【連載】イマドキの美大生と喋ってきたvol.2 プログラミングで表現する日々

Sep 29,2017report

#gakusei

Sep29,2017

report

【連載】イマドキの美大生と喋ってきた vol.2 プログラミングで表現する日々

文:
TD編集部

今、デザインやアートを学ぶ若者たちはどんなことを考え、何を求めているのか? 彼らの目に映る、学校生活、暮らし、考え・悩みなど、様々な「リアル」を聞いていきます。
第二回目の今回は、多摩美術大学(通称「多摩美」)の八王子キャンパスにお邪魔して、大学院に通う坂本千彰くん(情報デザイン)にお話をうかがいました。坂本くんは、高校卒業後に福岡県から上京して情報デザイン学科に入学。2014年に学部を卒業し、同大学の院に入学しました。卒業後も同じ学科の大学院に進み、制作・研究しています。

流行りというより、もうスタンダード。
ごく普通になってきた、プログラミングによる表現。

イマドキの美大生に話を聞こうというTDの企画。まずは、冒頭の写真から。これは……なに?!

はい。卒業制作として手がけたもので、コンセプチュアルアートの名作として有名な、ジョセフ・コスースの「一つと三つの椅子」に着想を得た「行為の椅子」というインスタレーション作品です。僕はコスースの知覚に対する表現に興味を惹かれ「椅子に座る行為」を作品の主題に据えました。作品は幸運なことに、メルセデス・ベンツのショールームにも展示されました。

坂本くんの卒業制作、「行為の椅子」。メルセデス・ベンツのショールームに展示された。

新モデルの発表の際に、インタラクティブアートの作品を会場に展示したいとのお誘いが多摩美にあったそうで、僕をご紹介いただいたんです。新モデルのテーマが「Design」で、企画をされていたベンツの方も美術好きとのことで、多摩美にお話があったそうです。

「椅子に座る行為」を主題に捉えた作品。記録映像を見て教授のコメントを読むと、より理解が深まります。

現在は大学院で「パラメトリックデザイン」について研究しています。少し伝わりづらいと思うのですが、具体的にいうとプログラミングを用いて椅子のジェネレーターを作っています。卒業制作と、今取り組んでいるパラメトリックデザインは直接的な関係は薄いのですが、この作品を制作したことで、椅子や家具に対する理解が深まり、不得意だったプログラムにも必死で取り組んだので今に繋がっているかなとは思います。

パラメトリックデザイン……。あまり馴染みのない言葉に感じるけど、たしか最近、インテリアデザインなどに使われているものでしたっけ?

そうですね。パラメータを調整することで様々なパターンを生み出すことができて、全く異なるデザインを瞬時に作ることができます。昔のように手作業で何パターンも作らず、PC上で数値を変えるだけで一度にパターンを作ることができるので、すごく便利なツールですよ。

僕は、今ちょうど、椅子を自動生成するアプリケーションのようなものを作っています。
数値を入力するだけで椅子ができて、また値を動かすことで容易に変形させることができるアプリのようなものです。

坂本くんの研究室で、今制作しているアプリケーションを見せてもらいました。
へえ!プログラミングを用いて作品を作っているんですね。今の美大って、プログラミングする学生が多いの?

プログラミングを使って表現する人は増えていますよ。もちろん美大以外の人も増えていると思います。周りの友達とか後輩もプログラミングで表現している子が多いです。
そういう人が集まる、プログラミング部というコミュニティが僕の学科にあって、VJパフォーマンスのワークショップをやったりもしています。

プログラミング部の活動を見てると、これは流行っていうよりも、もう普通になってきていると感じますね。仕事でコンピューターを使うのが一般的になっているように、働く上でもある程度のコーディングスキルがあることが必要になる社会になっていくと思います。

情報デザイン学科の学外展「できごとのかたち展」の様子。毎年、学部1年生から3年生の選抜作品が展示される。

ゼミでは、日本人は自分だけ。
実は留学生が多い、美大の大学院。

美大の大学院に通ってみて、率直にどうですか?

入ってみて、いろいろと視野が広がりました。
学部の時は2つに分かれていたコースが共同になって一つの大学院となっているため、審査会や学外展示などでは、今まで関わってこなかった人とも関わる機会がたくさんあります。審査会の時は、とても緊張しますが、普段考えていないような指摘をいただけるので、すごく刺激になっているなと感じています。

院生になると関わる人が増えるんだ。ちなみに研究室の雰囲気って、学部の時よりも、厳しいの?

