【編集部トーク】「デザイン誌」を考える(後編)「寄り道」としての雑誌のあり方

Mar 08,2019report

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Mar08,2019

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【編集部トーク】「デザイン誌」を考える(後編) 「寄り道」としての雑誌のあり方

文:
TD編集部

編集部トークの後編をお届けします。『AXIS』取材で感じた素朴な印象から、アリ編集長、エディターのマーサ、ライターのフジューの3名が「これからのデザイン誌」について語り合います。

(前回の記事)(前編)社会の中での役割、時代としての役割

「『AXIS』ならではの面白さ」はどこに向かうんだろう

アリ編集長:前編では最近のデザイン誌の役割について話しましたが、実際に取材に行った2人は『AXIS』という雑誌に対してどんな印象を持ちましたか?

フジュー:長年続いていた「表紙インタビューシリーズ」を刷新して、表紙のインパクトから特集の内容に軸足を移しつつあるというお話をうかがいました。その背景には、雑誌単体の問題というよりも大きな時代の変化があって、かつてみたいに分かりやすい「ミッション」を立てることが難しくなっているのかなという印象を受けましたね。

マーサ:ああ、たしかに。

フジュー:表紙インタビューシリーズでは、その時代を代表するスターを取り上げて「いまはこういう時代だ」と定義するような作業を行っていたと思います。でも、いまはそれが難しくなっていると思うんですよね。
だから雑誌のあり方も、かつてのような「ランドマーク」ではなくなっているような気がします。じゃあどうするか? という問いの中で、『AXIS』は雑誌としての役割を「特集づくり」に求めているのかなと理解しました。

座談会終了後になんとアリ編集長の自宅に保管されていた『AXIS』創刊号を入手。石橋編集長の「表紙インタビューシリーズ」が始まる前のもの。最新号(198号)と一緒に。
 

アリ編集長:その問題は単に表紙のデザインだけにとどまるものじゃなさそうだね。「これからの『AXIS』ならではの面白さ」がどこに向かうのかとも連動しているように思う。
でもそうすると、デザイン誌だけではなく、テクノロジーを多く扱う『WIRED』とかも『AXIS』の競合相手になってくるのではないかとも思うし……それらの他誌との違いを、どんな風に見せてくれるのか楽しみだね。

前回も話したけど、デザイン誌の役割が時代とともに変わってきているのは間違いない。そんな時代の変化の中で改めて独自の立ち位置を見出していくことって、雑誌編集者にとってはすごく難しいだろうなとは思います。
だから次の世代にバトンタッチすることで刷新していきたいという想いには、同世代としてすごく共感できるなぁ。

フジュー:同じデザインの領域でも、グラフィックデザインだとすでに『アイデア』がありますね。

アリ編集長:うん、グラフィックと言えば『アイデア』。テクノロジーと言えば『WIRED』。そんな中で『AXIS』はどこに軸をおくんだろう。

フジュー:なるほど。

アリ編集長:だからもう「勝手に特集予想!」とかしても面白いかもしれない。これから3号以内にloT特集が来る! とか。

フジュー:それ、相当嫌われちゃうやつですよ……。

いまの時代の「新しさ」とは何か?

マーサ:記事を担当したフジューさん、公開を終えて今、思うことを。

フジュー:前編集長の石橋勝利さんが、何度か「新しいことの素晴らしさ」についてお話しされていたことが気になっているかな。

アリ編集長:というと?

