クリエイティブスタジオWhateverが自社プロジェクトにこだわるのはなぜか

Feb 02,2024report

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Feb02,2024

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クリエイティブスタジオWhateverが 自社プロジェクトにこだわるのはなぜか

文:
TD編集部 出雲井 亨

2023年11月10日に東京・虎ノ門で「design surf seminar 2023 – デザインの向こう側にあるもの – 」が開催された。この中から、幅広い分野で作品を生み出し続けるクリエイティブスタジオ・Whatever(ワットエバー)の川村真司氏のセッション「見たことないアイデアを実現するためのプロセスとカルチャー」をレポート。後日実施したインタビューや、編集長が訪れた「老いパーク(日本科学未来館)」の様子も交えてお届けする。

TOP写真:Whatever提供

誰も見たことがないものをつくれる秘密は自社プロジェクトにあった

クリエイティブスタジオ、Whatever。「なんでも考え、なんでも作る」 をキャッチフレーズに様々な作品を生み出す彼らは、クライアント案件ではない「自社プロジェクト」にも力を入れている。アプリ「らくがきAR」や曲の歌詞がモーショングラフィックで映し出される「Lyric Speaker」、木彫りの人形によるストップモーション時代劇『HIDARI』など、たくさんの作品を手がけてきた。
「design surf seminar 2023」では、そんなWhateverの CCO(チーフクリエイティブオフィサー)川村真司氏が「見たことないアイデアを実現するためのプロセスとカルチャー」と題したセッションを実施した。

撮影:TD編集部
以下スライドは登壇時の資料より抜粋

セッション冒頭で川村氏は、Whateverを「誰も見たことがないけれど誰もが心動かされるような新しいアイデアを考え、それを一番美しいカタチで実現していくために生まれたクリエイティブスタジオ」と紹介した。

Whateverという社名は戦略策定から企画立案や実際の制作まで、文字通り「なんでも」手がけることから名付けたそう。「なんでも」つくる理由は、社会課題やクライアントの抱える課題が多様化・細分化する中、最適なアイデアを考え最適な形で解決するためには「なんでもつくれる」ことが大切だと信じているからだ。

プロジェクトの内訳を見ると、実に多種多様。20種類近いジャンルのプロジェクトを手がけている。しかし「課題を解決する」プロセスは同じとのこと。

そんなWhateverが意識的に分けているのが、受託プロジェクトと自社プロジェクトだ。そして、この自社プロジェクトの存在こそが「見たことのないアイデアを実現するプロセスとカルチャー」を育む上で最も重要だというのだ。

見たことのない表現は、待っているだけじゃ作れない

川村氏は自社プロジェクトに力を入れる4つの理由を紹介した。

1つ目は「見たことがない表現は、待ってるだけじゃ作れない」から。Whateverが目指すのは、世の中に新しい価値や新しい世界の見方を提示すること。しかしクライアントワークでは予算やブランドのトーン&マナー、ターゲットなどの制約がある。「共感」の方が大切なため、むしろ「見たことがないもの」が求められていないことも多いという。

2つ目は「課題を見つける力を養う」ため。クライアントの課題を解決するだけでは「課題を見つけるスキル」は磨けない一方、近年はクライアントワークにおいても課題そのものから考えるプロジェクトも多く、そのためにも課題を見つける力は常に磨き続ける必要がある。

3つ目は「新たな領域における企画開発の実験と実践」のため。経験がないことをいきなりクライアントワークで実施するのはリスクが高いといえる。しかし自社プロジェクトとして経験しておけば、今後のクライアントワークにも生かすことが可能になる。失敗しても大丈夫な環境でチャレンジできるのが自社プロジェクトならではのメリットなのだ。

そして4つ目は「受注型ビジネスではなく自社IPで生計を立てることを目指している」から。純粋に新しい、面白いと思うプロジェクトによって会社を支えられるようになれば、より自由に新しい表現に挑戦できる。

尾田栄一郎氏を始めとした漫画家や絵師たちが拡散したことで、世界中で話題になった「らくがきAR」

自社プロジェクトを根付かせるための企業文化とは

自社プロジェクトを生み出し続けるためにはどのような企業文化やチーム体制が必要なのだろう。参加者のそんな問いに応えるように、川村氏は続ける。

1つ目は「良いアイデアさえあれば参加できる」体制とすること。アイデアを出すだけでも参加できるようにして、ハードルを下げているという。また、最初のアイデアが最も重要だと信じているからこそ、そのアイデアを出した人を評価するために全てのプロジェクトでスタッフクレジットに「idea」という項目を設定しているとのこと。

2つ目は「アイデアをすぐに形にできるチーム」を用意すること。デザイナー、エンジニアなど幅広いスキルを持った人を集め、プロトタイプをつくれる体制を準備している。まず形にしてみることで、本格的な開発に進むか中止するかの判断も迅速にできるという。

3つ目は「常に1つは自社プロジェクトが動いている状態を保つ」こと。自社プロジェクトでは失敗を恐れずに挑戦することが大切。だからこそ「特別な機会ではなくあたりまえの機会と思ってほしい」と川村氏。そのために、定期的にアイデアを募集するなどの工夫を通じ、自社プロジェクトが途切れないようにしているそうだ。

そして4つ目のポイントは「クラウドファンディングなどの手段も活用する」こと。自社プロジェクトでは、売り上げが約束されていないため、多額の予算はかけにくい状況に直面する。自社だけで資金をまかなえない場合はコミュニティを巻き込んでプロジェクトを進めることもあるという。川村氏は個人プロジェクトも含めてこれまでに10回ほどクラウドファンディングを実施し、いずれも成功したという。

アイデアを実現することへの執念

実は筆者は川村氏とは20年来の付き合いで、彼がクリエイターとして有名になる前から、そのクリエイティブを見てきた。当時から川村氏が飛び抜けていたのは「アイデアを実現することへの執念」だ。セッションの中で川村氏自身も口にしたとおり「アイデアは誰でも出せる」が、多くの人はいいアイデアを思いついても実行に移すことはなく、そのうち忘れてしまう。だが川村氏は違った。いいアイデアを思いついたらすぐに実現に向けて動き、ときには(それなりの額の)自腹を切ってでも形にする。それがTシャツやフリップブックのときもあれば、ミュージックビデオやWebサイトのこともある。社会人になってからも仕事の傍ら個人プロジェクトを続け、フリップブック「RAINBOW IN YOUR HAND」や、世界的に評価されたミュージックビデオ「日々の音色」「映し鏡」など数多くの作品を送り出した。

そんな川村氏のクリエイティブに対する考え方を、そのまま組織化することに成功したのがWhateverという会社だ。誰に頼まれるわけでもなく、締切があるわけでもない自社プロジェクトを続けるのは容易ではないはずだ。忙しくなれば、つい後回しにしたくなるだろう。経営面を考えれば、(成功するまでは)1円も売上を生まず、資金を使い続ける自社プロジェクトを常に動かすには、それなりの覚悟が必要だろう。それでも、アイデアは「実現すること」こそが大事なのだと信じ、組織にカルチャーとして根付かせるまで続けてきたからこそ、Whateverは「見たことがないもの」を生み出すことができるのだろう。
次ページでは、川村氏へ後日行ったインタビューと、彼らが手がけた最新のプロジェクト「老いパーク」を紹介する。

インタビュー:究極の理想は「放っておいても何か面白いものを生み出せる会社」

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