いや、僕が入っている研究室は、褒めて伸ばしてくれる感じですよ。明確に間違えている部分は正してくれますが、「俺についてこい!」みたいな雰囲気は無く、各々がのびのびと制作・研究していますね。この雰囲気は、学部の頃から、変わっていないです。

学部の時と違うのは…そういえば、ゼミに日本人は僕しかいないんですよ。

情報デザイン学科の学外展「できごとのかたち展」の準備の様子。みんな、せっせと設営しています。
ゼミで日本人が1人だけ?留学生が多いんですか。

多摩美だけの話ではないかと思いますが、大学院はとても留学生が多いです。僕が入っているゼミでは、日本人は僕だけです(笑)
日本にいるのに留学しているような感覚になります。留学組は研究内容も固まっていて、スキルもある人が多いので、同期で研究していく仲間としてとても新鮮な意見をくれたり、単純に文化の違いを肌で感じることもできるので、貴重な経験です。

周りに留学生しかいないこともあって、社会との関わりも意識するようになりましたね。学部で一緒だった友人はだいたい就職して社会人になっていますし、大学院に入ってから、外部の人から頼まれて、展示空間や店舗空間デザインのアシスタントといった仕事も少しするようになりました。

大学の中と外を見る機会が増えると、自分の実力が見えて来て、ガッツリ落ち込むこともありますが、モチベーションは上がります。学部の頃とはちょっと違う学生生活が送れている感じがします。

充実されていますね。一方で、大変だと感じることなどありますか?

論文が大変です。作品と並行して書かなければいけないんですが…自分たちは美大上がりなので、学部の時から文章を書く経験をしていなかったんです。今もまだ戸惑うことが多くて苦労しています。
ただ、論文発表がデフォルトになっている学生からしたら、なめんなと怒られる気がします(笑)。

学部3年まで情報デザイン学科の学外展「できごとのかたち展」の運営スタッフとして参加していた坂本くん。3年次には展示代表を務めていた。写真はてきぱき(?)指示を出す坂本くん。
美大って学部の頃は論文なしでも、院になると書くんですね。作品制作と同時進行だと大変そう…。そういえば、美術大学に6年も通っていたら、お金に苦労しない?

ありがたいことに、親から全面的に援助してもらっています。家賃も払ってもらっています。親には本当に感謝しています。早く働いて、返済したいと思っています。

じゃあ、バイトとかもしていない?

いえ、親からの援助だけに頼らず、TAやバイトをして固定収入が入るようにしています。あと、院生になると研究費で年間10万円の援助が大学側からあるんですが、僕はそれでなんとか1年間の制作はカバーしています。

作品づくりでは超真面目な性格が裏目に。
面白さや、自分の表現を追求したいと思い進学。

そもそもデザイン・アート系の大学へ入ろうとしたきっかけは、何かあったんですか?

うーんと、僕は特に、大したきっかけはないです(笑)
高校2年生の春に、仲の良い友人から「美術予備校の体験入学に一緒に行かない?1人で行くのは恥ずかしいから一緒に行ってほしい!」って誘われてしまって、ついて行ってみたんですね。

そしたら、机の上にバナナが置いてあって、それをデッサンしてくださいって言われたんです。デッサンなんてしたことなかったのに、講師にすごく褒められてしまい。最後には、その講師から「この予備校に入りなよ〜」と誘われて、まんまと予備校に入りました。

多摩美の学生が集う学食。実はvol.1の吉岡くんと一緒にお話を聞いた今回のインタビュー。二人はこの日が初対面。

それで、まず週1くらいで通うことになって、何枚か絵を描いているうちに、周りから「美大」っていう言葉が出てきて、え?と思って聞いてみたら、初めて、ここが美大を目指す人が通う予備校だって教えてもらったんです。

美術予備校だと知らなかったと(笑)

はい(笑)
まあ、昔から図工や美術は好きだったので、その予備校に通うことになったんです。高校3年生になって、受験する学科を決める頃は、映像がやりたいなぁと思っていたので、それを予備校の講師に伝えたら、グラフィックデザイン学科か情報デザイン学科のどちらかだと言われて、両方受けました。グラフィックデザイン学科は落ちてしまったので、情報デザイン学科に入学しました。

現役で美大に入って、どうでした?

