【連載】「ロボットがいる日常」をデザインするvol.1 暮らしになじむ、環境音楽のようなロボット

Jul 13,2018interview

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Jul13,2018

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【連載】「ロボットがいる日常」をデザインする vol.1 暮らしになじむ、環境音楽のようなロボット

文:
TD編集部 成木

ロボットデザイナーとして第一線を走り続ける、フラワー・ロボティクス社の松井龍哉(まつい・たつや)氏へのインタビュー。第1回ではロボットデザインにおける「ロボットとは何か」「デザインの工程」、そして「ロボットデザインにおいて大切にしていること」について聞いてきた。

環境音楽のようなポジショニングを目指したい

松井さんがロボットのデザインを考える上で大切にしていることは何でしょうか。

ロボットそのものよりも、ロボットが関わってくる「生活」が大事だと考えているので、なるべくその場に溶け込んで主張しない、ということを大切にしています。
生活の中にロボットが入っていっても「もともとここにあった」と思われるくらい存在感がない、たとえば環境音楽のようなポジショニングを目指しています。

珍しいものって、珍しければ珍しいほどすぐ飽きちゃう。で、飽きちゃってもちゃんと使ってもらうというのが大事なポイントなので。
みんながびっくりしないように、いかにも「最初からあった」みたいなところを目指して作っていくことが結構重要なんじゃないかなって思います。

例えば先ほどご紹介したマネキン型ロボット『Palette』の例で言えば、変な顔がついてたり、ロボット自体がかわいくて目立つ、なんてことになるとちょっと話がずれてくる。
このロボットの役割は「洋服を一番美しく見せること」。その上で「お店などの空間の中で邪魔しない」こと。
これは最初にルイ・ヴィトンの店舗に設置してもらったんですが、設置にあたっては場に馴染ませることを徹底的に考えました。ルイ・ヴィトンのファッションショーや当時のコレクションのテーマなどを見てあらかじめ動きのプログラムをしたりね。

Paletteが設置されたお店のショーウィンドウ。(フラワー・ロボティクス社HPより)

「その場に溶け込むデザイン」と「ただ単に地味なデザイン」の違い

「その場に溶け込むデザイン」と「ただ単に地味なデザイン」には違いがあると思うのですが、その違いってなんだと思いますか。

「生活と機能の境界線をカタチにしたもの」であるかどうかだと考えます。
ロボットのデザインをつき詰めていくと結果的に余計なものが削ぎ落とされてシンプルになっていきます。それをどこまでも極めると、生活と機能の境界線が見えてくるんですよね。
生活、機能、予算、さまざまな制約の境界線、接点がカタチになったものが、その場に溶け込むデザインに繋がっていきます。

削ぎ落としていくプロセスについて、もう少し具体的に教えていただけますか。

そうですね、例えば一番新しいところだと開発中の『Patin』(パタン)を例に挙げて考えましょうか。
これは私たちの企業ビジョンである「ロボットを日常の風景にすること」を具現化したロボットです。これまで手がけてきた展示用・商業用のロボットとは違い、「暮らし」に役立つ家庭用ロボットとして本格的な普及を目指しています。

自律移動する本体部分に照明や植栽などの「サービスユニット」が接続できるようになっています。

Patinにも、人工知能を搭載しています。
ロボットの第一の面白さは「自分で考える」こと。第二の面白さは単純に「動く」こと。そこで、Patinをデザインする際には、この2つの特徴だけに注目しました。

『Patin』。利用シーンや目的によって上部の「サービスユニット」は付け替えることが可能。

「自分で考える」「動く」の部分をどうやってデザインしていこうかなあといろいろ考えていったら「足だけにしてみたらどうだろう」と思いついたんです。でも、足だけ動いてもおばけみたいだなということで、靴にしちゃうことになって(笑)。
Patinというのはフランス語でスケート靴を意味します。スケート靴が部屋の中でくるくる回ってたら、そんなに目障りじゃないしかわいいかな、と。そこに空気清浄機や扇風機など、動くことで利便性が増す機能をくっつけたんです。

実は空気清浄機って、置いてある場所によっては半径約1メートルくらいしか空気をキレイにしてないんです。でもロボットなら空間の情報を蓄積して、自分で移動してより広い範囲の空気のキレイにすることができます。例えば花粉の時期には花粉が溜まっている場所へ移動してくれる、とか。
扇風機などの他のユニットも、それぞれ自分で移動することによるメリットを持っています。

さて、ご質問の「デザインを削ぎ落としていく」プロセスですが、まずPatinには狭い場所にも入って行きやすいように小回りのきく特殊なタイヤを使いました。ここを決めるとモーターの大きさもカタチも決まってきます。モーターを交互に4つ入れて、そこから車輪とセンサーを配置して、ユニットを接続するUSBをつけて……こうして一つ一つ積み重ねて削ぎ落としてカタチができていく
決して、完成形のデザインイメージが神様からポンと降りてくるわけではないんですよ。

何度も積み重ねて、削ぎ落とす。そのプロセスを経たデザインは機能性と美しさの両方を兼ね備える。
実験を繰り返して何度も作り直すと、何が正解かわからなくなりませんか。デザインの最終的な決定はどのように下すのでしょう。

もちろん機能面・デザイン面の両方を納得いくところまで考え抜いて決めるわけですが、趣味で作っているわけではないので、マーケティング的な視点でも見て決めます。いろいろとこう……投資家の方々にも説明できなくちゃいけないから(笑)。
ちゃんと売れるか、販売に向けた戦略があるかどうか、価格と機能のバランスも含めて、全体でちょうどいいところを見つけていきます。

ありがとうございます。デザイナーとしての立場だけでなく、経営者やマーケターの立場からもデザインを見つめている松井さん。松井さんの目指しているものはどうやら「デザイナー」という枠の外にあるような気もしてきました。次回はその辺りについてより深く教えてください。

※「【連載】『ロボットのいる日常』をデザインする vol.2 」は、7/20(金)更新予定です。

松井 龍哉(まつい・たつや)

フラワー・ロボティクス株式会社代表取締役社長/ロボットデザイナー。 1969年東京生まれ。91年日本大学藝術学部卒業後、丹下健三・都市・建築設計研究所を経て渡仏。科学技術振興事業団にてヒューマノイドロボット「PINO」などのデザインに携わる。 2001年フラワー・ロボティクス社を設立。ヒューマノイドロボット「Posy」「Palette」などを自社開発。現在、自律移動型家庭用ロボット「Patin」を開発中。2017年よりヨーロッパ各地の美術館/博物館にて開催される巡回展”Hello, Robot”展に出展中。 ニューヨーク近代美術館、ベネチアビエンナーレ、ルーヴル美術館、パリ装飾芸術美術館等でロボットの展示も実施。 iFデザイン賞(ドイツ)red dotデザイン賞(ドイツ)など受賞多数、日本大学藝術学部客員教授、グッドデザイン賞審査委員(2007年から2014年)。

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