2022年印象に残った小型モビリティニュースTD編集部のエディターズノート

Dec 16,2022note

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Dec16,2022

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2022年印象に残った小型モビリティニュース TD編集部のエディターズノート

文:
TD編集部 出雲井 亨

2022年も残りわずか。小型モビリティ分野を追いかけている編集部の出雲井が個人的に注目したモビリティのニュースを紹介しよう。

※写真は各社プレスルームより提供

電動キックスクーター普及を見据えて道交法を改正

2022年は、電動キックスクーターが注目を集めた年だった。まず4月19日、道路交通法の改正案が成立した。その中で「特定小型原付」というカテゴリーが新設され、電動キックスクーターの要件が定められた。16歳以上なら免許不要で乗ることができ、最高時速は20キロメートル。どうなるか議論されていたヘルメットは努力義務とされた。改正道交法における電動キックスクーターの扱いについては記事「道交法改正で「免許なし、ヘルメットなし」は危険! なのか?電動キックスクーターの現状と未来」で詳しく説明しているので、興味がある方はぜひご覧いただきたい。
この改正案は多くの国民から注目され、中でも「危険すぎる」という声が目立ったように思う。日頃から電動キックスクーターを利用し、自分でも2台を所有している筆者としては、電動キックスクーターが特別に危険だとは感じていない。
例えば電動アシスト自転車と比べても、最高で時速24キロまでアシストが効く電動アシスト自転車と比べ、電動キックスクーターは最高時速20キロメートルと控えめだ。また自転車と比べてサイズが小さく重さも軽いため、万が一歩行者と衝突したときの衝撃も自転車以上になるとは考えにくい。

ただし、立ち乗り、かつモーター駆動という電動キックスクーターは、ほとんどの人にとって新しい乗りものであり、乗りこなすにはある程度の練習が必要だとは思う。自転車だって、小さいころにじっくり練習して乗れるようになったはずだ。特にとっさの出来事への対応やパニック時などには、経験がものをいう。いきなり公道で乗り回すのではなく、広く安全な練習場所でしばらく乗ってみるのが理想だろう。

もうひとつ注意したいのは、こちらも上記記事で解説したが「特定小型原付」対応の電動キックスクーターの購入は、まだ待った方がいいということ。現在保安基準が議論されている最中で、まだ要件が流動的だからだ。2022年10月に発表された内容を見る限り、最高時速が20キロメートル以下というだけでなく、長さ190センチメートル、幅 60センチメートル以下というサイズ規定や、適合車両であることを示す識別灯の設置が必要になりそうだ。現在の「公道走行可能」な電動キックスクーターは、いわゆる原付(第一種原動機付自転車)に該当し、上記保安基準を満たさない限り、今後も引き続き原付扱いになる可能性が高い。もしヘルメットと原付免許が不要な特定小型原付がほしいなら、もう少し待って状況を見極めることをおすすめする。

結局危険なの? 大丈夫なの?

9月には、電動キックスクーターに乗っていたユーザー初の死亡事故が発生した。報道によると、電動キックスクーターのシェアリングサービスを展開するLuupの機体に飲酒状態で乗り、駐車場の車止めに衝突して転倒したという。電動キックスクーターはタイヤ径が小さく、段差に弱いため、その弱点が出た可能性はある。とはいえ、この1件だけで電動キックスクーターの危険性を論じることはできないだろう。

果たして電動キックスクーターは危険なのだろうか? 日本の都市に導入すべきではないのだろうか。そんなことはない、と筆者は考えている。
世界を見ると、脱炭素を背景に、都市部からクルマを排し、電動キックスクーターや自転車、徒歩などに置き換えていくのは大きな流れになっている。日本でもクルマからより低速なモビリティや徒歩へと移動手段を切り替えていくのは必然の流れだろう。

