【試乗レポ】日本初! 電動キックスクーターのサブスク「WIND」に登録してみた

Apr 17,2020report

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Apr17,2020

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【試乗レポ】日本初! 電動キックスクーターのサブスク 「WIND」に登録してみた

文:
TD編集部 出雲井 亨

世界中の都市で広まりつつある電動キックスクーター。日本でも個人が手軽に利用できるサブスクリプションサービスがはじまった。サービスを提供するのはベルリン発スタートアップのWind Mobility。TD編集部の出雲井(いずもい)が早速サブスクに申し込み、1カ月使い込んでみた。試乗編とインタビュー編の2部構成でお届けする。

月額課金制の電動キックスクーターが、国内に?!

「電動キックスクーターのサブスクリプション(月額課金制サービス)、受付開始!」
——とあるサイトでそんな情報を見つけたのは2019年12月のこと。一瞬、海外向けのバナーが間違って表示されているのかと思ったが、どう見ても日本語で書いてある。日本の公道で電動キックスクーターに乗れるのだろうか。半信半疑ながら、初月無料と書いてあるので申し込んでみることにした。

サブスクを提供しているのはWind Mobilityというベルリン発のスタートアップ企業。すでにさいたま市や千葉市などでシェアリングサービスを展開しているという。なお、サブスクリプション料金は月額1万円だ。

以前、ベルリンでLimeの電動キックスクーターに乗って、その便利さと爽快感のとりこになった。ちょっと遠くのレストランまで足を伸ばしたいなと思ったら、近くにある電動キックスクーターにさっと飛び乗ればいい。マラソン選手が走るくらいのスピードで移動して、目的地に着いたらその場に置いておくだけ。徒歩の延長感覚で手軽に使える乗りものだった。

でも東京で、同様の感覚で乗れるだろうか。
ベルリンと違って、東京には狭い道が多い。坂道もある。さらに、どうやら電動キックスクーターは法律上、原付(第一種原動機付自転車)に分類されるらしい。つまりヘルメットをかぶって車道を走る必要がある。
ベルリンでは自転車専用レーンを走ることができたし、道路が広いので車道を走る場合でも安心だった。だが道が狭く交通量が多い東京ではどうなのだろうか。そんな不安を抱えながら、電動キックスクーター(以下、WINDと呼ぶ)が到着するのを待った。

室内に置かないと充電できない!

届いたのは2020年1月下旬。指定した日時にインターホンが鳴り、ドアを開けたらWINDを押した配達員の方が立っていた。その場で一通り説明を受け、スマホアプリで登録をして引き渡しは完了。マンションの廊下にポツンと残されたWINDを見て、ハタと困ってしまった。置き場所を考えていなかったのだ。

電動アシスト自転車と同じ感覚で、マンションの駐輪場に置けばいいやと漠然と考えていた筆者が甘かった。電動キックスクーターには充電が必要だが、WINDはバッテリーの取り外しができないのだ。もともとシェアリングサービス用に作られたものだから、盗まれないための対策なのかもしれない。
雨ざらしはNGとのことなのでベランダにも置けず、仕方なく室内の廊下の片隅にブルーシートをしいて、その上に置くことにした。家族の目が冷たい。ちなみに充電器はノートパソコン用のものを二回りほど大きくしたような形で、家庭用コンセントにつないで充電できる。

さて、置き場所が決まったところで改めて本体を観察してみる。
サイズ感や形はベルリンの街中に置いてあったシェアリング用のものに似ている。大きく違うのは、後部にナンバープレートが付いていることだ。
前述の通り、電動キックスクーターは日本では原付扱いとなる。このためナンバープレートを取り付け、自賠責保険に加入して書類を携行する必要がある。ハンドル部分にはバックミラーと警笛が装着されていた。
なお、今回登録したサブスクリプションサービスでは車両登録や自賠責保険への加入が済んだ状態で届くので、ユーザーが申請などをする必要はなく、すぐに乗りはじめられる。

サブスクで届いた電動キックスクーター、WIND。結構大きい
公道を走るため、後部にはナンバープレートを装着する
人力のキックスクーターと比べると、その大きさがよく分かる
緑のレバーがアクセル、赤いレバーが前輪ブレーキ。法律に則り、ミラーや警笛も付いている
駆動モーターは前輪に内蔵。最高速度は19km/hくらいだ
この端子に電源アダプターを接続して充電する。バッテリーは取り外せない

