日本を代表する次世代乗り物メーカーを目指すglafitが「開発しない」ワケ

Jun 21,2019report

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Jun21,2019

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日本を代表する次世代乗り物メーカーを目指す glafitが「開発しない」ワケ

文:
TD編集部 出雲井 亨

折りたたみ自転車の姿をした電動バイクの「glafitバイク GFR-01(以下glafitバイク)」。試乗編に続き、glafit代表取締役の鳴海 禎造(なるみ・ていぞう)氏のインタビューをお届けする。なぜハイブリッドバイクを作ることにしたのか。これからどんなものを作っていくのか。そして強烈な少年時代のエピソードとは。興味深い話が次々と飛び出した。

日本で成功してから海外へいきたい

規制が緩く、すでにe-bike人気に火がついている海外で販売した方が軌道に乗せやすいのではないですか?

僕からすると、日本はグローバルの中の一地域であるという認識なんですね。日本国内に例えてみると、まず東京にお店を出して、それがうまくいったら全国展開しましょうという順番です。
グローバルでも一緒で、日本でうまくいったモデルを海外に持って行くなら納得できます。でも、まだ日本でもうまくいっていないのに海外に行くのは違うかな、と。

単純に(海外で)売れるかどうかで言えば、今のままでもたぶん売れると思います。ヨーロッパあたりだと、うちと同じようなベンチャーがクラウドファンディングで10億円以上集めていますから。それなりのマーケティングをすればいけるでしょう。
ただ、僕たちが目指していることの本質は「乗り物の量産」です。そう考えたときに経験を積むべきことはまだまだ多い。日本のマーケットに耐えうる商品を作ることができれば、海外でもいけると思っています。

それは、日本の方がハードルが高いからですか?

はい。ここは、どっちが正攻法なのかは分からないですね。すでに市場が見えている海外で成功したら難しい日本のマーケットにステップアップできるのか。もしくは難しい日本で普及させることができたら、海外に展開できるのか。どちらの考え方も甲乙つけがたいんですけどね(笑)。
僕たちは日本人なので、まず日本で成功したい、と。そして日本のブランドとして、海外に進出したいと思っています。

現在、生産はすべて中国で行なっているんですか?

今は中国の現地法人等で生産しています。ただ、近いうちに一部、国内生産に切り替えられたらいいなと思っています。(編集部注:glafitはインタビュー後の2019年4月9日、和歌山県内生産実現に向け、和歌山県及び和歌山市による企業立地に係る3者の協定を締結。同県内にあるノーリツプレシジョンの敷地内に新工場を開設し、増産・新製品開発の拠点とすることを発表した)

ただこれは単純に日本で作るか中国で作るか、という二択ではないんです。「glafitバイクを『オール日本製』に」といわれても、それはかなり厳しいです。日本に全ての部品メーカーがあるわけではありませんから。
モーターひとつ取っても、このサイズのモーターを作っている会社は、今は日本にはありません。もちろんやろうと思えば作れるでしょうけど、すべてゼロから開発・設計して一個ずつパーツを量産したら、結局今までの自動車メーカーのアプローチと変わらなくなります。つまり量産は数万台、数十万台というラインになってしまう。
開発に時間がかかり、コストがかかり、損益分岐点が上がり、商品の価格も上がる。それって本当に正しいことなのか分からなくなります。

一方、中国では必要な部品はほぼすべて市場に出回っていますから、必要なものを選べばいい。いわば組み立てパソコン方式ですよね。
中国や台湾、香港を含めた中華圏の展示会に行くと、ありとあらゆるパーツがそろっています。glafitバイクは約200個のパーツを使っていますが、フレーム、ギヤ、スプロケットなど、それぞれに専門のメーカーがあるんです。例えばギヤメーカーならギヤばかりを、ものすごい種類を作って展示しているわけです。僕たちはそうした展示会を訪れ、パーツを吟味して、イメージを膨らませています。

折りたたんだ状態のglafitバイク

glafitバイクで、どうしても譲れなかったこと

パーツを組み合わせて作っていく中で、「glafitらしさ」というのはどんなところに現れているのでしょうか。例えば指紋認証によるロックは特徴的ですよね。

あれは、他のメンバーにめっちゃ反対されたんですが、僕が無理やり押し切ったんですよ(笑)。僕は指紋認証が大好きで、ノートパソコンも絶対指紋認証付きのを選んでいるほどです。スマホも一度iPhone Xにしたものの、指紋認証がないのがイヤでイヤで、またiPhone 8に戻しちゃいました。
まあこれは一長一短で、手が乾燥すると認識してくれず、「指をなめてください」とか、ユーザーの方にご不便をおかけしている部分もあります。それでも、ちょっと未来を感じさせるエッセンスは入れたかったんですね。

