【連載】アクシスと考えるこれからのデザイン(後編)どこからどこまでが「デザイン」なのか?

Feb 22,2019interview

#AXIS

Feb22,2019

interview

【連載】アクシスと考えるこれからのデザイン(後編) どこからどこまでが「デザイン」なのか?

文:
TD編集部 藤生 新

連載でお届けしている、デザイン誌『AXIS』編集長インタビュー。後編は前編集長・石橋勝利(いしばし・かつとし)さん。20年間務めた編集長時代、大切にしていたことを聞きながら「デザイン」という言葉をめぐる石橋さんの思いにフォーカスしました。

(前回の記事はこちら)(前編) 編集長が語るデザイン誌『AXIS』のいま

「情報」としてではく、多様な「切り口」でデザインを語る

長い期間、編集長を務められましたよね。

石橋:20年間務めていました。長すぎますね(笑)。

編集長をやめられて寂しさはないですか? 

全くないです(笑)。

石橋さん時代の「表紙インタビューシリーズ」は長く続いていたので、なくなってしまって寂しいよねという人もいると思うんです。

そういったお声をいただくのは嬉しいのですが、デザイン関係の方が多いかもしれません。表紙に登場いただきたかったけれど、タイミングが合わなかったという方も大勢いらっしゃいます。
昔、母に「あんたの雑誌の表紙に出ている人は全然知らない」と言われたことがあって、いかにデザイナーの存在が一般に知られていないかを痛感しました。安藤忠雄さんと三宅一生さんは知っていましたけど(笑)。
最近はプロフェッショナルを紹介するテレビ番組などもあって、多くのデザイナーの方々が紹介されて、状況は変わってきているとは思いますが。

石橋氏が編集長として手がけていた頃のデザイン誌『AXIS』。表紙インタビューシリーズは文字通り、同誌の「顔」だった。
『AXIS』で情報を発信するときには、どんなことを大切にしていましたか?

当初は、他にない情報をいかに見つけるかばかりを考えていたんです。未発表のモデルにこだわったプロトタイプ特集などはまさにそれです。いくら最新のモノや空間、建築であっても、公に発表された後、そのまま取り上げることに、あまり意味を感じていませんでした。すでに出回っている情報を、週刊誌でもない隔月刊の『AXIS』がそのまま紹介して、どうするんだと。

ただ、インターネットが普及して、本当の意味での一次情報を取り上げることが難しくなってきました。そこで、今までにない切り口でデザインを語るということで、どんどんデザインを広義に捉えていったといえるかもしれません。

「デザインの概念」を拡げていくこと

編集長時代、石橋さんにとって「デザイン」とはどんなものだったのでしょうか?

言い古されたことではありますが、かつての「デザイン」は色や形として捉えられていたと思います。私としては「デザイン」はもっと広い分野に関われる概念だと思っていたので、誌面でもそういった広いテーマをどんどん取り上げていきました。
たとえば「ブランディング」も、企業内ではデザインだとはあまり認識されていなかったわけですが、それがいかにデザインであるかを発信してきましたし、社会的な問題の探求、それこそソリューションもデザインだと思い発信してきました。

かなり幅広いですね。

広げすぎたかもしれません。「デザイン」は難しい。
今はもう、なんでもがデザインです。
たとえばヘアデザインとかツアーデザインとか、「それはただのツアーの計画なのでは?」ということもデザインとされるようになってしまった(笑)。

正直に言うと「ほかでやっていることはやりたくなかった」という気持ちが大きかったのかもしれません。我々がほかの雑誌と同じように最新のインテリアやプロダクト、トレンドを紹介するだけでは意味がないので、より新しい事象や提案を常に探していました。だから「これはデザインではない」というよりも、「これもデザインである」という思考で常に取り上げることを探していました。

新しいことに取り組んでいく中で周りから抵抗されることはありましたか?

「なぜそれを取り上げるの?」と言われることはありました。たとえば今では「防災とデザイン」と言っても別に普通だと思いますが、かつては「防災」を特集で取り上げたときに読者から「どこがデザインなの?」と言われたこともありました。

ほかには、たとえば町おこしやシャッター商店街の問題。今ならデザインの側面からそうした課題にアプローチするのは普通ですが、その取材のために自治体に行くと、「デザインって何?」とまず聞かれて。
我々が考えるデザインについて、いちから説明したりしていました。そうやって、取材対象と一緒にデザインの概念を広げてきたところはありますね。

デザインという概念を広く捉え、提案してきた石橋氏。常に「これもデザインである」という思考で考えていたという。
20年間続いた表紙インタビューシリーズもそれと呼応していたんでしょうか。

多くのデザイナーや建築家の方々に登場いただきましたが、デザイナーと呼ばれる方だけではなくて、テクノロジーやビジネス、社会問題など、多様な分野の方々に登場いただきました。彼らの取り組みこそ「デザイン」であると思ったからです。
たとえばバルミューダの寺尾 玄(てらお・げん)さんは、ご本人は「デザイナーです」とはおっしゃらないかもしれませんが、私たちは寺尾さんは間違いなくデザイナーだと思っています。

本人は「デザイナー」とは名乗っていないけれど、デザイナーと同じように考え、価値を生み出している人は世の中にたくさんいると思うので、そういう人をもっと紹介したいという思いはありましたね。

だから、デザインのヒントになる創造活動に従事する人も数多く紹介してきました。アーティストはもちろん、シェフや劇作家、映画監督など、新しいものを創ろうとしている人から勇気やヒントがもらえるんじゃないかと。

成果物ではなく、デザイナーが関わっていく可能性のあるものを
 

 

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