爽快感は抜群。でも上り坂に弱い

早速、外を走ってみる。まず専用アプリを使ってロックを解除する。アプリを起動するとWINDのバッテリーレベルと推定走行可能距離が表示される。「ロック解除」ボタンをタップすると、数秒で本体のヘッドライトが点灯し、ピコッと音が出てロック解除完了を知らせてくれる。
ちなみにロック状態で本体を動かそうとするとライトが点滅し、タイヤが振動するのだが、持ち上げれば難なく動かせるので防犯機能としては弱い。もっとも本体にGPSが内蔵されており、盗まれても場所を特定できるため、自転車のチェーンのような物理的なカギは不要なのかもしれない。

原付だから公道を走るには運転免許(原付免許や普通自動車免許)を携帯し、ヘルメットをかぶるのを忘れてはいけない。
一般的に電動キックスクーターは、誤発進を防ぐために、停止状態でレバーを押し込んでも発信せず、最初の1歩は自分の足で蹴り出す必要がある。WINDも同じで、少し勢いをつけて飛び乗り右手の緑レバーを押し込むと、すーっと音もなく走り出す。

平地なら最高時速の19km/hまで数秒で到達する。このスピードは、電動アシスト自転車で普通に走るくらいのスピード。クルマが少ない路地や狭い道なら問題ないが、大通りを走ると「もっとスピードがほしい」と感じた。
なにしろ走っていいのは車道だけだ。仮に自転車専用レーンがあったとしても、歩道に逃げ込むわけにはいかないのだ。

さらに困ったのが上り坂だ。少しでも上りにさしかかると、どんどんスピードを落としていく。
筆者の感覚だが、電動アシストなしの自転車でサドルに座ったまま上れる坂では14km/h程度まで落ち、立ちこぎをしないと上れない坂はWINDでも上れず止まってしまうイメージだ。上り坂だと発進もかなり遅くなるため、信号待ちで後ろにクルマがいるときなどは気を遣う。

というわけで坂にはめっぽう弱いが、もちろん美点もある。
何より、コンパクトで軽いから、気軽に乗れる点がよい。日本ではヘルメットをかぶる手間こそあるが、サッと飛び乗るだけで走り出せるから、バイクを持ち出すか迷う徒歩数分の距離でも、乗る気になる。自転車よりも小さいので、行った先で止める場所に困ることも少ない。近くのコンビニやスーパーなど、徒歩15分以内くらいの狭い範囲を行ったり来たりするのに便利だ。
自転車よりもさらに手軽で快適に移動できる手段として、ニーズはあると思う。

現状ではまだ課題がある

1カ月ほど使ってみた感想は「今はまだ厳しい」というものだった。
これは筆者が住んでいる場所によるところも大きい。坂が多く、どこへ行くにも急坂を上り下りする必要があるのだ。
さらに近所は一方通行だらけで、駅へ行くにもいったん正反対の方向に進まなくてはならない。自転車なら最短距離で行ける場所でも、WINDを使うとかなり遠回りになってしまうのだ。

もうひとつの問題は置き場所で、毎回室内に持ち込んで充電するのは面倒だ。このような環境ではWINDのメリットである手軽さは生きてこない。
逆に平坦で一方通行が少ないエリアで、ガレージにコンセントがあるような戸建てにお住まいの方なら、現状でも便利に使えるのではないかと思う。

今後日本で普及するかは、「ハードウエア」と「ルール」、2つの課題を解決できるかどうかにかかっているように思う。

ハードウエア面では、もう少しパワーがほしい。上り坂でも減速せず、最高速度が25km/h程度まで上がれば怖い思いをすることも減るだろう。そして一般的な電動アシスト自転車と同じようにバッテリーが着脱式になれば、保管場所の問題も解決する。

ルール面では、やはり「原付扱い」となる点が現状に即していないように思う。例えばWINDの車重は14kg程度と、25kg前後が一般的なママチャリタイプの電動アシスト自転車より大幅に軽い。スピードに関しても、WINDの最高速度は19km/hだが、電動アシスト自転車は24km/hまでアシストが作動する。実際に走っていてママチャリに追い抜かれることも少なくなかった。つまり重量と速度を考えれば、これを自転車扱いとしても危険性はそこまで高くないのではなかろうか。
歩道は走れないとしても、少なくとも自転車専用レーンなら問題ないだろう。諸外国のキックボード規制を見ても、自転車道は通行可能となっている。

 自転車専用レーンの走行であれば、危険性は低いだろう

ちなみにここで挙げたハードウエア面の課題は、2020年4月7日に販売予約が開始された新型のWIND 3.0ではある程度、解決済みだ。ルール面の見直しや海外の状況についてもWind Mobilityの日本法人、Wind Mobility Japan社に取材してきたので、次回インタビュー編としてお届けする。
使いこなせれば便利な乗りものであることは間違いない。課題を一つずつ解決することで、多くのユーザーが気軽に乗れるようになる日を待ちわびている。

 

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