子どもたちを取り巻くデザイン vol.1遊具デザイナーと考える、遊びとデザインの関係性

Aug 21,2020interview

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Aug21,2020

interview

子どもたちを取り巻くデザイン vol.1 遊具デザイナーと考える、遊びとデザインの関係性

文:
TD編集部 青柳 真紗美

保育や教育の現場でデザインについて語られることが増えてきた。子どもたちをとりまくデザインにかかわり、フロントラインで奮闘する人々にインタビューしていく。第一弾は、全国の幼稚園や保育園、商業施設のキッズスペースなどで使用される遊具や保育用品を取り扱う株式会社ジャクエツのインハウスデザイナー、赤木あずささんだ。同社の「プレイデザインラボ」の立ち上げにもたずさわり、数多くの新しい遊具を開発してきた彼女に、子どもの遊びにおけるデザインの役割について聞いた。

※製品画像はすべて、株式会社ジャクエツ提供

多角形パーツが遊びの幅を広げる

わぁ……これは、なんですか? ジャングルジム?

赤木:あえていうなら、そうですね。でも、ジャングルジムをつくったつもりはないんです。今までにないものを作ろうと考えていく中で、この形になりました。縦にも横にも使えるパーツを結合させて使う遊具です。
一般的なジャングルジムでは「隠れる」という遊びはできませんが、面部分を用意したことで視覚的な変化が生じ、ちょっとした空間が生まれています。実際には小さな穴がたくさんあいていて外からは丸見えなんですけど、この穴にも光や影を生み出す効果があって、子どもたちの気づきにつながるといいなと。
他にも鉄棒のようにも使える長いパーツなどもあり、園のスペースや遊ぶ子ども達の年齢によって様々な形に拡張していくことができます。

2018年販売開始、2019年キッズデザイン賞受賞の『ハニカムジム』。
分解して搬入し、室内でも組み立てられるのが特徴。
どうしてジョイント式なんですか?

狭い施設にも搬入しやすく使ってもらいやすいものを、という発想で生まれたからです。私は入社以来、「鉄担当」として比較的大きめの遊具のデザインを手がけてきました。ジャクエツでは、デザイナーはデザインをつくって終わりではなく、営業に同行する機会が多いんです。実際に設置したところを見てもらうために、現物をトラックで運び込むこともしばしば。
ただでさえ首都圏には小規模な施設が多く、遊具の選択にも制限が生まれてしまいがち。道路に関しても同じで、2トントラックがギリギリ入るか入らないか、というような狭い道に面した施設もたくさんあります。そうした施設への搬入をお手伝いする中で、私自身も「これは厳しそうだな……」と感じる場面が少なくありませんでした。他にも、展示会などでお客様とお話しする中で「うちの園は狭いから……」という声も聞こえてきて。
でも、スペースが小さかったり、道路が狭かったりすることによって、子どもたちの遊びに制約が生まれてしまうのはもったいない。そんな想いから構想を膨らませました。

「鉄担当」。赤木さんは鉄製の遊具を多く手掛けているんですね。

全く意図していなかったんですが、入社後に最初に手がけたのが『SANGO(サンゴ)』で。それがありがたいことにたくさんの場所で受け入れていただいて……今、200箇所くらいで使われているのかなぁ。そこから鉄をメインに考える事が多くなりましたね(笑)。

赤木さんが入社して最初に手がけた『SANGO』。木登りができるジャングルジムとして話題になった。

でも、もともと美大の大学院では鉄の溶接ばかりしていたので、鉄に関する知識はあって。私がデザインした製品を見た、かつての指導教授にも「この製品は君が溶接したのか」と言われたくらいです。

赤木さんは東京藝術大学の大学院で学ばれていたとのこと。何を研究していたんですか?

機能・設計研究室で「線と人の関わり」を研究テーマとしていました。実際には、先ほどお話ししたように溶接をしつづけた日々だったんですが(笑)。

私、自分より大きなものを作るのが好きなんですよね。手のひらサイズのものよりも、空間そのものをデザインすることに喜びを感じるんです。就職活動をする中で「子どもの経験に関われる仕事をしたい」と気づいてジャクエツに入社したんですが、こんなにずっと鉄と付き合うことになるとは思ってもみなかったですね。

自社商品の新作づくり

遊具の「新作」はどのようにして生まれるのでしょう。

プロジェクトのはじまりは製品によって違いますが、大きく分けて2パターン。一つは自社商品で、もう一つは外部のデザイナーさんとの共同企画です。

自社商品の場合は、規格品を改良するパターンもありますし、営業から相談を受けて企画を考えることも。
まったくのゼロから遊具のアイデアを考え、提案を出すこともあります。月に1回程度、企画を持ち寄る場が設けられていて、そこで「良さそうだね」となったものは次のプロセスに進みます。

私の場合、最初はデザインスケッチを描きます。そこから模型やクレイモデルをつくったりしながら3Dに落とし込んでいくことが多いですが、「とりあえず作ってみよう」と、自社工場で試作品を作ってみることもあります。

デザインスケッチから製品化までは、どのくらいのスピードで進むんですか?