指紋認証は鳴海氏のこだわりのポイントだったという。
ほかに譲れなかったポイントはありますか?

glafitは3人で作っていて、僕はガジェット好き。だから指紋認証は譲れなかった。
ほかにバイク・自転車好きのエンジニアもいて、彼は「カスタマイズのしやすさ」にこだわりました。ですからglafitバイクは最初からある程度カスタマイズしやすいようになっているんです。例えばフロントのカゴやセンタースタンドは自転車のパーツをそのままつけることができます。他にもキャリア、ペダル、クランプ、シートなども市販のパーツで自由にカスタマイズができます。

一つ一つ、各部を丁寧に説明してくれた鳴海氏。とはいえ直感的な操作感で誰にでもすぐ運転できる

モノを与えず、コトを与えよ

鳴海さんは、若い頃からいろいろなビジネスを手がけてきていますが、どういうきっかけがあったのでしょうか。どのような幼少期を過ごしたのだろうかというところに興味があります。

僕の家には、本当にモノがなかったんです。小さいときからテレビがない、電話もない、ステレオもない、こたつもない、クルマもない。とにかく貧しい家だと思っていました。
当時は本当にイヤで仕方がなかったです。両親もいつもボロボロの服を着ていて、家もそんな状況ですから家に友達を呼ぶのも避けていました。まわりは裕福な家庭ばかりで学校に行っても友だちの話題についていけないことも多く、それがまた、すごくイヤでした。

親にいくら言ってもダメだと言われるだろうとは気づいていたので、小学生の頃よくやっていたのが、粗大ゴミの中からテレビを発掘して修理してみたり、電話も自分で工事してつけてみたりという、いわゆるDIYです。いろんな人に聞いて教えてもらいながら。
とにかくモノがなかったので、モノがほしくてほしくて、気がつくと物欲の塊になっていましたね(笑)。

高校は、僕が進学する年にできた和歌山県内で一番新しい学校でした。当時学費が県内一高かったんですが、和歌山県ではじめて冷暖房完備だったんですね。うちは家にクーラーがなかったから、それが一番の魅力で選びました(笑)。
余談ですが、その学校には当時から進学校を目指すという明確なビジョンがあり、25年経った今では和歌山県で2位の高校になっています。周りの人に学校名をいうと「頭いいんですね!」と言われるんですが、僕がいた当時はまったく勉強しない学校だったので……ちょっと得した気分です(笑)。

とても厳しい学校で、バイトは禁止。見つかると即停学になるほどでした。でも裕福な家庭の子ばかりだから、親に買ってもらって皆いいものを持っているわけです。そんな環境にいると僕も欲しくなるじゃないですか。結果的に僕が取った行動が、モノを売ってお金を増やし、自分の好きなものを手に入れるという、商売の原点のようなことだったんです。

ちなみに、僕はずっと自分の家が貧しいと思い込んでいましたが、よくよく考えてみるとなんか違う。小学校の頃から習い事、スポーツ、キャンプ、塾などに行っていたし、高校・大学は私立でした。妹も同じです。振り返ってみるとモノはなかったけど、コトにはめちゃめちゃお金をかけてたんですね。
この経験から、僕は子どもにモノを与えず、コトを与えるというのは非常に重要だなと思っています。モノがないことを何とかコトで解決しようとするようになります。また(人と自分に)極端にギャップがあると、それが強い欲求になります。自分は小学校の頃から一番上を見ていました。

例えば、僕が小学生の頃、ビックリマンチョコが流行っていましたが、金持ちの子供は箱買いするんですね。(カードゲームの)カードダスも流行りましたが、箱買いどころかあの機械自体を家に設置する子までいました。
そんな世界を見てしまうけど、当然自分は買えません。悔しくて、カードダスの機械を自作したこともあります。結局うまくできませんでしたが。その時に気づいたことは、ローラーの「送り」ってこんなに難しいのか、ということ。ローラーを使って機械からカードを1枚だけ出すのって、すごく難しいんです。
そうやって自分でいろいろ試してみて、発見をする。これが自分にとってはとても大きな財産になりました。

