような視線を受けることがあった。ナンバーが付いた車両が一方通行を逆に走るのは、端から見ると違和感があるだろう。このあたりは、電動キックスクーターが普及してくれば変わってくるはずだ。

そして片側3車線道路の右折にもチャレンジ。前述の通り、今回の電動キックボードは小型特殊車両扱いなので、普通に右折レーンに入って右折しなくてはならない。だがこれは恐怖そのものだ。まず時速15kmで右車線に入るのは危険すぎる。そこで交差点の手前で左によって停車し、赤信号でクルマの流れが完全に止まってからクルマの隙間を通って右折レーンに入った。青信号になり、交差点の中に進入したが、このスピードで2車線を横切るのはさすがに怖い。運よくクルマの流れが完全に途切れたので右折できたが、交通量が多いときはかなり危険だろう。
大きな交差点を右折したいときは一度キックスクーターを降り、横断歩道を歩行者として渡った方がいい。幸い「LUUP」の電動キックスクーターは、押して歩いていれば機体の電源がオンでも歩行者扱いと認められている。

自転車レーンを走れるのは便利。もっとも、この写真で走行しているのは「普通自転車専用通行帯(いわゆる自転車レーン)」ではなく、「自転車ナビマーク」という走行の目安なので、もともと自転車以外が走行しても罰則はない
一方通行でクルマとすれ違うときは、降車して歩道を歩く配慮も必要だ
小型特殊車両は二段階右折が禁止されているため右折レーンを使うしかないが、かなり危険を感じる。降車して歩行者として横断歩道を利用するべきだろう
自転車よりも乗り降りはラクなので、押し歩きを併用すれば小回りがきく

手軽に乗れて短距離移動に便利

さて、半径1kmくらいの範囲を40分ほど走り回ってみた感想は、まず乗りものとしては「とても手軽」だということ。ヘルメット不要で、すぐに走り出せる。地域にもよるが、一方通行を気にしなくていいのもありがたい。ぱっと飛び降りて押し歩きすれば歩行者だから、渋滞した幹線道路や大きな交差点にも臨機応変に対応できる。

「それなら電動アシスト自転車でも同じじゃん」という思う方もいるのではないだろうか。確かに上記の特徴は自転車も同じ。しかも最高速度は、乗る人のがんばり次第だが時速25kmくらいまで出せる。では電動キックスクーターの優位性はどこにあるのだろうか。岡井社長は「服装を問わずに乗れる」点を挙げた。電動キックスクーターは自転車のようにまたぐ必要がないので、スカートの女性でも乗りやすい。またペダルをこぐ必要がなく比較的汗をかきにくいので、スーツで移動するビジネスマンもターゲットだ。

海外の例を見ると、電動キックスクーターのシェアリング料金はシェアサイクルの2倍というのが相場。それでも電動キックスクーターのほうが使われていると岡井社長は説明する。「電動アシスト自転車と電動キックスクーターのどちらがユーザーに使われるかを確かめるのも今回の実証実験の目的のひとつ。そこで、今回はあえて同料金にしている」(岡井社長)。

両方に乗ってみた筆者としては、15分以内の距離だったら電動キックスクーター、それ以上なら電動アシスト自転車を選ぶと思う。今回の電動キックスクーターの課題はやはり速度で、時速15kmで長距離を走り続けるのはストレスがたまる。だが短距離なら手軽さのメリットのほうが勝るため、電動キックスクーターを選ぶだろう。
現在展開しているエリアではポートの密度も高く、目的地の近くまで乗れることが多い。この密度を保ってエリアを拡大していければ、特に都市部では普及すると思う。ただ個人的には、やはり最高速度が時速20〜25km程度になれば、より利用できるシーンが広がり、利便性が高まると感じている。

