モデラーとデザイナーが二人三脚で創り上げた4代目プリウス青戸務のカーデザイン大賞解説 vol.3

Apr 28,2017report

#PRIUS

Apr28,2017

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モデラーとデザイナーが二人三脚で創り上げた4代目プリウス 青戸務のカーデザイン大賞解説 vol.3

文:
TD編集部

日本カーデザイン大賞、ゴールデンクレイ賞を受賞したトヨタプリウスは、日本のハイブリッド車の草分けだ。1997年に初代が発売され、2015年12月に発売された現行車種は4代目。トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー(TNGA)を初めて採用し、乗り心地や走行性能を大幅に向上させた。
日本カーデザイン大賞2016-2017の受賞「車」について青戸務氏が解説する本企画。最終回となる今回はデザイナーの児玉修作氏、クレイモデラーの松田章氏、そして青戸氏の三者による鼎談が実現した。

モデラーにとっても新たな挑戦だった

青戸:モデラーの方も普通の造り方と違って難しかったんじゃないでしょうか。
松田:そうですね。いま児玉が申し上げた通り、灯火類も独立させるという考えがあったので、その部分は新しい挑戦でしたね。一般的な造形では、繋がった面上にランプが入るというのが、大きな考え方としてあります。ですが今回面上にはランプは入らない、ということなので。
 青戸:ああ、そうなんですね。

松田:だから、そこをしっかり計算した上で、「ここに入れる」という意思を持って造形しないと、なかなかうまくいかない。そこは非常に難しかったモデルだと思います。

青戸:プロポーションも難しかったんじゃないでしょうか。

松田:今回のプリウスはフロントタイヤの上にフロントピラーの付け根が乗っかっています。そしてそのフロントピラーはベルトラインのウェッジ、そして前方視界の要件等もあり、一番幅が広く見えてしまいます。普通とは違うキャビンの考え方なんですね。

児玉:うん、そうですね。

松田:だからフロントピラー付け根が平面のピークとなり後ろは勝手に絞れてきます。 その時に後ろがいじめられているような違和感が無い様につくる事が結構大変でした。やはりキャビンは、人が中に乗ってますよ、という形をしていることが大事ですから。

やはりキャビンは「人が乗っている形」をしていることが大事。

デザイナーとモデラーの思いがぴたりと合わなければあるべき姿にはならない

青戸:今回のプリウスは、Bピラーのちょっと前が側面視で一番ルーフのピーク。そこから後席の居住性を確保しながらルーフを絞っていくから、当然リヤのホイールから後ろのオーバーハングがかなり長くなりますよね。
それで、リヤの部分はサイドのキャラクターラインの上にもう1本、すごくシャープなラインを入れて、削ってます。これによって、リヤがうーんと長く見えるのを防いでるんですね。これのラインは、よく見るとリヤドアの直前で消えてるんですね。

ルーフサイド後端には、サイドウィンドウがリヤへと吹き抜ける
“風の流れ”をイメージした特徴的な造形処理を採用。

松田:そうです。

青戸:これ、きれいに見せるのはすごく難しいんじゃないですか。

松田:ハイライトの調整自体は、微妙な調整を繰り返す必要はありますが、目標を持って詰めていけばできます。ただ、その目標をどう決めるのか。これが非常に難しいですよね。デザイナーの思いとモデラーの思いがぴたりと合わないと、あるべき姿にならないと思います。
例えばリヤのラインの微妙な折れにしても、明るく光らせたいのか、陰を出したいのか。面の微妙な角度によって、上を向いた折れと、サイドを向いた折れとでは、まったく見え方が違ってきます。今回は、かなり際どい所を狙って折ってるので、その落としどころを見つけるのは大変でした。

プレス技術者と目標を共有して量産モデルに反映させていく

児玉:クレイに関しては、デザイナーとモデラーでうまく意図を共有できれば造形はできると思うんですが、それを量産に持っていくところも難しかったですね。
例えば今話をしている箇所の下鈍角の微妙なラインですが、リアドア見切りの手前で終わっていますよね。これを製造側に持っていったときに、どこでこのラインが終わるのかがなかなか管理できない、そこは苦労しました。出すなら出すではっきりしてほしいというのが製造側の意見なんですよ。そこは作り手側として「こういう造形がしたい」というのをクレイモデルを目標にしながら、プレス技術者と共有しました。

「作り手側として『こういう造形がしたい』というのをクレイモデルを目標にしながらプレス技術者と共有しました」と語る児玉氏

青戸:確かに、シトロエンのC4でものすごくエッジのRの細かいラインをプレスでやっていましたが、最近の製造技術ってのはすごいですね。しかしモデルを作るのも大変でしょうし、これを生産できれいに見せるっていうのは大変難しいでしょうね。

松田:今回の表彰式の場でも、「かなり難しいことをやっている」と見られているな、と感じました。ただ造形としては、あまり難しさや無理感みたいなものを出さずに、ナチュラルに見える造形をしたいという思いはありますね。

デザイナーとモデラーの距離

青戸:先ほどいただいた松田さんのお名刺に、匠って入ってますよね。私もいろいろなメーカーでデザインをやってきましたが、メーカーによってデザイナーと、モデルをやる人の距離感って違うんですよね。欧米のメーカーですと、デザイナーとスカルプチャーを作る人はもう完全に分かれています。デザインは形を指示する人、モデラーはそれを立体にする人、とお互い独立していて、労働組合も違うくらいです。ということは、向こうではデザイナーの力量がそれだけ要求されるわけです。立体を作る人にちゃんと分かるデザインをしなきゃいけないので。
一方で日本のメーカーは、私の経験したホンダもそうなんですけども、デザイナーも一緒になって、クレイを削って、ああだこうだって言いながらやっていきますよね。恐らくマツダなんかも同じだと思います。トヨタさんの場合は、その辺はどうなんですか。

松田:トヨタもホンダさんと同じように、一緒になって作っていくタイプですね。それが先輩方から引き継がれたものづくりです。今後も、もっと一緒になって、もっと議論しながら造形をしてかなきゃいけないなと思っています。

モデラーが造形以外に見るべきもの

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