【連載】代官山 蔦屋書店 モーニングクルーズ誕生秘話(後編)世界観を作り上げるには「トライ&エラー」しかない

Jan 25,2019interview

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Jan25,2019

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【連載】代官山 蔦屋書店 モーニングクルーズ誕生秘話(後編) 世界観を作り上げるには「トライ&エラー」しかない

文:
TD編集部 青柳 真紗美

代官山 蔦屋書店「クルマ・バイクコーナー」の清野龍太さんへのインタビュー。後編では「モーニングクルーズ」をはじめとする「企画の生み出し方」にフォーカスしました。「モノを売る」のではなく、「場の提供」が自分たちの強みだという清野さん。そこには「活気のない百貨店」と「想いのこもった専門店」の違いがあるといいます。店舗経営やコミュニティ運営に関わる全ての方、必見の内容です。

「活気のない百貨店」と「想いのこもった専門店」の違い

もう少し企画作りそのものに踏み込んでみたいと思います。
企画する上でのルールとか、ターゲットのイメージなどはあるんですか。

ないですね。先ほどの話でも出ましたが、最近は「自分が楽しいと思うかどうか」を一番大切にしています。お客様はきっとこれを楽しいと思うだろうな、自分も面白いと思うだろうな。そんなイメージが浮かべば、やります。

ただ、ルールとまでは言いませんが、クルマやバイクの知識量で勝負する気はありません。クルマに詳しい人は星の数ほどいますから。
じゃ自分たちがやることは何だ?  というと……僕たちの場合は、「場の提供」なんですよね。

代官山T-SITE内にはレストランやカフェ、輸入自転車やカメラ、海外製玩具などの店が軒を連ねる。子供やペットを連れた人も多く、穏やかな空気が流れている。
場の提供。モノを売ることではなく。

店内を見渡せば、様々な売り物があります。本があって、グッズがあって。ここはそれらを組み合わせることができる数少ない場所であり、それが僕らの強み。
モーニングクルーズをきっかけとしてクルマを集めて、時には企業さんにも協力してもらいながらフェアを作って、見てもらって、トークイベントをやって……。その一連の流れの中でお客さんに楽しさや、気付きや驚きを持ち帰ってもらう。その場を提供しています。

ただ、そこでどんな風に楽しんでもらうかは基本的にお客様任せです。私たちからも提案できればと思っていますが、あくまでも主役はお客様で、楽しみ方も千差万別。
モーニングクルーズはその代表的な例ですね。毎回様々な化学反応が起きていて、だからこそ続いていると思います。お客様とスタッフが一緒に場を育てていく楽しさがあることが、コミュニティとして続く秘訣なのではないでしょうか。

それは、「商品を揃える」「販促につながるイベントをする」といった、従来の店舗運営のアプローチとは全く違いますね。

一つ言えるのは、「活気のない百貨店」と「想いのこもった専門店」の違いに近いのかな、と。もちろん全部がそうだとは言いませんが、モノがたくさんあっても活気がないお店って、スタッフが立っていても「いるだけ」なんです。
商品が置いてあって、スタッフもいるだけ。そうするとお客様には何にも伝わりません。どんなに品揃えが良くて魅力的な商品を陳列しているところでも、「モノがあるだけ」「人がいるだけ」の場ってなんだか楽しくない。必要最低限のものは買うけど、ただそれだけ。

一方、想いのこもった専門店には、商品だけじゃなくて、提案がある。そこが境目じゃないですか。「なるほどな」とか「どういうこと?」とか、感情が動くわけです。それがあるかどうかが、大きな差につながると思います。

売り場には子ども向けの書籍や雑貨も。宝探しのような気分で撮影した。

選書に当たって心がけていること

この売り場に訪れる人たちと清野さんたちの間の信頼関係は、「面白い提案をしてくれる」という期待から始まっているのかもしれませんね。

信頼関係はあると思いますね。普通にお客様とメシを食いに行くこともあります(笑)。これは単に、クルマ好き同士としてですが。

店内を見渡すと、洋書も多いし見たことない本ばかりです。サービスマニュアルやメンテナンスのための説明書、整備書まで……! 選書に当たって心がけていることはあるんですか。

僕は和書を担当しているんですが、全部を揃えられるわけではないので「クルマ好きの人が読んでも面白いと思えそうかどうか」をイメージして選書しています。「売れ筋だから入れる」という判断はしていません。だからクルマの本ならなんでも揃っているようでいて、扱ってないものも多いです。

例えば『痛車』や『レースクイーン』。
一つのクルマの楽しみ方だと思うんですが、うちだと提案ができない。この売り場にあっても、正直、売り場の中でまとめられる自信が自分にはない(笑)。

世界観を保ちながら場を作るために必要なこと

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