2023年までに4輪電動モビリティの全国展開を目指す

今後、電動キックスクーターをめぐる法制度はどうなるのだろうか。実は警察庁も新たなモビリティ枠のルールを模索している。2021年4月に発表された警察庁の有識者会議(多様な交通主体の交通ルール等の在り方に関する有識者検討会)の中間報告書では、電動キックスクーターを「小型低速車」と位置づけ、「自転車と類似の交通ルールとするのが適当である」と提案している。具体的には、運転免許は不要だが年齢制限は必要、ヘルメット着用義務はなし、歩道走行は不可といった内容だ。最高速度を時速15km以上にすることに関しては、「乗車用ヘルメットの着用を義務づけないことを踏まえると適当ではないと考えられる」という指摘もあった。

警察庁の有識者会議でも「ヘルメット任意、免許不要」の小型低速車カテゴリーを検討中だ

一方、岡井社長が会長を務めるマイクロモビリティ推進協議会では、速度域に応じて3つの区分に分けることを要望している。ひとつは時速30km以下のモビリティで、これは現在の原付と同等の扱い。次が時速20km以下のモビリティで、条件は今回の実証実験とほぼ同じ。つまりヘルメットと免許は不要で、自転車道や自転車レーンを走行できる。そして最後が時速10km以下のモビリティで、こちらは歩道も走行できるようにしようというものだ。

マイクロモビリティ推進協議会が要望する新しい車両の区分(同協議会の資料を基に編集部作成)

筆者はこれまで多くの電動キックスクーターに乗ってきた経験からも、この内容は妥当な線だと思う。時速20kmで利用できれば実用的な移動手段になるし、免許不要とすることで海外からの観光客も利用できる。実際、2019年に訪れたドイツでは時速20kmまでの制限があったが、通勤から観光まで、毎日のように使うことができ非常に便利だった。

矢継ぎ早に実証実験を展開し、マイクロモビリティ推進協議会では法制度改正のために精力的に動く岡井社長だが、意外なことに「電動キックスクーターは(ラストワンマイルの)最適解ではない」という。なぜなら、電動キックスクーターは健常者のための乗りものだからだ。ハンディキャップがある方や、年配の方でも安心して乗れるモビリティを作ることが、岡井社長が最終的に目指すゴールだ。

そのためにLuup社では、停車しても倒れない、4輪の電動モビリティの開発も進めている。年配の方が乗るときは自動的にシートが現れ、座って乗ることができ時速10kmで歩道を走れる。若者が乗るときは立ち乗りになって時速20kmで車道を走る。そんな万能な乗りものを作り、2023年までに全国展開するのが岡井社長の目標だ。
大きなチャレンジだが、2018年7月の創業から1年弱で地方自治体との連携を開始し、3年弱で今回の実証実験までこぎ着けた彼の手腕を考えれば、「やってくれるかもしれない」という期待もある。

右端にあるのがLuup社が開発を進める4輪電動モビリティのイメージ。幅広い世代の人が使えるモビリティを目指している(出所:Luup社発表資料)

原稿執筆時点で、今回のシェアリングサービスの実証実験開始から1カ月弱が経過している。渋谷でも、新宿でも、中目黒でも、「LUUP」の電動キックスクーターが走っているのをよく見かけるようになった。東京だけではない。Luup社と同じくマイクロモビリティ推進協議会に加盟するEXxmobby ride長谷川工業が千葉県、福岡県、神奈川県、大阪府などでそれぞれ同内容の認可を取得し、段階的に実証実験をスタートしている。

マイクロモビリティ推進協議会によると、5月13日までに各社合計で延べ7207人が4万1714kmを走行したという。現在、利用者の声としては「自動車との速度差が大きく不安を感じる」「交差点で赤信号で取り残され危険を感じる」「自転車に追い抜かれるなど周りの交通に迷惑をかけている気がする」(5月18日付けプレスリリースより抜粋、要約)といった声が上がっているそうだ。このペースなら10月末までの実証実験中には多くのデータが集まり、課題もクリアになってくるはずだ。

いよいよ本格的に社会への実装がはじまった感がある電動キックスクーター。どのような形で私たちの生活に組み込まれていくのか、楽しみになってきた。

企業サイト:https://luup.sc/

 

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