超小型EVコムスはデザイン・設計・営業が一体で生み出した「新しい乗り物」だった!

Nov 30,2018report

#COMS

Nov30,2018

report

超小型EVコムスはデザイン・設計・営業が 一体で生み出した「新しい乗り物」だった!

文:
TD編集部 出雲井 亨

トヨタ車体が手がける超小型EV、コムス。実際に乗ってみて、その予想外の快適さと爽快さ、そして楽しさにびっくりしたのは前回の「試乗レポ」でお伝えしたとおり。今回は、開発・営業チームへのインタビュー。ユーザーの声からデザイン秘話まで、「中の人」に語ってもらった。

街に溶け込むコムスのデザイン

個人向けのP・COMで87万9000円からという価格は、EVとしてはかなりがんばったのではないですか。

加藤:価格はお客様にも直接影響するところですので、我々も一番頭を悩ませている点ではあります。他社さんからも、その点は「どうやって実現してるんですか」なんて声をいただくこともあります。
電気自動車として見ていただけると、ご存知の方には「がんばってるね」と言っていただけるんですが、やっぱり一般の方からは「高すぎるよね」という声もあります。
軽自動車だと、エアコンやパワステがついてこの値段を下回ったりしますから。しかも軽自動車ならドアも付いていて、4人乗れる。

そこは使う用途にもよりますよね。

金高:はい。私もコムスを一台持っているんですが、通勤にはかなりいいですよ。若い頃はバイクに乗っていましたが、コムスなら屋根が付いていて雨に濡れませんし、維持費も安いです。
ちなみに、近所のホームセンターなんかにこれでいくと、50%の確率で話しかけられます(笑)。園芸コーナーあたりだと80%くらい。年配の方がじーっと見ていて、近づくと「これはなんだ?」と。

そんなとき、デザインについてどんな反応なんですか。

金高:年配のご夫婦だったりすると、奥様に「かわいいね」とおっしゃっていただくことが多いです。自分としては、そこだけを狙ったわけじゃないんですが(笑)。結果的に、全方位に敵を作らないデザインになっていることは、商品の狙いに近いものになったと思います。

佐野:確かに、女性受けはいいですね。セブンイレブンさん、ヤクルトさん、あと名古屋銀行さんでも主に女性にご使用いただいていますが、「かわいい」という印象から入るので皆さん抵抗なく乗っていただけています。

法人のお客様から聞いた話では、コムスに乗って街で信号待ちをしていると歩道を歩いている人から話しかけられることも多いようです。
それから、走っていると後ろからずっとクルマがついてきて、なんかイヤだなとコンビニの駐車場に入ったら、そのクルマも後に続いてきて「そのクルマはなんですか」と聞かれたり(笑)。そういったコミュニケーションが実際にビジネスにつながったケースもあるようです。

EV営業室長の佐野康弘氏
威圧感がないから、街に溶け込むんですね。

金高:実際、通勤で使っていても、(ドアをつけていないので)歩いている人の声が聞こえるんです。「乗り物」の感覚が変わります。そんな距離感だと、自然とやさしい運転になりますね。

加藤:EVですから、こちらも無音で近づくわけで、歩行者に気付かれないんですよね。そういう意味でも、慎重に運転するようになります。

地方自治体などでは観光用途にも使われていますね。

加藤:はい。例えば鳥取県の山陰海岸ジオパークエリアでは、非常にきれいな海岸線をコムスでドライブできる、ジオコムスというプロジェクトがあります。コムスで走るということ自体が非日常的な体験であり、観光の一部というコンセプトです。
このエリアには浦富海岸という場所があり、ここは『Free!』というアニメの聖地で、若い女性が一人で「巡礼」にいったりするんです。でも公共交通機関が少なく、アクセスしにくいため、聖地巡りにコムスを使っていただくこともあるようです。

観光でコムスに乗った方からは、どんな感想が寄せられていますか。

加藤:外国人の方も多いのですが、アンケートを見ると、すごく楽しかったという声がたくさん寄せられます。
電車やバスだと、どうしても車窓から見る風景になってしまいます。ところがコムスだと、風を感じ、光を感じ、匂いも感じられます。そして自分で運転しているから、好きなところで停まって、寄り道できます。そのあたりがとても好評です。

「ほんとにクルマなの!?」と驚くようなクルマが出てくると面白い

もし、法律でOKになったら、コムスは2人乗り仕様も作れるんですか。

加藤:実は今、超小型モビリティ認定制度で運用されている2人乗りのコムスも4台だけあるんです。縦に2人並んで、荷物を置くところに人が乗るタイプです。ただ実際にお客様に使っていただいて使い勝手を確かめていただいたところ、決して使いやすいわけではない。まだまだ改良の余地はあるな、というところです。
そう考えると、2人乗り仕様を作るのであれば、現在のコムスをベースというよりは、もう少しサイズを大きくして、新しくつくるほうが良いでしょうね。

2017年の東京モーターショーで発表したワンダーカプセルコンセプト。こちらは横に2人が並ぶ
これから超小型モビリティは面白い時代になりそうですね。

金高:新しい形という意味では、現在の超小型EVは過渡期だと思っています。学生のときにクルマのデザインの歴史を調べたりしましたが、極端にいうと、クルマって100年前に偶然アメリカで石油が出たから今のカタチをしているわけですよね。
環境が変わって中身が変われば、従来の延長線上ではくて、ガラッと変わる進化が起きるはず。デザイナーとしてはそこに期待しています。

今、やっと100年に1度の変化が起ころうとしています。そう考えると、コムスでもまだ普通なくらい。「これ、ほんとにクルマなの!?」というようなクルマがでてくると面白いですね。

ありがとうございました。

取材を終えて(TD編集部:出雲井)

日本発の超小型EVとして、実に18年にもわたって販売を続けているコムス。まだビジネスとして大成功、という領域にまでは達していないかもしれないが、それでも「日本に必要なモビリティ」を目指してモデルチェンジやマイナーチェンジをしながらつくり続けている姿勢には頭が下がる。

コムスに試乗してみて強く感じたのは、外と中がつながっている感覚だ。インタビューでも「よく歩行者に話しかけられる」という声があったが、外の世界を遮断するのではなく、その一部となって移動するコムスだからこそ、周囲の人に威圧感を与えることなく街に溶け込めるのだろう。

「世の中の配達バイクが全部これに置き換わったら、きっといい世の中になると思うんですよね」という金高さんの言葉が印象的だった。

確かに、住宅地の狭い道路を、大きなクルマや不安定なバイクが走り抜ける代わりに、こんな小さなEVが静かに行きかうようになったら、すごくいい世の中になりそうだ。そんな想像をしながら取材を終えた。

この記事を読んだ方にオススメ