安全面については、技術の進化に期待したい。例えば電動キックスクーターの歩道での暴走は、技術で防げるようになるかもしれない。すでに海外の複数の企業が車体に搭載したセンサーを利用し、歩道をセンチメートル単位で検知する技術を開発済みだ。この技術を応用すれば、日本でも歩道に入った瞬間にモードを切り替え、道路交通法で認められた時速6キロメートル以下に制御する、といったことも難しくない。モーターで走る電動キックスクーターは、人力を使う自転車よりも速度制御が容易で、暴走を防ぎやすい面もあるのだ。

クルマの自動運転技術がより進めば、電動キックスクーターやその他の交通とも共存しやすくなっていくだろう。長い目で見れば、交通事故は徐々に減っていくはずだ。そんな未来を見据えながら、日本の交通に適した形で電動キックスクーターを導入していくにはどうすればよいのか、皆で前向きに考えていくべきだと思う。

バイクタクシーGojekを体験

筆者撮影

個人的に印象深かったのは、7月末にインドネシアを訪れ、現地の交通事情を体験したことだ。インドネシアではGojekというバイクタクシーが普及しており、街中を走り回っている。これについては「インドネシアのバイクタクシー「Gojek」に乗ってみた」という記事にまとめた。
Gojekが面白いのは、なんといっても優秀なバイクドライバーの集団が「何でも運んでくれる」ところだ。日本でいうUber Eatsのように、レストランの食事をデリバリーしてくれるのはもちろん、買い物代行にも対応している。「近くのセブンイレブンでポテトチップスとコーラを買ってきて」という注文もできるのだ。あるいは医師の遠隔診療を受け、処方された薬を届けてもらうこともできる。その気になれば、自分は一切移動しなくても不自由なく生活を送ることができそうだ。

同行した現地のコーディネーターは「コーヒー1杯のデリバリーを頼むこともある」と言っていた。そのくらい、Gojekは身近で生活に欠かせない存在になっている。
交通事情などを鑑みると日本で同様のバイクタクシーが普及することはないだろうが、ロボットタクシーやロボット配達が、近い将来Gojekのような存在になるかもしれない。移動しなくても生活できるようになったら、私たちは何のために移動するようになるのだろうか。

glafitの電動キックスクーターLOM が発売延期に

もうひとつ印象に残った出来事が、年内発売を目指してきたglafitの電動キックスクーター「X-SCOOTER LOM(以下LOM)」の発売時期が未定となったことだ。多数の注文が入り品薄となっているGFR-02にリソースを集中するため、というのが理由だ。
LOMは2020年にクラウドファンディングが開始され、筆者もレビューした(「【試乗レポ】バイクでもキックスクーターでもない。glafitの新立ち乗りモビリティ、LOMに期待すること」参照)。その後、個人的にクラファンで応援購入し、2021年3月に納車。今も近場の移動にガンガン乗り回している。
クラファン実施当時のLOMの価格は、応援購入の時期によって異なるが10-13万円前後だった。その後、とあるイベントでglafitの鳴海禎造社長とお会いしたのだが、コロナ禍によって部品の価格が高騰し、とてもその価格では採算が取れなくなったと聞いた。果たして、その後発表された市販予定価格は24万2000円と、当初の想定を大幅に上回るものとなった。昨今の円安傾向を鑑みると、それでも採算をとるのは厳しいのだろう。

LOMについては、発売時期が見えたタイミングで再度レビューしようと思っていた。折り畳めば軽自動車のトランクにも入るほどコンパクトで、走行性能はスポーティという、面白い乗りものだからだ。一方、かなり攻めた設計になっているため乗りこなすためには一定のテクニックを求められ、万人に勧められるものではないとも感じた。
現時点では、彼らがより万人に受け入れられやすい自転車型の「GFR-02」に集中するのは正しい判断だと思う。だが一人のLOMオーナーとしては、エレベーターにもラクラク乗れるほどコンパクトで、横向きで乗る一般的な電動キックスクーターとは違い、スキーのように正面を向いて走るという独特の楽しさがあるX-SCOOTER LOMは、大きな可能性があるプロダクトだ。今後、例えば新道交法に適合するような形で復活してほしいと願っている。

