【連載】「デザインに固執しないデザイナー」が見ている世界vol.3 今、久下さんの目に映るもの

Mar 02,2018interview

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Mar02,2018

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【連載】「デザインに固執しないデザイナー」が見ている世界 vol.3 今、久下さんの目に映るもの

文:
TD編集部

デザイナーに固執せず3つの肩書きを持ちあわせる久下氏。最終回のvol.3では、彼の目に映る世の中のあれこれについておしゃべりしてきました。久下さんのお話を聞いていると、デザイン・テクノロジー・経営はすでに融合した世の中だと思わずにはいられません。むしろデザインという領域「のみ」にとどまることが不自然なようにさえ、思えてきます。さて、あなたはどう思いますか?

前回の記事:「vol.2 造形力よりも大事なこと」

久下さんは今、どんなことを考えてる?

いよいよ最終回を迎えました。vol.1、vol.2とテーマを決めてお話を聞いてきたのですが、今回はあえて「これ」と決めずに、久下さんが今見ているものや考えていることについていろいろおしゃべりしたいです。

久下:はい、よろしくお願いします。

「T字型人材になろう」みたいな話ってどこに行っても聞きますが、実際、領域越境型のデザイナーって今後増えてくるんですかね? 例えば久下さんが自力で開拓したスキル(ビジネス、テクノロジー、デザイン)をまとめて大学が教える時代がきたりとか……。

現状ではそのような動きはあまり見られませんが、今後は増えてくるのではないでしょうか。イギリスのRCA(ロイヤル・カレッジ・オブ・アート)でデザインとエンジニアリングを一緒に勉強できるコースがありますが、今後はそれにプラスしてビジネスの職能をいれるような学校が出てくるのではないかと予想しています。
ビジネス・テクノロジー・デザインをバランスよくやっているようなところはスタンフォードのd-schoolぐらいしか思いつかないですね。三位一体でやっているところはまだないかもしれません。ただ、中国から出てくる可能性はあるかもしれませんね。

中国! デザインだとヨーロッパやアメリカが強いイメージがありましたが、中国ですか。

今、中国のモノづくりは世界で最も速く進化しているのではないでしょうか。数年前まではクオリティなら日本、と言われていましたが、現在ではスピードもクオリティも中国のほうが圧倒的に上ですね。

久下さんはお仕事上、中国にもかかわりが深いと聞きました。

はい。特に深圳はすごいですよ。みんな頭が良いし、社会自体の進み方もとても早い。どんなウェブサービスを出しても8億人とか10億人の規模であっという間にユーザー数が集まる。だから企業にもあっという間にお金が集まるし、優秀な人材も集まる。
中国の大学を卒業した人はみんな、アメリカでトップ10のデザインスクールに行って、地元に帰ってくる。そういう子のほとんどが資産家で、そのままスタートアップを立ち上げても、最初から専任の従業員がいたりする。日本のスタートアップとは資本の規模が半端なく違うので、まともに勝てるわけないと思った方がいいです。

最初から専任の従業員……。でも、考えてみると今話題のInsta360もドローンのDJIも深圳発ですね。「世界最速で成長している街」と言われているとか。

韓国の美術大学も工業デザインのクオリティがとても高いです。サムスンは加えてTOEIC900点台が入社試験の足切りと聞きます。
アウディTTのデザイナーだったペーター・シュライヤーさんがKIAのCEOになったり、名だたるデザイナーは、お金のある中国・韓国に行っています。
そんな状況を見てから国内に視点を戻すと、日本の企業はぬるいと感じざるを得ません。このままではどんどん差が開いてしまうのではないでしょうか。

日本はデザイナーの立場が高すぎる

ぬ、ぬ、ぬるい、ですか。結構ガツンときますね(笑)。

日本ってよくデザイナーの立場が低いって言われますよね。しかし、僕は逆だと思っていて、デザイナーの立場が高すぎる企業も多いのではないかと思っています。

デザイナーの立場が高すぎる。というと。

もっと丁寧に言うと、「かたちのデザインしかやらないデザイナーが頼られすぎている」ケースが多いのかなと。

例えば家電メーカーの中には、デザイナーはデザインだけやっていればよくて、実現までの各種設計とかお金の計算とかは周りの人たちが全部やってくれる会社もある。デザイナーの仕事の範囲は会社によってピンキリですけど、実際はお金の計算まで一緒に考えた上でモノのデザインする方が実現力は高く、強くなるのに、「ここからはこっちでやるよ」って甘やかされているように感じることがあります。

もっとお金の話まで踏み込んだ方が、結果的にデザイナーの領域も広がりそうですよね。

デザイナーたちは「これをつくりたいからお金を取りに行く」みたいな話はあまりしない。例えばソニーやパナソニックだって、戦後に泥水をすすりながらも何かを作った人たちが立ち上げてきた会社なのに。
そういった野武士的なマインドが減っていることが、日本のデザイン業界のボトルネックになっていくかもしれません。

久下さんは他のインタビューでも、「カタチだけつくりたいデザイナー」と「デザインを描けるけど新しいことをしたいデザイナー」、両者が共存することは難しいとおっしゃっていますね。

「カタチだけつくりたいデザイナー」たちの中にはここから先は私たちの仕事じゃない、とバイアスがかかっているんだと思います。何かをつくりだすって、カタチをつくることだけじゃないんですけどね……。

そもそもデザイナーっていうのは、大きなビジョンやコンセプトを描くのが得意な人で、それを伝えるためにスケッチやカタチをつくるっていうスキルを身につけている。でも、これを一番重要とする新規事業の産出分野にあまりデザイナーが入ってこないんですよ。

デザイナーが活躍できる領域はまだまだたくさんあるのに、現状に甘んじてしまっている……。海外のデザイナーに仕事が奪われていく、という可能性もあると思いますか。

海外というよりも、仕事自体がなくなるということもあるでしょうね。
例えばUIデザイン。デザインインターフェースのガイドラインはアップルやGoogleが作っているしログもとれるので、コンバージョンレート(成約率)が上がるデザインを自動で生成できてしまいます。そこに人間が入る余地もなければ必要もない。もし人間がやるとしても、実際にソースコードをかけるプログラマーが、UIデザインを学んだ方が早い。

あとはクルマのスタイリング。家電もそうですけど、毎シーズン新しいデザインを出すのは、リソースの無駄遣いだと思います。
極論ですが、本当にイノベーションを起こしたいなら、デザイナー全員が既存の仕事をやめて、そのリソースを全部新しい技術の開発とかに注ぐべきだと思うんですよ。
それぐらいデザインの業界って切羽詰まっているはずなのに、小さくてぬるい業界だから、厳しい話があまり出てこないのかもしれません。

デザインやスタイリングは、もう話題に上らない
 
 

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