ミクロを積み重ねるとマクロになる精密機器分野のプロフェッショナリズム

Apr 13,2019report

#60_40_20

Apr13,2019

report

ミクロを積み重ねるとマクロになる 精密機器分野のプロフェッショナリズム

文:
TD編集部 出雲井 享

JIDAビジョン委員会が主催するフォーラム、「インダストリアルデザインのプロフェッショナリズム」シリーズの第3回が、2019年3月7日(木)に開催された。今回のテーマは「精密機器」だ。

「インダストリアルデザインのプロフェッショナリズム」シリーズ、3回目開催

日本インダストリアルデザイン協会(JIDA)ビジョン委員会が主催するフォーラム、「インダストリアルデザインのプロフェッショナリズム」シリーズの第3回が、2019年3月7日(木)、東京ミッドタウンのデザインハブで開催された。
自動車をテーマにした第1回、家電デザイナーが集まった第2回に続き、今回のテーマは「精密機器」。
前回までは60代・40代・20代の3世代から登壇者が決められたが、今回はキヤノン総合デザインセンター所長の石川慶文氏(50代)、セイコーインスツルのウオッチデザイングループに所属する石原悠氏(40代)、そしてオリンパスデザインセンターの鈴木辰彦氏(30代)の3名。自分が手がけた仕事を例に挙げながらデザインプロセスや考え方について語った。

ファシリテーターを務める芝浦工業大学助教の蘆澤 雄亮氏は「ほんのちょっとした違いに、深淵を見る」という副題を提示した。
3名のデザイナーが手がけるのは、カメラやレンズ、医療機器、高級腕時計といった精密機器。その多くはプロフェッショナルのための道具でもあり、華やかな装飾ではなく、プロの現場で厳しい要求に応える使い勝手や信頼性が求められる。そして一般の人は気付かないほどの非常に細かいディテールがデザインの良し悪しに直結する。そんな世界でデザイナーたちはどんなこだわりを持って仕事をしているのだろうか。

「ほんのちょっとした違いにこだわる」のがデザイナー

JIDAビジョン委員会の担当理事で、今回のテーマを設定した山田晃三氏は冒頭「デザイン」という言葉と、それを専門とする「デザイナー」という肩書きの間に大きな開きがあるのでは、と問いかけた。
「デザインをやっています」という人はたくさんいる。リサーチャー、プランナー、コンセプター、ファシリテーターなど……。確かに彼らの仕事は「デザイン」だと言える。
しかしデザインを専門とする「デザイナー」の仕事とは何かを考えていくと、「今日のテーマである『ほんのちょっとの違いにこだわる』のがデザイナーなのではないか」と山田氏はいう。

マクロの目でプランニングしていく(大文字の)DESIGNに対して、ミクロを徹底的に詰めていく職人的な(小文字の)design。だがミクロを徹底的に突き詰めると、突然マクロになる瞬間があるのではないかという。ミクロのデザインが経営トップの気持ちを揺さぶる、そんな体験を山田氏は何度もしてきた。

そこで今回のテーマである「ほんのちょっとした違いに、深淵を見る」に戻る。精密機器におけるミクロのデザインを突き詰めてきた3人。
そのデザインはどのようにユーザーであるプロフェッショナルや消費者の心を揺さぶっているのだろうか。

デザイナーは医療機器のユーザーにはなれない

トップバッターは、オリンパスでカメラ、レンズ、ICレコーダー、そして腹腔鏡などの医療機器を手がけてきた入社7年目、30代の鈴木辰彦氏。

鈴木氏が最初に取り上げたプロダクトは、腹腔鏡だ。医療機器のユーザーはドクターである。だから、どうがんばってもデザイナー自身がユーザーになることはできない。そこを、いかにしてドクターの感覚に近づくか、それがポイントだと鈴木氏は語る。

ドクターの感覚を少しでも理解するには、やはり体験するしかない。そこで自身も腹腔鏡手術の手技について勉強し、再現してみるという。患者さんの体を段ボールで再現し、実際に操作してみる。すると、どのようなときに腕が当たるのかといったことが分かってくる。
こうして実際に自分で手技を再現することで、どうすれば良くなるかという仮説ができる。その仮説を社内で評価し、さらにドクターに評価してもらい、新しい仮説に反映するというサイクルを回して完成度を上げていく。
ドクターもプロフェッショナルなので、ほんの少しの違いに気付く。例えば操作性を大きく向上させたが少しだけ重くなった試作を持って行ったとき。社内では高評価だったが、ドクターは「この重さでは7〜8時間に及ぶ手技では使えない」と評価した。このプロフェッショナルの「ほんの少し」に自分の感覚を合わせていくことが求められる。

実際のデザイン例として、鈴木氏は腹腔鏡を操作するジョイスティック部分を紹介した。ジョイスティックをつける角度はどのくらいか、形は「ドーム型」なのか「くら型」なのか、ゴム手袋をした状態で滑りにくい滑り止めの形状はどんな形か。さらに医療機器なので洗浄しやすい形状でなくてはならない。
ドクターは、毎日長時間使うからこそ、わずかな違いも感じ取り、ごく小さなパーツにも機能や意味を求める。制約も多い医療機器という分野でドクターの高い期待に応えるには、ほんの少しの工夫をコツコツと積み重ねるしかない。

制約の中でのこだわり

鈴木氏がもうひとつ例に挙げたのが、カメラレンズのデザインだ。オリンパスが2016年から2018年にかけて発売したF1.2大口径単焦点シリーズ。オリンパスの最高峰のレンズで、17mm、25mm、45mmという3種類の焦点距離をラインアップしている。

レンズは光学設計によってほぼレイアウトが決まるので、デザインの余地は大きくはない。だがその中でも段差の幅、ローレット(ギザギザをつける加工)の段の数や角度といった細かい点を入念に検討することで、最高峰レンズにふさわしい質感や機能性を実現している。3本のレンズの操作感をそろえるため、ローレットの角度までレンズによって変えられている。

ほんの少しの違いに込めたデザインの意志が、意図通りに機能しているかどうか。それを知るために、鈴木氏は実際にプロカメラマンの撮影現場にも出向き、使われ方を観察しているという。
2つの事例を見て感じたのは、鈴木氏のユーザーであるプロフェッショナルの方々との向き合い方だ。医師やカメラマンなど、ミスが許されない真剣勝負の現場で使われるプロダクトだけに、デザイナーへの要求も厳しい。その高い期待に応えるべく、相手の仕事に深い敬意を払い、真摯に向き合いながらデザインしている姿勢が鈴木氏の言葉の端々から感じられた。

100年間変わっていない時計のデザイン

続きは会員(無料)の方のみご覧いただけます。

※読者ニーズを適切に理解するために読者登録のお願いをしております。

この記事を読んだ方にオススメ