フジュー:何度か違う話題の中でそのことに触れていた気がしたので。石橋さんのそのお話から、いま雑誌を通して「新しいこと」を発信することの難しさを個人的に感じたんですよね。

アリ編集長:なるほど。

フジュー:一言で「新しい」と言ってもいろいろあるじゃないですか。かつては「こんな新人が出てきた」とか「こんな新技術が出てきた」とかいうことを紹介する役割があって、その作業が「デザインの歴史を前に進めること」だったと思うんです。でもいまは「新しいもの」と「古いもの」の違いがとても曖昧になってきているのを感じています。

アリ編集長:分かる。

フジュー:見た目にはそんなに新しそうじゃないことが、実はすごく新しい考え方のもと行われていたり、見た目には斬新なんだけど、中身は古いままのものだったりすることもあると思うんですよね。

マーサ:でも、新しいことに対する貪欲さはきっとまだ『AXIS』に残っていると思うんですよね。町づくりとか、防災、企業や大学の研究開発の現場にデザインを見出したみたいに、「デザイン」という概念を拡張してきたことは間違いなく彼らの功績でしょ。
けどもしかしたら、石橋さんとアリ編集長がサシで飲んだら……。完全に私の妄想ですが、「実は落合陽一とか大嫌いだったんだよね」みたいな話になったら面白いなと思うんですけど(笑)。

アリ編集長:なんでいつも俺が飲み担当なの(笑)。

コンテンツ単位の読者、メディア単位の読者

マーサ:雑誌を取り巻く環境が変化していることは言うまでもないことだけど……いま、デザイン誌の読者が求めているものって何なのでしょうね。

フジュー:「読者の顔が見えづらい」ということは、ぼくも記事を書いている中で感じるときがあります。

アリ編集長:そうなの?

フジュー:SNSの普及もあって、いまはひとつの「大きなメディア」がみんなに同じ情報を届けるというよりも、たくさんの「小さなメディア」がみんなに違う情報を届けているじゃないですか。
それって違う言い方にすれば、「この記事はバズるな」みたいに「コンテンツ単位」で読者の顔がイメージできても、「この雑誌はバズるな」みたいに「メディア単位」で(まとまった規模の)読者の顔がイメージできないという話でもあるんですよね。

アリ編集長:それは本当にありますね。

フジュー:いま「雑誌」という単位でフォローしてくれる読者ってすごく減っている気がするんですよね。
たとえば「IoTとデザイン特集」があったとするじゃないですか。それで興味を持って読んでみると、一部の記事は面白かったとしても、特集全体では案外興味が湧かない記事も多かったりすると思うんですよ。だから、雑誌に関してはみんなつい「つまみ食い」しちゃうはずなんですよね。

アリ編集長:そうすると、編集者としてはどうしたらいいんだろう?

フジュー:ぼくもメディアに関わっている中で、コンテンツ単位では具体的なことを考えられても、メディア単位ではイメージがぼやけてしまうときがあります。けど、それに対して「特集」という単位はコンテンツとメディアの中間にある単位なような気がするんですよね。

アリ編集長:それ、次のテーマになるかもね。

フジュー:「特集」の特集ですね(笑)。

「寄り道」としての雑誌

マーサ:アリ編集長に聞きたいんですけど、私にとって『AXIS』って実はまだ、どこか遠くて難しい存在に感じてしまうんです。昔の『AXIS』ってどんな風に見えましたか? デザインがまだまだ身近ではなかった時代にも、みんな「面白い」という印象を持ったのかな。

アリ編集長:どうだろう。少なくとも『AXIS』が面白いと思えることがステータスだ、みたいな空気があったことは記憶している。
当時『アイデア』は隔月刊だったかな? 『AXIS』は季刊だったんじゃないかな。だから書店で『アイデア』を毎号買っていて……たまに『AXIS』を見かけると「お、ハイソな『AXIS』だ!」と少し興奮して(笑)。

ジョギング的な感覚で『アイデア』は毎号購読して、トレーニングを終えてレースに出るときには『AXIS』を買うみたいなイメージだったかな。僕自身、若い頃にはプロダクトデザインにあまり興味がなかったということもあるかもしれないけど。

フジュー:なんか分かる気がします(笑)。

創刊当時(1981年)の編集長・浜野安宏氏の前書きは、今読んでもグッとくる。これ読みながらもう一度編集部トークやりたい……。(マーサ)

アリ編集長:デザイン関係の論文を読む代わりに『AXIS』を読む、くらいの感覚だったんですよ。
あとこれは僕の個人的な意見なんですけど、この国のデザインの雑多さや多様性を世界に発信していたのは、やっぱり『AXIS』じゃなくて『アイデア』かなというイメージがあります。

フジュー:どんな場面でそう感じますか?