追記:2022年12月7日、glafitは国内最大級のシェアサイクルプラットフォーム「HELLO CYCLING」を手がけるOpenStreetと業務提携し、特定小型原付枠の「小型電動スクーター」を共同開発すると発表した。DIAMOND SIGNALの記事によると、開発するのは「キックボードタイプではなくて、椅子のついたスクータータイプの車両をベースにする」(glafitの鳴海禎造社長)とのことで、折りたたみ自転車型のGFR-02のような乗りものになると予想される。シェアリングだけでなく販売も考えているようで、楽しみな展開だ。

電動アシスト自転車VanMoofの新モデルが登場するも、価格は約50万円に

現在の日本で最も利便性が高い小型モビリティは電動アシスト自転車だろう。多くの一方通行道路を逆走でき、場所によっては押して歩けば歩道も通行できる。電気の力でパワフルに走れるが、電動キックスクーターと違って時速20キロメートル以下に制限されることもない。そして、大多数の施設に駐輪場が設けられている。
そんな「最強の乗りもの」である電動アシスト自転車の最高峰といえるのが、VanMoof S5/A5だ。ライト、警笛、そしてロックも本体に内蔵。ロックはスマートフォンで解錠でき、シフトチェンジのタイミングやアシスト力もアプリでカスタマイズできる。さらに独自のGPSやApple社のAirTagを内蔵しており、万が一盗難にあっても位置を追跡できる。

4月に本体価格31万5000円で発売されたときは、誰にでもオススメの一台だった。ところが、10月になんと17万円以上値上げし、48万7000円となってしまった。世界的な部材の高騰と円安が重なった結果なのだろう。ワクワクさせる未来感があり、使い勝手もいい自転車なので、もう少し手が届きやすい価格に戻ってくれるといいのだが。

シニアカーを変革するWHILL Model Sに期待

9月には、次世代の電動車いすを開発するWHILLからModel Sというシニアカータイプのプロダクトが発表された。免許返納後の「足」として高齢者に使われることを想定した製品だ。最高時速6キロメートル以下の歩行領域のモビリティは、今後需要が高まることが予想されるにも関わらず、手がけるプレーヤーが非常に少ない。WHILLにも目立った競合がいないのが現状だ。Model Sは、500メートル以上歩くのが困難な方を想定したモビリティだ。WHILLによると、そのような人は日本に約1200万人いるという。

実際に乗ってみると、いい意味で「老人くさくない」雰囲気がある。例えばバッテリーの残量は、クルマのように「E」(Empty)から「F」(Full)で表示されている。従来のシニアカーは年配の方にも分かりやすいよう日本語表記になっているのが一般的で、例えば速度設定は大きな字で「低速」「高速」などと書かれているものが多い。これは分かりやすい一方で、いかにも「老人向け」という雰囲気を醸し出す。シニアカーは免許返納したときに家族がプレゼントするケースも多いのだが、いかにも「老人向け」のシニアカーをプレゼントされ、「いよいよ自分も年寄りか」と落ち込んでしまうケースも多いそうだ。
そんな中、Model Sにはまるで無印良品のようなシンプルさとスタイリッシュさがあり、筆者が乗っても違和感を感じないデザインだった。今後、身体的には年を取っても精神的には若いアクティブシニアはますます増える。Model Sのようなプロダクトがもっと出てきてもいいと思う。

振り返ってみると、2022年は道交法の改正をきっかけに電動キックスクーターをはじめとした小型モビリティに大きな注目が集まり、いよいよ未来へ向けて動き出した年だったように思う。2023年にどんな新しい乗りものが出てくるのか、今から楽しみだ。

 

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