大手の製品から漏れる部分が必ずある

今後、glafitは三輪、四輪とモビリティを開発していくとのことですが、将来に向けて「こんな世界にしたい」という想いやビジョンはありますか。

今多くの人が思っている分かりやすい未来のモビリティ……例えばクルマが自動運転になるといった部分は、世の中の大きな期待を背負ってトヨタさんとかホンダさんといった大手が頑張っていますよね。でも、その隙間から漏れる部分というのがいっぱいあります。
「自動運転もいいけど、操る楽しさもほしいよね」とか。そういった中間領域だったり、隙間のニーズに応えること。さらに、それを楽しむ場を用意することも僕たちのミッションに入ってくるのではないかと思います。今まさに、社内でも議論しているところです。

これからglafitがどんなモビリティが出てくるのか、楽しみです。本日はありがとうございました。

取材を終えて

「開発してないんですよね」。インタビューの冒頭、glafitバイクの開発過程について聞きたい、と質問したときに開口一番、鳴海氏が発した言葉だ。
クラウドファンディングで国内最高額を達成するほどヒットしている商品なのだから、きっと開発の苦労話やこだわりポイントを聞かせてくれるだろうと思っていた筆者は、いきなり意表を突かれた。

glafitバイクは、とことん現実志向で作られている乗りものだ。デザインは折りたたみ自転車そのもので、街中で乗っても目立たない。シートの後ろに付けられたナンバープレートを見なければバイクだと気づく人も少ないだろう。中国で売られているパーツを組み合わせて作ったプロダクトだから、オリジナリティあふれる独創的な製品というわけでもない。

決して鳴海氏にこだわりがない、と言いたいわけではない。鳴海氏自身はクルマ好き、ガジェット好きで、インタビュー時もThinkpadにiPhone、ドキュメントスキャナのScanSnapなど、こだわりのガジェットに囲まれていた。だが、glafitバイクに関しては、製品自体に過度にこだわることなく、価格や日常での使い勝手、ビジネスとしての採算性といったところまで広い視野でバランスをとったからこそ、ここまで受け入れられたのだと思う。

作り手の思いを詰め込んだすばらしいクルマを開発したEVベンチャーが、量産にたどり着けずに苦戦している例は数多い。なかなか変わらない法制度に泣かされている会社もある。「一歩先」の未来を提案する先進的なプロダクトは、往々にしてユーザーや社会が追いついてくる前に行き詰まってしまう。
その点、glafitバイクは「半歩先」だ。誰もが見慣れている形をとりながら、ちょっと新しい体験を提案している。その絶妙なスピード感覚は、鳴海氏が15歳から商売をしてきた経験で培われたのだろう。次から次へと新しいものが出てくる東京ではなく、和歌山でビジネスをしてきたためかもしれない。

高齢者の暴走事故が社会問題となり、自動車の代替手段としてのモビリティは、かつてないほど求められている。2019年6月10日にはトヨタが超小型モビリティを含むEV戦略を発表するなど、いよいよ社会制度が大きく変わりそうな機運も高まってきたように感じる。そんな中、次にglafitがどんな提案をしてくるのか、楽しみだ。きっと少し新しくて、地に足のついたプロダクトになるはずだ。

※glafit オンラインストアはこちら

鳴海 禎造(なるみ・ていぞう)

glafit株式会社 代表取締役CEO。15歳のときから商売を始める。カーショップ事業、自動車輸出業を個人創業し、2008年法人化。自動車用品の製造・販売や、中国広東省・香港での現地法人設立などの事業拡大を経て、日本を代表する次世代乗り物メーカーとなることを見据えて2012年にメーカーブランド 「glafit」を立ち上げる。 2015年、和歌山県初の新電力事業者(PPS)となる和歌山電力株式会社の立ち上げに協力、取締役に就任。 2017年5月、glafitブランドとして初めての乗り物「glafitバイク」を発表。glafitは総額1億2800万円超とクラウドファンディングの資金調達額で日本記録を樹立した。2018年には第36回日本経済新聞社 日経優秀製品・サービス賞2017最優秀製品賞およびグッドデザイン賞を受賞。1980年和歌山市生まれ。

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