アリ編集長:例えば、海外の書店や古本屋や大学で輸入雑誌のコーナーを見に行くと、結構な確率で『アイデア』のバックナンバーを見かけるんですよ。だからかもしれないけど、海外の友人に「日本のデザイン誌で知っているのは?」と聞くと『アイデア』という答えがかえってくることが多い。
あとは『アイデア』は雑食的で「雑然感」が『AXIS』よりも強くって、なんかこう、日本の雑誌っぽい空気があるような印象も受けるんですよね。だから、デザインの雑多さや多様性を伝えているな、と。

マーサ:なるほど。ところで、アリ編集長はインタビューの中でどんなことが一番印象に残りましたか?

アリ編集長:僕は断然、「効率と遊び」の話題でした。最終的にアップした原稿には盛り込めなかったんですけど、現編集長の上條昌宏さんが「美大出身か否かにかかわらず、若い時にどれだけ道草しているかが大事」というお話をしていたんですよ。

フジュー:ありましたね。

アリ編集長:たとえば、山登りで一番下から上まで最短ルートで登る人もいれば、迂回して登る人もいる。でも山頂まで登った時の話をするときに盛り上がるのは「いかにタイムを縮めたか」という話だけじゃなくて、むしろ回り道をした人の話の方かもしれない、と。
僕はこのお話にすごく共感していて……、「寄り道してたらクマと遭遇しちゃった(笑)」みたいな話が一番面白いと思うんですよね。

フジュー:分かります。

アリ編集長:「美大の学生やデザイン関係者だけではなく、デザインに少しでも関心のある全ての人に『寄り道』として読んでもらえると嬉しい」と現役の編集長が話していたのがすごく嬉しかったんだよね。すごくロマンチックな話じゃない?
これは個人的な考えなんだけど、「仕事がロマンチックじゃなくなったら辞めろ」といつも言っているんです。それもこの話と共通していて、「効率」ばかり追求しているとすぐに限界くるぞ、きちんと「遊び」を大切にしろという話なんですけど。

マーサ:なんてアツいんだ。

アリ編集長:ロマンチックって、ふわふわした言葉じゃないですか。まぁロマンチックって言葉が正しいかわからないけど、でもロマンチックなことが見つけられない仕事ほど辛いものはないと本気で思うんです。だから「寄り道」じゃないけど、雑誌をつくる上でもそういう「遊び」的な部分をどうつくれるかがこれから大切になってくるのかなと思いますね。

……

アリ編集長からアツいひとことをいただいたところで編集部トークはおひらきに。

最後に、AXIS創刊号の浜野・初代編集長の言葉を借りましょう。

モダン・デザインからポスト・モダンへ。新しいデザインの時代が予感され、模索され、まじめな試行錯誤が始まっています。
アクシスは完成されたものではなく、新しい提案、実験、そして新しい価値で再発見できるものなど、ダイナミックに成熟をいそいでいるデザイン的世界の胎動を覚醒した目で正直にみすえてゆきたいと思っています。
デザインの到達点は作品ではないと思います。だから本誌ではデザインの成果物である商品を取材するだけでなく、新しいうごめきに注目し、提案してゆくことを心がけています。

デザイン誌『アクシス』創刊号(1981.9)より

日頃デザイン誌に触れている人も、遠い存在に感じている人も、よかったら書店でデザイン誌を改めて手にとってみてください。先人たちが切り拓いてきた広大な「デザイン」の世界は、ところどころ整備されながら進化と拡張を続けています。

編集部トークでも様々なデザイン誌が話題に出ました。TDではこれを機に、今後も「デザイン誌が見つめるデザイン」について考えていく予定です。
私たちとおしゃべりしてくれる編集部のみなさん、どうぞご連絡ください。

 

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