学部の時は、能動的に動くのが苦手な学生でした。学部時代の課題は、ある程度テーマと課題性があってそれに沿って進めていくけれど、重要なのって、その中で「自分の作りたいものや面白いもの」を見つけるかなんです。僕はそれが苦手で、欠けているなぁと感じていました。

例えば、多摩美の地図を作りなさいという課題が出ても、自分は忠実に真面目に地図を作っちゃう。それはそれで評価してもらえますが、周りの同級生は「こんなこと考えて作ったの!?」と思うような地図を作っているんです。

江戸時代の巻物みたいな地図や、ゴミ箱だけにフォーカスした地図とか、そういった作品を見て、課題に対してそのまま打ち返すだけではダメだなぁーって感じました。もっと面白さとか、自分がしたい表現をして良いんだというのに気づきました。

課題に対して良いお返事・正当な答えみたいなものは提出できるけど、オリジナリティや面白さを上手く作れなかったんです。だから、そういった部分をもっと強化したいなぁと思って大学院に進みました。

オリジナリティを追求しに、大学院へ進んだんですね。
学部の頃にもっとこんなことしておけば良かったと思うことってありましたか?

PBL(産学協同課題)を取っておけば良かったかなぁって思いますね。実際の企業とコラボレーションできるので、普段は得られない社会の反応やフィードバックが得られますし。
それに、この授業は色んな学科から人が集まっているので、交流のきっかけになって、色々な学生の表現や発想を見られるので、その面でも良い授業だと感じます。

社会に出て、自分の実力がどこまで通用するのか見極めたい。

大学院もそろそろ終盤ですが、どんなことを考えていますか?

早く社会に出たいなと考えています。大学に6年間もいるから、この環境に少し、飽きてきてしまって…。1回社会に出て、自分に身についているスキルや、不足している部分を見極めなきゃいけないなぁと思っています。あと、ちょっと焦りも感じています。大学というぬるま湯に浸りすぎている気がしていて(笑)

大学から出て、早く社会を見てみたいんですね。

はい。でも、修士2年間やってきたので大学で美術を研究することに関しての楽しさも分かるし、今までやってきた自信を持っています。なので、もしかしたら、また大学に戻ってくるかもしれないけれど、早く社会に出てみたいなぁと、そんな感じはしています。あと、単純に自分の作ったものや働いた仕事で、きちんとお金を稼ぎたいですね。特定の企業や、具体的なイメージはないのですが、空間デザインに興味があり、卒業後は空間演出に従事したいなぁ、と漠然と考えています。制作対象に家具や椅子といったモチーフを選んでいるのも、元々はそういった考えが根底にあったからかもしれません。

坂本くんと吉岡くん。この日初めて会った二人だけど、なんだか仲良くなって帰っていきました。ほっこり。
イベントを創り上げていくリーダーシップと、プログラミングやデジタルツールを自由に使ってスマートに表現していく「今っぽさ」を兼ね備えた坂本くん。
個人の知見や発想力だけでなく、外から新しい知識や技術を効率的に取り入れてより良いものを速く生みだしていく思想は、まさに次世代を担っていく人たちのアート感覚だなぁと感心しました。ありがとうございました!

 

※「イマドキの美大生」では、インタビューを受けて下さる学生の方を募集しています。
自薦・他薦は問いません。美大でなくとも、デザイン領域を学ぶ学生さんであれば皆さん大歓迎です(生活デザイン学科とか情報デザイン学科とか、その他聞き返されるような不思議な名前の学科の生徒さんも!)。
お名前、ご年齢、学校学部学科名、連絡先、応募の動機を明記の上、こちらからお問い合わせください。

坂本千彰

多摩美術大学 美術研究科博士前期課程2年 デザイン専攻情報デザイン領域メディアデザイン研究グループ所属。 高校2年生の時に美術予備校に入り、情報デザイン学科を受験し入学。福岡から上京。卒業制作では椅子を用いたインタラクティブアートを制作、多摩美の優秀作品に選ばれた。2015年に学部を卒業し大学院に入学。現在はパラメトリックデザインについて研究しており、プログラミングを用いて椅子のジェネレーターを制作している。http://www.idd.tamabi.ac.jp/design/graduate/

この記事を読んだ方にオススメ