【連載】「ロボットがいる日常」をデザインするvol.1 暮らしになじむ、環境音楽のようなロボット

Jul 13,2018interview

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Jul13,2018

interview

【連載】「ロボットがいる日常」をデザインする vol.1 暮らしになじむ、環境音楽のようなロボット

文:
TD編集部 成木

ロボットデザイナーとして第一線を走り続ける、フラワー・ロボティクス社の松井龍哉(まつい・たつや)氏へのインタビュー。第1回ではロボットデザインにおける「ロボットとは何か」「デザインの工程」、そして「ロボットデザインにおいて大切にしていること」について聞いてきた。

ロボットデザインは製品コンセプトを形にし、事業計画を立てるところから

ロボットデザインの仕事の流れを教えて下さい。

そうですね。すごく現実的な話をすると、おおむね製品コンセプトが固まったら多くの関係者が理解できるよう製品の完成イメージをCGや模型などで作ります。映像などを作る時もあります。資金調達のための事業計画づくりも開始します。
「こういうものが僕たちの生活にふさわしいロボットだ」というビジョンを立て、事業をみるチームと一緒に製造計画、販売計画、売上計画にまで落とし込む。そして、クライアントや投資家にプレゼンテーションをします。プロジェクトとして成り立つことが決まると、そのロボットの開発に必要なエンジニアを集めてつくっていく、そんな感じです。

ミーティングの様子(フラワー・ロボティクス社HPより)。デザイナーというよりも経営者としての顔だ。
プロジェクトごとに違うエンジニアが必要なんですか?

はい。ロボットの用途によって必要な技術は全然違うので、そのロボットの開発に最適なチームを編成するために全く異なるタイプのエンジニアを集めなきゃいけないんです。
ロボットを一体つくるのに必要な期間分……3年だったら3年間の予算を計画しながら、エンジニアを集めます。
ロボットのエンジニアリングは7割くらいがソフトウェア開発なので、制御系のプログラマーがほとんど。あとは、回路設計ですね。そして機械設計者などが集まり、ロボットの中身をつくります。

もちろん他の会社との連携もありますよ。タイヤの部分はタイヤの得意な会社に外注するとか。ですから私たちはデザインオフィスというより、規模は小さいけどメーカーのような状況です。
今は共同開発用ネットワークツールも豊富ですし、より専門的なエンジニアとのネットワークも多様になりうちのような小さい会社でも自社開発ができるような時代になりましたね。エンジニアとの契約形態も色々とありますので法務の面でも顧問弁護士と一緒に枠組みを作ります。

お話を伺った松井さんのオフィス。柔らかに差し込む光が心地よい空間。
松井さんは機能設計にはどこまで携わっているのでしょうか。

僕は基本的には製品開発のリーダーという立ち位置です。全体の意見をまとめながら仲間のエンジニアたちと議論して、作り込んでいきます。
建築家の設計プロセスと一緒で、様々な専門家の意見をまとめ上げて用途を決定していく事が僕の大事な仕事です。
多くの意見をまとめるプロセスの中では僕の意見が通らない事もありますが……、最終的には僕が方向性を決定します。そして、その決定事項に従ってエンジニアが開発を進めていきます。

開発プロセスは家電製品や自動車とほぼ同じです。最終的な大きさや販売価格を決めて、まずはエンジニアと一緒に作ってみます。
次に、実際に動くものを作って実験していきます。どんな空間に置くのかとか、何時間動くと充電が切れてしまうとか、仮説検証もたくさん行います。実験をするたびに3、4回はカタチが全部変わりますね。そうしたプロセスを経て、だんだんと「最適化したカタチ」ができ上がっていきます。

「最適化したカタチ」ができあがったら?

量産に向けて部品の調達を行います。センサーはあそこの会社から、ネジはこの会社から……といった具合に。
そうやって工場に製造ラインをつくってもらうための準備をしていきます。 完成品が出来上がったら次は販売のための準備です。

企画から販売まで全て手がけるんですね。

はい。パッケージデザインまでやりますよ。
ロボットのデザインの場合はどちらかというと経営者的な立ち位置で、オールラウンダーで(笑)。全部にかかわる必要があるんです。

実際「らしくない」ですが経営者ですし、実務面での経営をサポートしてくれるスタッフもいます。
ロボットデザイナーやプロダクトデザイナーがメーカー経営も手がけるというのはピンとこないかもしれませんが、やり方を変えれば出来ないこともない。
ファッションデザイナーなら、デザイナーが経営者というのは想像しやすいのではないでしょうか。商品である洋服を作りながら全体の世界観であるブランドも作っていますよね。

お金儲けできるかどうかだけを事業の判断軸として持ってはいませんが、世界観を築くテクニックとしてビジネスの計画は大切だと考えています。しかし、細かい事よりビジョンがクリアであるかどうかを大切にしています。

ロボットの役割を決定する

松井さんの役割はかなり広範囲に及んでいる印象を受けます。「ロボットデザイナー」としての松井さんが手がけているのはどの領域なんでしょうか。

僕が一番大切だと思っているのは「ロボットの『役割』を決定する」ことです。
会話ができるか、パーツが光るかというような細かな機能面ではなく「何の役に立つのか」という問いに対する答えをデザインすることです。
言い換えれば、用途を決定し形を具体的に作ることです

その「役割」や「用途」をたくさんの人に理解して共感してもらうために完成イメージを描くのがデザイナーとしての最初の仕事です。 スケッチやCGだけでなく、模型を作る場合もあるし、映像やデモ機をつくることも。
そういうことをしながら、少しずつみんなの認知を広げていくという感じですかね。

『Pallete』の実際のインスタレーション。
環境音楽のようなポジショニングを目指したい

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