【連載】「デザインに固執しないデザイナー」が見ている世界vol.3 今、久下さんの目に映るもの

Mar 02,2018interview

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Mar02,2018

interview

【連載】「デザインに固執しないデザイナー」が見ている世界 vol.3 今、久下さんの目に映るもの

文:
TD編集部

デザイナーに固執せず3つの肩書きを持ちあわせる久下氏。最終回のvol.3では、彼の目に映る世の中のあれこれについておしゃべりしてきました。久下さんのお話を聞いていると、デザイン・テクノロジー・経営はすでに融合した世の中だと思わずにはいられません。むしろデザインという領域「のみ」にとどまることが不自然なようにさえ、思えてきます。さて、あなたはどう思いますか?

バイオとAIがおもちゃになる

では自動車業界の話からちょっと離れて……、久下さんが今、注目している分野は何かありますか。

ソフトウェアの次に破壊的イノベーションが来るのは間違いなく、バイオの世界ですね。DNAシーケンサーっていう、DNAを解析する機器があるんですけど、これが今、どんどん安くなってきているんです。といってもまだまだ一般の人にとっては高いんですけど。

バ、バイオですか。

そう、バイオ。パソコンが安くなってITが普及したように、DNAシーケンサーがこれからもっともっと安くなってデスクの上に置かれるようになったら、誰でも遺伝子やバイオの研究ができるようになる。
そうしたら子供たちは何をやると思います?

バイオがおもちゃみたいになっていく……バイオで遊ぶとか?

はい。ニコニコ学会で「培養肉」を作る素人だって出てきているし、技術がそこに追いついてきたって事はバイオハックも身近なものになるかもしれない。

なんかSFみたいですね、その話。でももう現実になってきているのか。

もうすぐそこまで来ていると思います。そしてこの分野はアジア勢がアプローチの独自性を出しやすいと聞きます。滋賀大は緑色に光る猿をつくっていましたね。ここからが面白いですよ。

アジア勢が。それってなぜなんでしょう。

バイオの分野の発展において、一番障壁になるのが「倫理」だからです。
遺伝子を操作するとか、細胞をいじくるっていうのは西欧宗教的にNGも多い。筋ジストロフィー患者遺体の頭部移植手術も欧米では倫理上NGだったため中国のハルビン医大で行われたなんていう話もありましたね。
今、バイオのジャンルが注目されているのは治験が楽になるからです。ラットで成功しても、違う生物なので、人間だと死ぬ可能性もある。その実験を部分的にでもクローンでできたりするとリスクも低くなる。いずれ臓器も、コンビニやアマゾンみたいなところで買えるようになると予想しています。

バイオが本当におもちゃになるのはもっと先かもしれないけど、こんなのはもうあるよ。
東京大学 竹内研究室の「細胞組織の人工的構築」という研究をもとに作られたスマホゲーム。
わりと本格的に学習できちゃいます。
なんだか今まで私たちが生きてきた世界とは別の世界に変わってしまうような。

そういう意味では、AIも世界を変えていく技術。この分野も間違いなく面白い。
AIの基礎技術は飛躍的に高まってきて「何のためにAIを使うか」っていう発想ができるかどうかが、勝負の時期にきています。
僕自身も、この分野で何か面白いことをしていけたらと思っています。

 AIが当たり前になった時、デザインはどうなるんでしょうか。

個人的には、アイアンマンの映画でスーツをデザインするシーンはすごく納得感があると思います。主人公であり開発者であるトニー・スタークが「スーツのパワーをアップする」って言うんですよ。そうすると、J.A.R.V.I.S.っていう人工知能エージェントが3次元のCADデータを作る。目的さえわかれば、計算とコード設計してスタイルなんて出せるので、トニー・スタークが決めるのは色だけ。あとはJ.A.R.V.I.S.が作ってしまうんです。

そんなふうになったとき、デザイナーはどうしたら良いでしょうか。

デザイナーの仕事は10年の間だけでもどんどん変わってきたし、これからも変わり続ける。昔のインダストリアルデザイナーからしてみたら、コンピューターCADも、3Dプリンターも、ズルみたいなものですよね。でも、こういう技術や社会の変化についていくことが、これからの時代でデザイナーとして生きていく僕たちにとっては必須なことだと思います。
一方で、クラシカルなデザインの仕事も簡単にはなくならないと思う。だから、領域横断みたいな仕事をしたいと思う人は、一つのスキルをまずは極めた上で、クラシカル面と先進的な面、両方を磨いていくことが大切だと感じます。

今日お話ししてきたことって、裏を返せば「デザイナーの可能性」を心の底から信じている久下さんならではの提言の数々だと思います。
次代のデザインに携わる人たちに、何か一つでも気づきを得てもらえたらいいなぁ。ありがとうございました。

久下玄(くげ・はじめ)

デザイナー/エンジニア/ストラテジスト。東京造形大学卒業。家電メーカーのプロダクトデザイナーを経て2009年にtsug,LLC創業。事業戦略、技術開発、製品デザインまで手がける統合型デザインで、国内外の企業のイノベーションプロジェクトに携わる。2012年Coiney,inc創業に参加し、以後プロダクト開発を担う。2010~2013年まで慶応大学SFC研究所にて研究員として通信とデザインの研究および教育に携わる。近作に脳波ヘッドフォンmico(neurowear)やスマホ決済サービスCoiney(コイニー)など。受賞多数。近著は「リアルアノニマスデザイン」(学芸出版社・2013年・共著)。

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