プロダクトによって違うので一概には言えません。『SANGO』は早い段階で試作品を作り、改良して3〜4ヶ月で製品化しました。逆に『ハニカムジム』は構想期間が長くて、アイデアスケッチから製品化までに1年半ほどかかっています。使用する技術や素材、検証内容によっては1年以上かかるものもたくさんあります。

細かい話ですが、色はどんな風に決めるのですか?

営業などとも相談しますが、青や赤など、使用する素材の規格色の中から選びます。できるだけリーズナブルな価格で提供したいですからね。ただ、お客様からの要望でカスタマイズすることもあります。園のカラーに合わせたい、とか。

デザインの発想はどのように生まれてきますか。

自分の体験をもとに考えることが多いです。いろんな体験を「自分ゴト」化していくなかでデザインのアイデアが生まれるんですよね。
幼少期を振り返ったり、自分自身が出産したことで気づいた世界もあったり。
あとは、身の回りのモノを見つめて、これで遊べたら楽しいだろうな、と発想することもあります。たとえば『KUMO(クモ)』は、「ザルの上で遊んだら楽しいんじゃないか」というひらめきから生まれました。

“足”をしっかり使って遊んでもらうことをコンセプトとした鉄製遊具『KUMO』。

外部デザイナーとの共同企画

外部デザイナーとの共同企画の時には、どういった仕事内容になるんですか。

設計士としての立場での関わりかたが、より強くなります。
ジャクエツでは「子どもたちが『本物』に触れる機会を増やしたい」という想いから、外部の著名なデザイナーさんとの企画を多く手がけています。通常、遊具に関する専門性は私たちの方が持っているので、彼らのデザインコンセプトをどう表現していくか、どうモノに落とし込むかを一緒に考えていきます。
見て楽しむためのアート作品と違い、遊具として使う際には安全面や製造面を考慮する必要が出てきます。子どもたちが楽しく遊べて、かつ高い安全性とデザイン性を両立することは遊具をデザインする上で最も難しく最も重要な点だと思います。

たとえば「スタートとゴールが一目でわからない形状の伝声管を作りたい」という提案を実現させるために、数十種類のパーツの図面を描き、どの順番でどのように溶接すれば安全性が担保できるかを製造側と検討していく、というプロセスがあったり。

富山県美術館の『オノマトペの屋上』に設置された『ひそひそ』。
グラフィックデザイナーの佐藤卓氏がデザインした。
数十枚の図面に溶接手順の指示ですか……! デザイナーがそこまで設計にかかわるというのはあまり聞いたことがないです。

もともと「デザイン」というよりは「設計」という色の強い仕事ですからね。昔は、社内に「デザイナー」という職種もなく、「設計士」でした。入社後の基礎研修も図面の制作から入りますし。
私は美大出身だったので、現在デザイン的な要素の強い仕事をしていますが、それでもベースは設計です。同じチームには20名ほど在籍していますが、設計側の仕事を中心に受け持つメンバーも半数近くいます。

遊具にデザインは必要か?

子どもたちには、何もない場所でも遊びを生み出す力があると思います。遊具にデザインは必要なのでしょうか?

極論を言えば、子どもたちは遊具がなくても遊ぶことはできます。でも、遊具があることによって遊びに幅が生まれます。そしてデザインによって「行動が変わる」きっかけを生み出すことができるんです。

行動が変わる?

私がデザインするときに意識しているのは、まず直感的に「面白そう!」「あれは何だろう、触ってみたい!」「遊んでみたい!」と思わせること。
子どもたちは、大人が「これで何するの?」と思うようなもののなかにも遊びの要素を見つけ出すことができます。その要素を取り出して、さりげなく提供するのがデザインの役割。例えば、柵を木の棒でひたすらカンカン鳴らしたりする子、いるじゃないですか。そういう部分をクローズアップして遊具の中に要素として取り入れるわけです。

デザインによって行動が変わるのは子どもだけじゃありません。大人の行動も変わる。これまでの遊具では、大人は見守ることしかできなかったのが、空間そのものをデザインすることで大人も一緒に遊びに巻き込めるようになるんです。

なるほど。私、実は最近の新しい遊具の「おしゃれさ」「アートっぽさ」にちょっと反発してたんです。

「おしゃれ遊具」というのは大人がそう評価しているだけで、デザイナーはたぶん、「おしゃれな遊具をつくろう」というところをゴールとしているわけではないと思うんですよね。今までにないものを作ろうとした結果、そういうものができた、というプロセスなんじゃないかなぁ。

たしかに「あれが遊具?!」と思っている私自身が、デザインの力で惹きつけられているとも考えられますね……。

外部デザイナーさんが手がけた遊具を販売すると、反響がたくさんあるんです。でも、保育園や幼稚園の先生たちは「著名なデザイナーが手がけた」ということにはあんまり興味がないんですよ。どちらかというとデザインやデザイナー界隈の事情には疎い人が多くて、私たちデザイナーからみると有名な方でも、どんな人かを知らずに購入していることも多い。
そうした前提知識なく、「なんかこれ、きれい」「子どもたちが喜びそう」と思わせている。むしろそこにこそ、デザインの力を感じますね。

デザインの力で遊びを創発する

そうすると、赤木さんにとって、遊具における良いデザインとは?

遊びを創発できるデザイン、でしょうか。私は入社する前から「遊び=学び」だと思っていました。だから、遊びのヒントを与えられるものが良い遊具だと思っていて、デザインにはその幅を一気に広げることができる力があると考えています。

もともとそうした考えを持っていたのですか?

ある程度は。ただ、遊び方を押し付けてはいけないな、とハラオチしたのは『SANGO』で遊んでいる子どもたちを見たときですね。企画段階では、子どもたちが登ったり降りたりしながら活発に遊ぶことをイメージしていたんです。でも実際に置いてみたら、おしゃべり会の会場になっていた。
『SANGO』にはいくつも「枝」が生えているんですが、それが子どもたちのお尻のサイズにぴったりで。一人一人、自分の座りやすい枝を見つけてそこでリラックスしているんです。上の方の枝に座ると大人の視線の高さとちょうど同じくらいになるので、先生やおうちの人ともおしゃべりしやすい。全く想定していなかった「静の空間」がそこにあって驚きました。

冒頭で「ジャングルジムをつくったつもりはない、結果としてそうなっただけ」とお話しましたが、遊具って、大人が勝手に名前をつけてるんですよね。「すべりだい」も、すべるだけじゃない。絶対いるじゃないですか、下から登りたい子が(笑)。
でも、それで良いんですよ。こちらが教えるのではなく、子どもが自分たちで遊び方を考える、そのこと自体が大きな経験につながります。だから本当は、遊具に名前もつけたくないなぁと思っています。

編集後記

子どもたちにとって、良いデザインとはなんだろう。
良さの尺度はシーンによって異なるが、遊具に関して言えば「衝動をくすぐり、解放してくれるデザイン」であるかどうかが指標の一つになるかもしれない。

子どもたちは原始的な衝動を抱えて生きている。近づきたい、ずっと見ていたい、触ってみたい、中に入ってみたい、音を出してみたい。
でも大人たちは往々にして、そんな衝動を押さえつけてしまう。

危ないから。
汚いから。
時間がないから。
うるさいから。

大人が間違っていて子どもが正しい、と言いたいわけではない。けれど小さな衝動を押さえつけることなく、のびのびと解放できる場所があれば。子どもたちはそこで、五感を通じてたくさんのことを学ぶだろう。体をとおして身につけた学びは一生の宝物だ。遊具におけるデザインは、もしかしたらそんな宝物に導いてくれる「ガイド」の役割も果たしているのかもしれない、と今回のインタビューから感じた。

赤木さんは、ジャクエツ社の『プレイデザインラボ』の立ち上げにもたずさわっている。このラボは「『子どものあそび』の研究所」として、社内外のネットワークを駆使してデザイン・リレーション・リサーチの3つの軸で活動の幅を広げてきた。
そもそも同社は全国に4万ヶ所ある幼稚園・保育園・こども園の約70%との取引を持つ、保育用品・遊具のトップシェア企業だ。自社でもモデル園を運営しており、デザイナー自身も子どもたちが実際に遊んでいる様子を目にすることができる。独自の安全基準を設け、製品設計に子どもの安全に関する検証プロセスが組まれていることも、多数の外部機関から高い評価を受けている。
子どもたちの衝動をくすぐるデザイン性と、事故を未然に防ぐための安全性。この二つの両立のために繰り返されてきた創意工夫を考えると、遊具を違った視点で見つめることができそうだ。

筆者自身が親となったことで、気になり始めた「子どもたちを取り巻くデザイン」。
子育て家庭をターゲットとした便利グッズや、多機能なおもちゃはそこら中にあふれている。でも、ボタン一つで問題を解決する「機能」は効率を改善してくれるけれど、心を育ててはくれない。
一方で、デザインにはその可能性がある予感がする。子どもたちの心を豊かに育むデザインとはどういうものなのか、引き続き追いかけていきたい。

(了)

参考:株式会社ジャクエツ ウェブサイト

 

赤木あずさ(あかぎ・あずさ)

東京藝術大学デザイン科を2013年に卒業、2015年に同大学院修了。 同年、ジャクエツに入社し、プレイデザインラボの立ち上げに関わる。2016年に鉄製ジャングルジム「SANGO」を、2018年に同シリーズの続編として「KUMO」を開発し、それぞれがグッドデザイン賞、キッズデザイン賞を受賞。2019年に開発した鉄製遊具「ハニカムジム」がキッズデザイン賞を受賞。自らのデザインの他にも社外デザイナー案件も多く担当。 2020年6月に産休から復帰し、現在1児の母。

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